(10)
内心では後ろめたさを感じながらも、僕は傷ついた兵士たちの治療を再開した。
「ユウト。すげえな、あっという間に治っちまった」
「ありがとうユウト、本当に助かった」
治癒魔法をかけ終えるたびに、みんな本当に喜んでくれる。
僕が戦闘に参加しないことを責める人は誰もいない。
今はこれでいいのだろうか?
そう思いながらひたすら魔法を唱え続ける。
ただ無心に、一人でも多くの人を助けるつもりで――
「ユウトさん、顔が青いですよ。少し休んでください」
リナだ。
エリックとトマスに続き、僕を気遣って、アリスのそばを離れ様子を見に来てくれたらしい。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。みんなが戦ってくれているのに一人で休むわけにはいきません」
リナは貴族の娘で僕は単なる兵士。
身分の差は天と地ほどあるのに、そんなこと気にもしないで接してくれる。
いや、僕に対してだけじゃない。
リナは兵士たちみんなに分け隔てなくやさしい。まったく偉ぶらないのだ。
それはたぶん、この異世界では珍しいことだ。
「無理してはだめ。さあ、これを飲んで下さい」
と言って、リナは水筒を差し出した。
確かにこのままだと、自分もシスターマリアのようになってしまうかもしれない。
そう思って、僕は魔法を使うのをいったん止めた。
額の汗をぬぐい、水筒の水を一気に飲み干す。
冷たくてとてもおいしかった。
たったこれだけのことで、体力気力がずいぶん回復した気がした。
「ありがとうございます、リナ様。なんだか生き返った気分です」
「よかった。ユウトさん、ちょっと向うを見てください、アリス様も頑張られていますから」
リナの言うとおり、アリスは自分の白馬に騎乗して兵士たちを懸命に指揮している。
「弓兵よ前へ――陣の西側に攻撃を集中させろ!! 距離をよく測れよ。それと南側! 陣形が崩れているぞ。竜騎士はそちらに向かって援護しろ。負傷者は無理せず陣の中央へ!」
その姿は、二千の兵を束ねる指揮官としてなかなか堂に入っていた。
そんなアリスに一瞬見とれていると、リナがほほ笑んで言った。
「本当のことを言うと、実は戦いの指示はレーモン様が出して、アリス様はそれをそのまま伝えているだけなんです。――でも、この状況でみんなが希望を捨てないで戦えるのは、アリス様の存在があってこそですよね」
アリスのカリスマ性が成せる業なのか?
確かにレーモンの指揮は的確だろうけれど、普段は貴族面しているし、兵士たちに人望はなさそうだ。
「それじゃ、私は戻りますね」
空になった水筒を僕から受け取ると、リナはアリスの元へ戻っていった。
兵士たちの間にやけに大きな歓声が上がったのは、そのすぐ後のことだ。
「あの大男すげえな。すげー怪力だぞ」
「あっちで戦ってる奴も強ええ。あいつなんて名前なんだ」
もしかして――!
僕はみんなが注目している、円陣の西側を見た。
思った通り、エリックにトマスだ。
トマスは、長さ四メートルの巨大なこん棒をぐるぐると振り回して、押し寄せてくるコボルト兵をまとめて叩き潰している。
一方、エリックは超人的な剣さばきで、戦場を機敏に移動しながら、コボルト兵を次々切り殺していく。
一騎当千、それが×2。
まるでLV100のキャラがLV1の相手に無双している感じで、エリックとトマスの周りに、たちまちコボルト兵たちの死骸の山が築かれていく。
うすうす感じてはいたけれど、あの二人、やっぱりただ者ではない。
「いいぞ、敵の包囲が崩れてきた!! 竜騎士は西に回れ! 兵力を一点に集中させろ!」
アリスが叫ぶ。
エリックとトマスに続けとばかりに、防戦一方だったアリス護衛軍が攻勢に出た。
防御陣形を保ったまま、竜騎士と兵士たちがコボルト兵の包囲の一角を切り崩しにかかったのだ。
コボルト兵は数だけは多いが、単体では決して強くはない。統率も取れていないからわりとスキだらけだ。
一点集中の反撃作戦が功を奏し、ついに包囲の一部にほころびが出た。
ここを突破口にして突撃すれば――
と、思ったのも束の間。
どこからか新手のコボルト兵が現れ、その穴を塞いでしまった。
これではいくら戦って本当にきりがない。




