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紫水晶の回帰  作者: 秋雨
紫水晶と石榴石
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やっぱり、凄かったんだ?

うーん。辿り着かないお説教…(笑)



「え?ヴィルさん?僕…何かしたっけ…」


伊織がきょとんとして首を傾げる。ヴィルフリートが再び溜め息を吐き、伊織の唇のすぐ横に口付けた。


「ヴィ、ヴィルさん!」


「…ローゼンクランツ。案内せよ。」


伊織があたふたと慌てている内に、ヴォルフガングが先行して歩き出した。転移魔方陣があった場所は離れの様になっていて、正面にある扉から出ると周囲は綺麗な庭園が整えられていた。伊織達が出てきた建物の四方から水が流れて水路の様になっており、庭園の間に流れている。


「すごい、綺麗な場所!」


「ここには泉の水を引いて、薬草などを育てております。中には毒もございますので、手は触れない様に気を付けて下さい。…こちらです。」


庭園の水路にはいくつか橋が架かっており、ヴォルフガングがその内の一つに進む。暫く歩いた先にあったのは先程と同じような離れだった。


「ここは泉から一番近いんです。その為、精霊も多いので治癒も効きやすいです。」


ヴォルフガングが入り口の扉を開け、ヴィルフリートと伊織を中に促す。中に入ると広間になっていて、部屋は6つほどあるようだ。その内の左端の部屋にノックして、中に入る。部屋にはベッドが2つ並んでいて、アニエッタとリタがそれぞれ寝ていた。


「アニー!リタ!…ひどい怪我…!」


ヴィルフリートの肩を叩いて下に降ろして貰う。ベッドに駆け寄り、近くによる。アニエッタもリタも見えている場所は包帯が巻かれていて、顔にもガーゼが付けられていた。アニエッタの右眼には包帯も巻かれている。


「…アニエッタ・ブルームはおそらく右眼を失明している。リタ・ブルクミュラーについても左足の骨が粉砕していた為、切り落とした。生命の果実の伝承が事実なら、欠損部位があろうとも快癒するが…食べさせる前にある程度直しておいた方が良いとの見解だ。」


「…そんな…!…僕が、出来る限りするから…」


死んだように眠るアニエッタの手をそっと握り、真剣な眼差しでアニエッタを見詰める。すぅっと大きく息を吸い込み、アニエッタから手を離すとアニエッタとリタのベッドの間に入った。


「イオリ、無理はしない様に。」


ヴィルフリートに声を掛けられ、吸い込んだ息を吐き出しながら頷く。アナスタシアは伊織にはどんな精霊も助けてくれると言っていた。もしかしたら治癒も助けてくれるかもしれない。

伊織は目を閉じて、アニエッタとリタの手に自分の手を重ねた。


(…どういう風に、呪文唱えれば…えっと、治癒の呪文を…自然を統べる…)


