(5)
ゲームやスポーツ、ギャンブルと同じように、戦いにも「流れ」というものがある。
実際戦いに参加してみて、それがよくわかった。
思えば、この戦いの「流れ」はずっと敵側にあったのだ。
先行したロードラント王国の第一、二軍団は壊滅し、残されたアリス護衛軍も無限に湧く化け物の群れに飲み込まれ風前の灯。
起死回生の一策として強大な敵、ハイオークに戦いを挑んだものの、百戦錬磨の竜騎士が次々と命を落としていく。
戦力で優位に立っていたにもかかわらず、ロードラント軍がここまで追いつめられてしまったのは、結局、勝利の「流れ」を一度としてつかめなかったからだ。
が、逆に考えれば、実は勝利のチャンスはすぐそこにあるのではないか?
つまりこれまでの負の連鎖を断ち切り、どうにかしてその「流れ」をこちらに呼び込めば――
この圧倒的に不利な戦況をひっくり返すことも、決して不可能ではないはずだ。
僕とリナそしてエリックは、今まさに、その「流れ」を変えるわずかな切っかけをつかむため、自らの命を懸けようとしている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
殺到するコボルト兵を前にして、マティアスが叫ぶ。
「落ち着け! 二手に分かれろ!」
すぐさま竜騎士のうち十騎がハイオーク包囲網から離れ、コボルト兵の攻撃を食い止めるべく戦い始めた。
竜騎士は雑魚相手ならさすがに優位だ。
押し寄せるコボルト兵達を、次から次へと蹴散らしていく。
「さあて、副官殿がそろそろ仕掛けるぞ」
と、エリックが言った。
「いいか? その時が来るまでは、二人とも自分の身の守ることに集中しろ」
「わかった。でもエリックは?」
「だから心配するなって、俺は死なねーよ。それより見誤るなよ。一撃だ。最後のたった一撃を加えることが俺たちの果たすべき仕事なんだ」
僕とエリックが話している最中に、ハイオークは戦斧を左手に持ちかえ、右手で鎖をつかみぐるぐる回し始めた。
鉄球はたちまち宙に浮き、ブンブンと大きく円を描いた。
ちょうど鎖鎌に付いた分銅を扱うみたいな感じなのだが、それを大きな鉄球でやってしまうのだから、やはり恐るべきパワーだ。




