開会
「はぁ……結局、シルバーウィークも仕事だったなぁ~。今日も疲れた……」
激務を終え、ようやくマンションにたどり着いた俺は、いつものようにエントランスにある郵便受けを開けた。
そこに、一通の封筒が入っていた。
「あれ……なんだ、これ?」
白を基調とした封筒には、金色の縁取りや細かな装飾が施されている。
まるで結婚式の招待状のような、やたらと豪華な封筒だった。
「また、誰か結婚したのか?」
そう思いながら手に取った俺は、そこでようやく、妙な違和感を覚えた。
よく考えてみれば、結婚式の招待状といっても、こんな封筒そのものが派手に装飾されているものは珍しい。普通なら、一般的な封筒の中に招待状が入っているはずだ。
とはいえ、仕事で疲れ切っていた俺は、それ以上深く考えることもなく、その封筒を持って部屋へ戻った。
そして、帰宅するなり、さっそく封を開ける。
「なんだ……これ?」
中に入っていたのは、一枚の紙。
そこには、幼い子どもが書いたような文字が書かれている。
いや、文字……なのか?
少なくとも、俺には文字には見えない。
「ちょっと……なんか、怖いんですけど!」
紙を持ったまま、思わず身を引く。
「え、これホラーなの!? この話、ホラーなの!?」
誰に向かって言っているのか自分でも分からない。そんなツッコミを入れながら、もう一度、紙を眺める。
すると、その下にもう一枚、紙が入っていることに気づいた。
「ん?」
取り出してみると、それは一枚の地図。
「地図……?」
そこには、見覚えのない場所が記されている。
気になった俺は、スマートフォンを取り出して、地図に書かれていた場所をインターネットで検索してみた。
「……え?」
表示された検索結果を見て、俺は首を傾げる。そこにあったのは、都内でも有名な高級ホテルだった。
「やっぱり、招待状……なのか?」
だとすれば、いったい誰から?
そもそも、俺にはこんな豪華な招待状を送ってくるような知り合いはいない。しかも、差出人の名前すら書かれていなかった。
「……まあ、いいか」
考えても分からない。
幸い、明日は仕事が休みだ。
「ちょっと覗いてみるか……」
こうして俺は、地図に記された高級ホテルへ向かうことにした。
◇
翌日。
地図を頼りにホテルへやってきた俺は、さっそくフロントへ向かった。
昨日届いた、あの手紙について尋ねるためだ。
「すみません。ちょっとお聞きしたいことがあるんですが……」
そう声をかけながら、俺はポケットから例の封筒を取り出した。
「お待ちしておりました。ゴリ……清坂様ですね?」
「……はい?」
今、ゴリって言ったよな? 言ったよね?
このフロントスタッフ、俺の名前を「ゴリ……」って言いかけたよね?
「はい、そうですけど……。これって、一体なんなんですか?」
「只今、会場へご案内いたします」
俺の質問には一切答えず、フロントスタッフはそう告げた。
「いや、あの……」
「こちらへどうぞ」
完全に話を聞く気がない。
仕方なく、俺はスタッフの後についていく。
そして、案内された先には、一つの大きな扉があった。
「こちらです」
フロントスタッフが扉を開く。
すると俺の目に、とんでもない光景が飛び込んできた。
「…………」
そこには──
見渡す限り、ゴリラがいた。
「…………は?」
いやいやいやいや……何これ?
ゴリラばっかりなんですけど!?
ざっと見ただけでも、百頭くらいいるんじゃないか!?
「な……なんですか……これ?」
俺が震える声で尋ねると、フロントスタッフは何でもないことのように答えた。
「ゴリラパーティーです」
「ゴリラパーティー?」
「はい」
「…………」
聞き間違いじゃなかった。本当にゴリラパーティーらしい。
「え? ゴリラパーティーって……何?」
俺が呆然としていると、壇上にいた一頭のゴリラが、突然ウホウホと言い始めた。
「ウホ、ウホウホ、ウホッウホ!!」
おそらく、オスのゴリラだろう。
右腕で一頭のメスゴリラを抱き寄せながら、左手で別のメスゴリラをビシッと指差している。
「……ん?」
なんだ、この状況。
「ウホ……ウホ、ウホウホ……」
指を差されたメスゴリラが、悲しそうな顔で何かを訴えている。
「うーん……」
たぶん、あれだ。
『理由をお聞かせ願えますか?』
とか、そんなことを言っているんだろう。
いや、分からないけど。
ゴリラの言葉なんて分からないけど、なぜかそんな気がする。
「……っていうか、パーティーといえば婚約破棄、みたいなノリはやめようよ!」
なんでゴリラまで婚約破棄してるんだよ!
そんなことを考えていると、突然、ホテルスタッフがマイクを手に取った。
「皆さま! ゴリ坂様が到着なさいました!」
「ゴリ坂?」
誰、それ……俺のこと?
清坂なんだけど?
そう思った瞬間──
一斉にゴリラたちが俺を見る。
「…………」
え……何?
なんなの、一体?
「ウホウホ!」
「ウホウホ、ウホー!」
「ウッホ、ウホウホ!!」
次の瞬間、ゴリラたちが一斉に俺のもとへ押し寄せてきた。
「え、ちょっ、待っ──」
俺の言葉など聞く耳も持たず、ゴリラたちは俺を軽々と担ぎ上げる。
「うわっ! ちょっと! 下ろして! 下ろしてくださーい!」
そのまま俺は、ゴリラたちによって壇上へと運ばれてしまった。
「それでは、主催のゴリ坂様からご挨拶です」
ホテルスタッフが、俺にマイクを渡す。
「…………」
ゴリ坂様?
俺、清坂なんだけど。
そもそも、なんで俺が主催なんだよ。
どうなってるんだ、このパーティー。
しかし、壇上から見渡すと、百頭近いゴリラが俺を見つめている。
逃げられない。
これはもう……やるしかない。
「くそっ、どうにでもなれ!」
俺はマイクを握りしめた。
ええい、ままよ!!
ついでに、パパよ!!!
「ウホウホ、ウホッ……! ウホウホウホウホホ……!」
俺は必死になって、ゴリラ語らしきものを口にした。
会場に響き渡る、俺の渾身のウホウホ。
すると──
「あの~、ゴリ坂様……」
ホテルスタッフが、申し訳なさそうに口を開いた。
「日本語で大丈夫です……」
「…………」
あら、やだ。
めっちゃ恥ずかしい!!
俺、今、一人で何やってたの!?
ゴリラに囲まれてテンション上がって、ウホウホ言っちゃったじゃん!!
清坂ってば、おっちょこちょい。
テヘペロ~。
「え~、コホン……」
俺は何事もなかったかのように咳払いをする。
「それでは、皆さま……ゴリラパーティー、開会です! レッツ、ゴリラー!!!」
俺は拳を突き上げる。
ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ!!!
それに応えるように、会場中のゴリラたちが一斉に胸を叩き始める。
「ウホオオオオオオオオッ!!!」
ドンドコドンドコ!
ドンドコドンドコ!
こうして、ゴリラパーティーが幕を開けた。
一週間ですが、思う存分ゴリラを楽しみましょう!
レッツ、ゴリラー!!!