『自然を統べる者達よ。我が呼び掛けに応え、我を助けよ。彼の者に大いなる治癒を。我の魔力を糧に癒したまえ。』


伊織の周囲に金色の光が満ち、周りを金色に輝く多数の人型が踊る様に回る。ヴィルフリートとヴォルフガングはその光景に息を呑み、驚愕に目を見開く。

人型は伊織の傍から離れ、アニエッタとリタの上で回りながら飛び跳ねた。金色の光が2人の身体に吸い込まれる様に消え、人型も伊織の元まで戻ると消える。

伊織は身体の力が抜けるのを感じ、ベッドに手を突いた。


「イオリ!無理はするなと言っただろう。」


ヴィルフリートがすぐに伊織の元に来て、横抱きに抱き上げる。伊織は笑って、首を振った。


「平気。普段使わない量の魔力使ったから、ちょっと疲れただけ。それより、アニーとリタは?」


ヴォルフガングがアニエッタの腕の包帯を外し、傷を確認する。腕は綺麗に治っており、傷跡は見当たらない。


「女性神官を呼んで確認させましょう。暫しお待ち下さい。呼んでまいります。」


ヴォルフガングがヴィルフリートと伊織をソファに座るように促し、慌ただしく部屋を出ていく。

ヴィルフリートがそのままソファに座り、伊織の頬を撫でた。


「変わりないか。」


「…うん。…ちょっとお腹空いたけど。」


伊織がヴィルフリートの手に頬を擦り寄せ、甘える様に体重を掛ける。

ヴォルフガングがノックの音と共に入って来た。後ろに20代後半くらいの女性を連れている。

女性が伊織とヴィルフリートを見て、まぁ、と小さく声を上げて口元を手で隠す。手で隠した事で表情はよく分からないが、目が笑っている。


「…お待たせ致しました。これから確認させましょう。お手数ですが、陛下は別の部屋に…」


「…ぼ、僕も別の部屋行く。」


「申し訳ございませんが、手を貸して頂けないでしょうか?」


ヴィルフリートが伊織をソファに降ろして立ち上がる。伊織も着いて行こうと立ち上がるが、女性に遠慮がちに頼まれた。


「…え、う。………はい。」


断れ切れずに仕方なく頷く。ヴィルフリートが伊織の頭を撫でて、部屋を出て行った。


(…ごめん。アニー、リタ…僕、今は女だから…許してね…。)


心の中で2人に謝罪して、女性の所に向かう。女性はペールブロンドに榛色の瞳を優しげに細め、伊織を見ている。


「シャルロッテです。いつもハイジの相手をして頂き、ありがとうございますわ。」


「…ハイジ?」


思わぬ所でアーデルハイトの名前が出て来て、伊織が首を傾げる。


「アーデルハイトとヴォルフガングの母でございます。…こう見えて、もう40歳近いのですよ?」


(…これで40とか…全然見えない…!)


伊織の驚いた表情を見て、シャルロッテがふふっ、と口元を隠して笑った。その笑った目元がアーデルハイトにそっくりで納得する。


「包帯を外しましょう?あまり陛下をお待たせするのもよくありませんものね。」


「…はい。…どこから外しますか?」


「では、お顔からにしましょう。淑女のお顔ですものね。」


シャルロッテがアニエッタの顔の包帯を外し始め、伊織のリタの顔に貼られたガーゼを外す。2人とも綺麗に治っていて、傷痕は見られない。シャルロッテが掛けられていた布団を剥がし、アニエッタの服を脱がせる。


「…先にこの子からしましょう。…あら?顔を逸らしていては、包帯が外せないですわよ?」


「…はい。…ごめんね、アニー」


シャルロッテがアニエッタ身体を起こして支え、伊織が謝罪しながら包帯を外す。

胸から腹に掛けては微妙に裂傷の痕が残っているが、傷自体は塞がっていた。足も手も微かに痕が残っているものの概ね治っている。

シャルロッテが今度はリタの布団を剥がし、服を脱がせる。

先程と同じ様に、リタの包帯も外す。リタの足は太腿の真ん中くらいで切断されていて、伊織は思わず顔を背ける。

他にも左脇腹に裂傷の痕が残っている。


「…ひどい怪我ですわね。これで、よく生きてたものだわ。」


包帯を外し終え、服を着せながらシャルロッテが零した。


「…生きててくれて、良かった…」


伊織もアニエッタの手を握りながら、思わず呟く。その時アニエッタの手がピクリと動き、伊織の手を握り返して来た。


「アニー!?…気が付いた?」


「陛下を呼んで来ますわ。」


シャルロッテが慌てて部屋を出て行く。

アニエッタは未だ意識が朦朧としている様で、伊織の声に少し反応するだけだ。

直ぐにシャルロッテがヴィルフリートとヴォルフガングを連れて戻ってきた。


「様子はどうだ。」


「まだ、あんまり反応が…」


「………へい、か…申し訳、ございませ……イオリ様、をまも…ず…」


アニエッタの口が開き、掠れた声で謝罪する。開いた目は右目の瞳孔が白く濁り、何も写していない。伊織は泣きそうになりながらアニエッタの手を強く握る。アニエッタは伊織の姿を見て微笑んだ。


