一話
「ごめん。好きな人ができたんだ」
そう言って、彼は隣に立つ女性を抱き寄せた。
私は、今日好きな人にフラれました。
彼は、私の幼馴染みで婚約者でした。
彼が私を妹のように思っているのは知ってい
ました。それでも、儚い希望を捨てきれずにい
ました。だって、彼が優しく名前を呼ぶのは私
だけだったから…。
そして、彼は言いました。
婚約者じゃなくても友達として大切に思って
いるから、これからも仲良くしてほしいと、
「そんなの、無理に決まってるじゃない…」
家に帰ると、彼の家から婚約破棄の連絡がき
ていました。私が彼を慕っていた事を知ってい
る両親が悲しげな顔で迎えてくれました。私は
母に抱き付き泣きました。
悲しむ私に世界は非情です。
彼と彼女と翌日から顔を合わさないといけな
くなったからです。
なんと、彼が宣言通りに彼女を連れて会いに
来たのです。
胸が痛みます。
不可解な事がありました。
休み時間の度に訪れる二人。
クラスメイトが、息をのんで見守っています。
不可解な事。それは彼女の事です。
饒舌な彼と違い、彼女は静かでした。
しかし、彼女は、何か言いたげな顔で私を見
ます。
恋人の態度に困惑したような様子で、でもそ
こに私に対する嫌悪も嘲りもありません。
ただ何故か心配そうな、両親が私を案じるよ
うな目で、私を見るのです。
終始笑顔で饒舌な彼と対称的でした。




