五話(春日視点)
私、大野春日が、ここがゲームの世界と気付
いた時は最悪の状況でした。
好きになった人と思いが通じ、交際が始まり、
喜びいっぱいになっていた私に、恋人の日渡修
也様が言いました。
幼い頃、親に決められた婚約者がいると。
愚かにも、体が弱く学校も休みがちという婚
約者の存在を、私は知らなかったのです。
知った時には遅かった。美冬様を紹介され、
その場で婚約が破棄されてしまいました。
修也様と知り合うまで、男の子に興味を持っ
ていなかった私のセイです。
そして、その時気付いてしまいました。ここ
が乙女ゲーム『春の日射しの中で』の世界で、
私がヒロインの大野春日だという事に。
ヒロイン転生自体は問題ありません。
私の人生、元より私が主人公です。
問題なのは、このゲームが元々男性用のギャ
ルゲーだったのを女性用にリメイクしたもので、
原作の流れを組むメイン攻略対象の日渡修也ル
ートのみ死者が出るという事です。
そして、私の交際相手は、日渡修也様。私は
日渡修也ルートに入っていたのです。
美冬様が亡くなるのは、修也様との婚約解消
後の雪の日。
ゲームでは、雪の中修也を待ち続けた美冬は
肺炎を拗らせ、そのまま儚くなり、美冬の死に
罪悪感を募らせる修也が、ヒロイン春日に寄り
添われ、その死を乗り越えていく姿が描かれて
いました。
ゲームでは、感動のストーリーですが、現実
に起こるとしたら冗談ではありません。
何としても美冬様の死亡フラグを折らないと。
修也様に美冬様と仲良くしてほしいと言われ
ました。恋人に元婚約者の仲を強要するような
修也様の発言は、些か不快ではありましたが、
好機だと思いました。
この先、もし修也様と別れる事になっても、
美冬様を死なせたくないと、私は選んでいまし
した。
それから私は、少しでも美冬様の憂いを晴ら
そうと声をかけ続けました。
戸惑いながらも、応えてくれる美冬様。
修也様は、そんな私達を満足そうに眺めいる
ようでした。
そして運命の日。屋上で佇む美冬様に出来る
限りの防寒対策をして、一緒に下校しようと声
をかけました。
途中、修也様に止められましたが、直ぐ後で
屋上に上がる風紀委員の姿を見つけ安堵しまし
た。
彼がきっと、美冬様を助けてくれる。
ゲームでは、美冬様が修也様を待っていたの
校門脇で、屋上ではありませんでした。
きっと大丈夫と、後ろ髪を引かれる思いで下
校しました。帰宅後直ぐ降りだした雪に、美冬
様を連れていかないでと祈りながら夜を明かし
ました。
翌日、早朝の教室に美冬様が現れた時は、安
堵のあまり座り込みそうになりました。
その後、諸事情ありまして修也様と別れる事
になり、更に一つ下の幼馴染み宮間秋良から口
説かれるという心臓に悪い展開がありましたが、
今、私の隣には、暖かい春の日射しの中、恋人
の東雲様と微笑む美冬様がいます。
死亡フラグを乗り越え掴んだ幸せを、大切に
したいと思います。
ゲームで言えば攻略失敗のバッドエンドです
が、私にとっては最高のハッピーエンドです。
日渡修也
優柔不断なところのあるギャルゲーの主人公。
顔も良く成績優秀、運動神経抜群で、家柄も良
いのですが、春日と美冬が死亡フラグを折った
事により残念な男に進化?しました。
当初、美冬も春日も自分が好きだから喧嘩する
かも?とか、俺を巡って険悪になったら困ると
か妄想して二人に釘を指してました。
ギクシャクする二人を見て、俺って愛されてる
とか主人公気取りでいました。
美冬が死亡した場合、自分の思わせ振りな態度
が美冬を死なせたと思い詰める。春日と別れ、
転校して家を出ます。後、ギャルゲーの舞台で
ある高校で追ってきた春日と再会します。
現実では、修也に幻滅した美冬が他の男に目
を向け始め、焦って引き止めようとしました
がフラれました。
春日も別れた途端、他の男にとられた為、二人
に対して未練タラタラです。でも、美冬にフラ
れた為自信喪失、声をかける事もできません。
(ヘタレ男に進化)
この後、二人との仲を改善できぬまま一人遠方
の高校を受験します。無事ギャルゲーの舞台へ
と進みますが、原作よりヘタレ化し、優柔不断
にも磨きがかかっている為、ゲームより肉食系
になった攻略対象の猛攻を防げるのか不安です。
流されると肉食系女子達に貪り食われるかも?




