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彩眼の次男〜感情が色で見える次男副団長が、恋も政変も全部見えてしまって巻き込まれる〜  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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独白録:冷泉 親芭 二【北塔】


Side 冷泉 親芭


あと一年で成人となるはずだった17歳の冬。

第三次全面戦争の停戦交渉中。

衝撃的な情報が入ってきた。


朱子殿下の反乱。

姉が朱子殿下に着き従っているのは分かり切った事だった。


胃袋が鷲掴みにされたように気持ち悪かった。

我が家に捜査の手が来るのは分かった。


でも、執務室に行けば、父が、僕が集め続けた証拠を暖炉に入れ込もうとしていた。

火傷なんて気にする暇もなく、僕はその書類を必死で炎からすくい上げた。


執事が慌てるように馬を用意する。


僕は乗馬が苦手だ。


でもそんなこと言っていられない。


焦げた書類を持って、僕は馬を走らせた。


この情報を、生かしてくれる人は、一人しか思いつかなかった。


『秋里隊長!第一騎士団団長、秋里 綾人殿にお知らせしたいことがございます!』


僕は力いっぱい叫んで、ボロボロになりながら書類を手渡した。


両親……いや一族の不正の証拠。

この書類から見出される不正の清算は、多分、相当な額になるだろう。


この証拠で、姉の助命嘆願を願い出た。


でも、ことが大きすぎた。


僕が罪人として連れていかれたのは、王城の大広間。


縛られた父と母が獣のように叫び、助かろうと一族の人間たちが喚き散らす。


今回の反乱に関わった家は我が家だけでなく、非常に多かったと思い知った。


両親を含めた多くの家が、家名没収の後、鉱山等で強制労働を言い渡された。

一族ほとんどの人間たちに同じ内容が言い渡された。


僕は平民落ち、とだけ伝えられた。



そして静かに告げられた姉の処刑。


世界の音が消えた。


公開処刑。

引き回しの後、絞首刑。


あの姉が——

見世物として殺される。


気づけば、身体が勝手に動いていた。


僕はなりふり構わず、

国王陛下の前に土下座した。


『姉上が助からないのも重々承知でございます』


声が震える。


『わたくしの功績は一切いりません』


喉が焼ける。


『姉に、慈悲を、下さい』


広間が静まり返った。


それでも言葉を絞り出す。


『わたくしに鉱山での強制労働を命じても構いません』


額が床に擦れ、血の匂いがした。


『ですがっ——』


息を吸う。


『姉に、毒杯を、賜る権利を』


思いつく言葉はこれだけだった。

お願いだ、姉に、せめても安らかな死を。


これしか思いつかなかった。



『主、名は?』



国王陛下の低い声が僕に問いかける。


『れ、冷泉 親芭と、申します』


『今の言葉に、相違はないか?』


『相違、で、ございます、か?』


『姉……冷泉 百合子に毒杯を与えるならば、自分が強制労働もいとわないか?』


国王陛下の言葉に迷いなんて無かった。


『はい、相違ございません!』


その言葉に、国王陛下はフッと笑われた。


『よろしい。ならば冷泉……否、家名を捨てるのだから『親芭』』


国王陛下から名を呼ばれるので、そのまま平伏する。

姉を安らかに逝かせるためなら、何でもしてやるという気だった。


『はっ!』


『お主、我が息子……昆明の下につけ。我が息子ながら中々にイカレテおるが、お主のような青年には良き場所だろう』


その意味を理解できるのは数年先だが、何も言わずに僕は頭を下げた。


姉は……毒杯を賜ることができた。

それが姉の幸せだったかは分からない。


それが、僕が姉に出来た……唯一の事だった。



その二日後、いったん王都に戻ってきた僕直属の上司となる人、

慈光宮 昆明殿下と会ったのは、その日が初めてだった。


『え、百合子さんの……』


『あ、はい……弟の親芭と申します』


『ああ……似ているな』


『初めて、言われました』


そう言った昆明殿下は複雑そうな顔をしていた。


『……姉上は』


苦しまずに、逝けるのでしょか?

