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彩眼の次男〜感情が色で見える次男副団長が、恋も政変も全部見えてしまって巻き込まれる〜  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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独白録:冷泉 親芭 一【怪物の家】


Side 冷泉 親芭


俺には姉がいる。

いや、正確に言うならば、いた(・・)


優秀な姉だった。

憧れる姉だった。

あの人が自分の姉で、嬉しかった。


でも、両親からしたらそうではなかった。


俺の父親は浮名を流し続ける人で、ついでに結構なクズだった。

若い女性を次から次へと囲い込み、時には意に添わぬまま、自分のものにした。


その被害者の一人が、姉の母だった。

姉の母はひっそりと暮らしていたらしい。

でも、子供が出来なかった父は、無理矢理引き離し、そして姉を連れて来た。


僕が生まれる前の話だ。


僕が物心ついたころ、僕には姉がいることを知った。

五歳になったばかりの時だった。

姉は十三歳。

士官学校で優秀だと、親戚から聞かされた。


今思えば、アレは僕の両親を嘲る為の言葉だったのだろうけれども、僕はそんなことも知らずに、ほとんど会ったことのない姉に興味が湧いた。


そして、出会いはすぐに来た。


書類のサインが必要だとかで、姉が屋敷に足を運んだ。


銀色の髪に、真っ赤な目は、僕と同じ。

応接室で紅茶を飲む姉は、優雅だった。


ドアからこっそり覗いていれば、姉の真っ赤な目と視線が合った。


姉がフッと笑うので、僕も笑った。


次の瞬間、バシンッと想像しない音が響いた。


『この売女の娘が、何故本邸にいる!!』


甲高い女の声が響いた。

鬼の形相で、母がバシッ、バシッと何回も、何回も頬を叩く音を立て続ける。

余りの恐怖に、悲鳴を手で抑え込んだ。


『奥様、申し訳』


『黙りなさい!あの女に似て忌まわしい顔!なのに旦那様の色を持つなんて!』


バシッ、バシッ、と続く音が続く。

抵抗せずに、されるがままの姉の視線が僕に向いた。


“見たら、ダメ”


