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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第四章 戦いの始まり
31/319

(9)

 と、その時――


「ユウトさん!」


 僕を呼ぶ声がした。

 リナだ。 

 そうだ、今はセリカなんかと油を売っている場合ではなかった。


「ユウトさん、どうしたんですか? 一人でぶつぶつ言って?」


 こちらに歩いてきたリナが、怪訝(けげん)そうな顔をして訊く。


「あ、いや。何でもありません――ただの独り言です」


「そうですか。――それよりアリス様からご命令があります。どうか魔法で負傷者の治療にあたってほしい、と」


「分かりました、すぐに行きます」


「あー、その子がそっちの世界のリナさんなんだ」

 セリカがヘッドセットの向うで言った。

「私と話しているのがバレたらまずいね。じゃあ頑張って。現実世界からあなたの戦いぶりをじっくり観戦させてもらうから」


「え!? ちょっと――!」


 そこで通信はプツリと切れた。


 くそっ。セリカの奴、観戦って――

 サッカーや野球の試合でもあるまいし、そりゃないだろう。

 こっちは命がけだというのに。 


「本当にどうしたんですか、ユウトさん?」

 リナが怒る僕を見て心配そうに言った。


「で、ですから独り言です。どうぞ気にしないでください。それよりケガした人の治療をしますね」


 僕は何とか気持ちを落ち着かせ、リナの案内で負傷者の元へ向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 戦況は一進一退だった。

 いや、むしろロードラント軍の兵士たちは圧倒的な数のコボルト兵相手に、かなり善戦しているようにも見える。

 なぜならコボルト兵の武器は粗末なうえ、戦略というものがまるでなく闇雲(やみくも)に突撃を繰り返すだけで、その点有利に戦いを進められているからだ。


 それでも負傷者は、僕の元へひっきりなしに運ばれてくる。

 加えてさっきの弓攻撃で出たケガ人もいる。


 僕は一人でも多くの人を救おうと、必死に『リカバー』の魔法をかけ続けた。

 だが、いくら白魔法の力に恵まれているとはいえ、それはかなりしんどい作業でもあった。


 回復者(ヒーラー)としてそれほどレベルが高くないシスターマリアが、重体のティルファに魔法をかけ続け、最後は魔力が尽き倒れてしまったのも無理はないだろう。


「おーい、ユウト、大丈夫か?」


 それからしばらくして、エリックがまた僕の様子を見にやってきてくれた。

 その横には、なぜかトマスもいる。


「あれ? トマスさん」

 僕は少し驚いて尋ねた。

「シスターのマリアさんたちが乗った馬車の護衛をしてたんじゃ?」


「それなら心配ねえって。馬車はもう無事逃げのびコノート城に向かった。で、こいつはそれを見届けてから取って返してきたんだ。俺らのことが心配だったんだとよ」


 と、エリックがトマスの肩に手を置いた。


「敵に囲まれる前にぎりぎり間に合ったが、まったく危ない橋を渡りやがって。ホント無茶な野郎だよ」


「へへ……」

 と、トマスは頭をかいている。


 うーん。

 少しでもみんなの力になろうと、わざわざ危険な戦場に戻ってきてくれるとは。

 この人、本当にいい人なんだ。


「さあてユウト、俺もちょっくらコボルトども相手に暴れて来るぜ。トマス、行くぞ」


 エリックの目に急に鋭さが戻った。

 剣を手に取り、全身に闘志を(みなぎ)らせている。


「ワカッタ」


 トマスの顔からも笑みが消える。

 どこに隠し持っていたのか、長さ5メートルはある強大な棍棒を片手で軽々持ち上げ、肩に担ぎ上げた。   



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 エリックとトマスの変容ぶりを見て、僕はドキリとしてった。

 やっぱり二人は戦争慣れしている。

 素は戦いを|厭わない戦士なのだ。


 では僕は?

 彼らと一緒に戦わなくてよいのだろうか?


 いくら回復役(ヒーラー)としての役割を果たしているとはいえ、自分だけ安全地帯にいるという事実は普通にうしろめたい。

 が、現実世界では虫一匹殺すのにも躊躇(ちゅうちょ)する僕が武器を持ったところで、敵を倒せるはずもなかった。


 それでも僕はエリックに言った。


「本当は僕も行って戦うべきだよね」


「なーに言ってやがる、おめーはいいんだよ」

 エリックが首を振る。

「ケガ人を治すという大事な仕事があるんだからな、それでいい」


「でも……」


「いいからそこで見てろ。さあトマス、いっちょ暴れてこようぜ」


 僕が何か言い返す前に、エリックとトマスはコボルト兵目がけ走り出した。



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