毒杯を与える本人に聞くのはおかしいな、と口を慌てて閉じた。

姉の処刑が『まだ』とは、聞いていた。


『早速で悪いんだけど仕事を頼みたい』


『何なりと』


『北塔って、分かる?』


そう言われて記憶を引き出す。

北塔と呼ばれる離宮。

王都の郊外に位置し、王都の鬼門に立てられた離宮。


離宮であるのに『塔』と呼ばれるのは長い歴史に紐づく。


嘗ては本当に塔があり、そこで『王族の血統魔法』。

つまりは結界魔法を持つ王族が、幽閉されていた。


『はい』


そう答えつつ、その離宮に、かつて、目の前の王子が幽閉されていたのも知っている。


『そこに、姉上が幽閉されることが決まった』


『朱子、殿下が?』


『その『殿下』の称号も剥奪される』


『では、朱子様、とお呼びします』


『うん、それなら問題ないよ』


『分かりました』


『で、親芭には姉上が快適に過ごせるように整ええ欲しい』


『いつごろまでに?』


『それが……四日後なんだよね』


四日後……そう言われて何とも言えない気分になった。

困った顔の昆明殿下に、最善を尽くすしかないのか、と笑った。


『最善は尽くします』


『姉上はとやかく言う人じゃない。だから逆に気を回して欲しい。我慢強いから』


そう昆明殿下が言った瞬間、姉上も、我慢強い人なのだと、思った。

姉上に、言いたいことがたくさんあった。

でも、言ったところで、死ぬ寸前に心を惑わす必要はない、と口を閉じる。


『最低限の準備をしに行きます』


そう言って転移魔法で訪れた離宮は、寂しいところだった。


埃の匂いが鼻につくことで、ここがしばらく使われていなかったのを理解した。


太陽の光がどことなく暗く、寒さを妙に感じる。

朱子様を世話する人間も雇うべきだな、と思うほどの大きさの離宮。

もしかすると差し押さえられた王都の我が家よりも広いかもしれない。


僕は点検しつつ、洗浄魔法である程度の埃払いを済ませる。


大規模魔法はあまり得意でないが、転移魔法とこういった生活魔法関係は得意な方だった。

ただ、この離宮は寂しさが色濃く感じられる場所だった。


一番過ごしやすそうな部屋に暖炉が合った。

せめてこれは使えるようにするか、と魔法で掃除をし、火を灯した。


あとは使用人関係の選定。


真っ先に思い浮かんだのは、

あの執事と、その妻。


僕と共に証拠を集め続けた人たち。


転移で差し押さえられた邸宅へ向かう。


門の前で茫然とするメイド二人と、コック。

その三人を励ます執事とその妻のメイド長。


両親の不正を知ってから少しずつ使用人を減らしていたから、残りは執事夫婦を含めて五人ほどになっていた。


『親芭様?』


執事が戸惑ったように僕を見た。

僕は今起きていることを包み隠さず伝えて、その上でそこにいる五人にお願いをした。


『離宮で朱子様のお世話をお願いできないだろうか?』


無理な話かもしれない、そう思ったところで、五人はフッと笑った。


『あのご両親から生まれたと思えないほど聡明でございますな』


執事が穏やかに笑う。もう初老の執事は、引退してもおかしくはない歳だ。


『親芭様が努力されたのを知っております』


『まだ子供でございます』


『それで必死で抗ったのも分かっております』


『こんな時でも我らを気にして来てくださったのも、あなた様らしい』


『『『『『喜んで、お仕えいたします』』』』』


この瞬間、僕の目から涙が落ちた。

五人の使用人たちは、僕を子供のように頭を撫でた。


僕は頭を撫でられたのが、初めてだと気が付いた。



元冷泉家の使用人を雇うことに伺いを立て、承認されたところで次の問題が浮き彫りになる。

執事たちが通うには遠い離宮に行かせるのをどうするかと悩んだ。

昆明殿下に相談したところ、『住み込みで良いんじゃない?』と軽く言われる。


一応、離宮には離れがありそこを使用人のスペースにしていいかと尋ねれば、

昆明殿下から意外なことを言われた。


『細かいことは任せるよ。明かに常識外れじゃなければ問題ないし、父上から聞いている君の評価ならそう言うことはないだろうしね』


ケロッとしたように言われ、びっくりしていると、昆明殿下は笑った。


『後でこうしたよって教えてくれればいいよ。

これからは君が俺の秘書みたいな存在になるわけだし、俺、実務は苦手だから聞くこと多いだろうし』


そう言われて、僕はやったことを簡潔にまとめるメモを作ることにした。

多分、昆明殿下はそう言う方が頭に入るタイプだと気づいたからだ。


執事たちの引っ越しは時間が無いので僕が転移魔法で物も人間も運ぶことにした。


執事たちは申し訳なさそうだったけれども、

僕はもう平民だし、同じ立場だと言って、無理矢理納得させた。


姉上は何十人と一気に転移魔法で連れて行けるけれども、僕は精々十人。

でも、回数は何回でもできるので、ある意味で執事たちは驚いていた。



『親芭様、少し休まれたらどうですか?』


『もう明日には朱子様が来るからな』


『では、せめて我々と食事をしませぬか?』


執事の言葉に、五人から心配そうな目を向けられていることに気が付いた。

僕は素直にみんなと食事をした。


その日の温かくも質素なご飯は、今までで一番美味しかった。




翌日、転移魔法の気配を感じた。

一番綺麗にしておいた暖炉の部屋に、人の気配を感じた。


静かにドアを開ければ、そこには二人の騎士の背中を見た。

二人の視線が僕に向いた。


虹色の瞳。

彩眼――そう呼ばれる瞳が僕を一瞬見た。

そして頭を下げてから音もなく消えていった。

見事な転移魔法で、流石朝比奈兄弟だと感心していた。


そして、茫然とする赤い髪の女性を見た。

ひらひらと揺れる右袖を見て、彼女の腕が無くなったのを、理解した。


「朱子様、お待ちしておりました」


そう言いながら下げてから、元に戻す。

私の顔を見た彼女は驚くようにその業火の瞳を丸くした。


姉と同じ赤と言われる瞳だが、朱子様の瞳は炎のような赤で、姉とは違う赤に不思議な気持ちになった。


「冷泉……」


「その名は捨てました」


朱子様の言葉を遮るようにそう言ってしまった。

冷泉家はもう完全になくなる。


「家名は捨てました。昆明殿下の恩情により、第三王子付きの事務官となりました親芭と申します」


そう言いながらもう一度頭を下げた。

持ち上げた顔で、見た朱子様は悲しそうな表情を浮かべた。


「百合の……」


「ええ、弟でございます」


この時、僕は姉の形が執行されたことに気が付いた。

朱子様の目に宿る悲しみが、この人は姉を悼んでくれる人だと瞬間的に悟った。


「姉上は……苦しまずに逝けたでしょうか」


思わず、聞いてしまったことに、朱子様は息を詰まらせた。


「……分からない」


僕は、初めて姉の死の悲しみを共有してくれる人に出会えたことにホッとした。

彼女に向かって笑い掛けながら、礼をする。


「足りないものがありましたら手配いたしますのでお申し付けください。まだ使用人等の手配が追い付いておりませんので、二日ほどご辛抱ください」


そう言って部屋を後にした。

その後に届いた、隠すような泣き声は聞かなかったことにした。





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