「良い。イオリは無事なのでな。」


「…ご無事で…よか、ったです、わ…」


「…アニー、ごめん。ごめんね…!」


自分はアニエッタとリタがこんなに大怪我していたのに、自分の事しか考えていなかった。その事が伊織の心に重くのし掛かる。


「ヴォルフガング・ローゼンクランツ。生命の果実を持って来るのだ。」


(ただ)ちに。」


ヴォルフガングが踵を返し、部屋を出て行く。アニエッタが自分の右目の前で手を(かざ)し、左目を閉じる。


「…あぁ、目が…」


「…ちゃんと治るから。…今が無理でも、治してあげるから!」


伊織の瞳から涙が零れる。そんな伊織にアニエッタが微笑んで、首を振った。


「イオリ様が…ご無事なら、それで充分で、ございますわ。」


「…う、うぅ…」


伊織が涙を拭っていると、背中から呻き声が聞こえて来る。勢い良く振り返るとリタが眉を寄せて、切断された足のあたりを触っていた。


「リタ!…痛いよね…。」


リタがうっすらと目を開け、伊織に視線を向ける。

ヴォルフガングがノックと共に入室して来た。手には果実が2つとナイフがある。

アニエッタは随分意識が戻ったのか、シャルロッテに手伝ってもらいながら身体を起こした。リタはまだ自由に身体が動かせない様だ。


「アニエッタ・ブルーム。食せるなら、食せ。伝承の通りであれば、その目は即座に快癒する筈だ。」


「はい。頂きます。」


ヴォルフガングが部屋のキャビネットから皿とフォークを持って来て、手際良く果実を切り分ける。切った果実がシャルロッテに渡され、シャルロッテからアニエッタに食べさせられる。

リタも意識がしっかりしたのか、痛みに顔を顰めながら自力で身を起こした。


「…美味しいですわ。」


アニエッタが口元を手で隠して呟く。

伊織がじっとアニエッタを見ていると、だんだん瞳に光が戻り始めた。白く濁っていた部分がなくなり、アニエッタが驚いた様に周りを見渡す。


「…目が…目が治った…?」


「やはり、伝承の通りか。」


ヴィルフリートがアニエッタの様子を見て、ヴォルフガングに目配せする。ヴォルフガングが頷いて部屋を出て行った。


「…良かったぁ…。…早くリタも…リタも、治るかな…?」


足を切断したリタを見て、伊織の声がだんだんと弱々しくなる。ヴィルフリートが励ます様に伊織の頭を優しく叩き、シャルロッテがリタにも果実を食べさせる。

食べ終わって、変化のないリタの姿に伊織が肩を落とした直後、リタが足を押さえて叫び声を上げてベッドの上をのたうち回る。


「いけない!」


シャルロッテがリタの口の中に慌てて布団を突っ込む。

リタが布団を噛み締め、痛みに呻く。伊織は見ていられずに、ヴィルフリートの腕に縋り付いて顔を伏せた。

リタの声が止み、伊織は恐る恐る顔を上げる。

リタは痛みに気絶した様だが、足は元からあった様に元に戻っていた。


「…生えてる。」


「これも、伝承通りであったな。」


「夢でも見ている気分ですわ。」


「本当に。」


伊織の呟きにヴィルフリートが応え、シャルロッテが手の甲を摘みながら言い、アニエッタも愕然としている。


「只今戻り…どう致しましたか?」


ヴォルフガングが戻って来て不思議そうに問いかけて来る。ヴィルフリートが顎でしゃくってリタの方を見た。


「は!?生えてる!?」


「…とりあえず、これで問題はなくなったな。其方等は完全に体力が戻るまで此処で治療するのだ。」


「…ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません。」


ヴォルフガングが目を見開いている横で、ヴィルフリートが伊織を抱き上げた。

アニエッタがベッドの上で頭を下げているのを一瞥して、伊織が文句を言う隙も無く踵を返す。


「アニー、リタ、お見舞い来るからね!」


部屋を出る前に声を掛け、扉が閉った後にヴィルフリートに抗議する様に肩を叩いた。


「…イオリ、覚悟しておくが良い。」

やっとお説教回かなぁ?

詰め込みすぎた感が…でもこれ以上書き様が分からないのでそのまま行きます_:(´ཀ`」 ∠):_

行き当たりばったりだとこういう時困っちゃう(笑)


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