声が出たわけでないのに、そう言っているのが分かった。


『お前が優秀と言われる度に!私の気持ちが分かるか!このっ!このっ!』


僕はどうしていいか分からずに、執事の元へ走った。


『大変なんだ!母様が、姉様を!』


僕の拙い言葉に、はー、と長いため息を吐いた執事は、速足で応接間に向かった。


『奥様、茶会の時間が近づいております。ご準備をせねば、間に合いません』


ぜー、ぜー、と息を整えようとする母は何も言わずに去っていった。

この時、母親が怪物のように見えた。


『百合子様』


『ありがとう、助かりましたわ』


そう言った姉は立ち上がり、僕を見た。


『ねえさま』


『貴方に姉はおりませんわ。私は士官学校を卒業しましたらこの家とは関りを持ちませんので、ご安心を』


そう言った姉はさっさと屋敷から出ていった。


執事に視線を向ければ、執事は悲しそうに話してくれた。


姉への理不尽。

姉の母親への理不尽。

姉の優秀さ、聡明さ、気高さ。


僕の中で、両親が怪物になった瞬間だった。



8歳の春。

姉は16歳になっていた。

その日は姉の士官学校卒業の日。

僕はこっそりと花束を作った。


姉の名と同じ百合の花をメインに、白と赤のめでたい色で作った花束。


せめて、そのぐらいはお祝いしてあげたかった。


花束を持って、いざ踏み出そうとした瞬間だった。


『百合子、卒業したのなら、河成(かせい)家の当主に嫁げ』


父親の馬鹿な話を、遠くで聞いた。

河成家の当主と言えば、もう五十を超える男だ。

息子が生まれず、次から次へと若い女を手籠めにする父と同類。


『はっ!私の側近をそんなところに飛ばすとは……冷泉の当主は耄碌したか?』


ぴしゃりと言い切ったのは姉の友人……天翔宮 朱子様だった。

姉と、朱子様、そして下級貴族の川上 瑠璃子。

この三人は明らかに、ずば抜けて優秀だった。


父は悔しそうにその場を後にしたが、僕の脚は棒のように動かなくなった。


『お前の家族はトンデモないのばっかりだな』


『ふふっ、私の家族は死んだ母だけですわ。アレは生物学上は父親ですが、関わりのないものです』


そうやって楽しそうに笑う姉を見て、僕は動けなかった。

ただ、持っていた花束はそのまま持ち帰って、自分の部屋に飾った。


『ねえさま、ご卒業おめでとうございます』


誰にも届かない祝福の言葉は、静かに部屋に消えていった。



翌年だった。

姉が死に掛けた。


忌々しそうに父が吐き捨てる。


『そのまま死んでくれればよかったものを』


母が楽しそうに笑う。


『でもこれで、親芭以外が冷泉を継ぐことはないわ!』


怪物。

本当にそう思ってしまった。



15歳になり、僕は一学生として王都の学校に通っていた。

姉とは違う、文官を目指す人間が行く王立学園だ。


そこでも姉の優秀さは遠くから聞こえてきた。

第一王女殿下の親衛隊・『真紅隊』の隊長。

冷泉 百合子の名を知らない騎士は居なくなった。


誇らしい反面、姉が父や母に邪魔されているのに気が付いた。


同時に後継者教育が始まった僕は、両親の異常さを更に見ることになった。


『なんだ、この帳簿……これ、脱税じゃないか!?』


『……旦那様のご指示です』


僕の叫び声と、執事の暗い顔は夜の執務室に消えていった。


『本音はすぐにでもこの証拠を持て、国王陛下に嘆願に行きたい』


『それは……』


執事が言葉を詰まらせるのも分かる。

今、未成年の僕が嘆願に居たとして、冷泉家は伯父のものになってしまう。

だが、伯父は、父以上にクズで、あの人が領地経営なんてやってしまえば、あっという間に我が領は没落するだろう。


『とにかく、両親にはバレないように、領地経営を健全化させよう……』


『親芭様……』


『……あと三年、僕の成人までに両親の不正の証拠を集めよう。それを持って、国王陛下に嘆願しよう。届かなかったら、恨まれているかもしれないけど、姉様に土下座してでも頼もう』


そう決意した翌年、僕は文官になった。


16歳。仕事に慣れ始めたところで、ある書類が手渡された。


『お前の姉だろう?抑え込んでおけ』


そう言って渡されたのは嘆願書と、企画書だった。

騎士の処遇を変えようと、姉が必死で考えたのが伝わってくる素晴らしい企画書だった。


そして嘆願書には、喪った親友、川上 瑠璃子のことが書かれていた。


姉が必死に抗おうとしているのが伝わった。

だけど、周りはこの魂の企画書を嘲笑った。

そして、今これを出せば、姉の命を狙われかねないほど、出来の良い企画書でもあった。


僕は、この企画書を、握りつぶすことにした。


あと二年……僕が成人して、姉様を助けられる日まで、これは僕が預かることにした。



でも、姉は諦めなかった。

何回も、何回も、文官たちに嘆願書、企画書を送り続ける。

時には直接抗議しに来る。


諦めない姉に、周りが『暗殺』という言葉が出始めた時だった。


僕は姉を一旦、諦めさせようとした。

僕が、彼らの仲間と思うように――。

そして、姉上に意識が向かないように――。


『おや、『姉上』。生きておられたのですね。

こんな嘆願書まで送って……滑稽ですね」


僕の言葉に姉上は絶望した顔になった。

ごめんなさい、姉様。

ですが、これ以上は貴女が危険です。


『せっかく、王女殿下のご慈悲で生き延びたのです。

静かに、息をひそめて、今は大人しくしていてください『姉上』」


姉の目の前で、白紙の嘆願書を破って燃やす。

燃やすことで、本物が燃やされたと勘違いする馬鹿どもがたくさんいるはずだ。


原本は僕が持っている。


あと二年です。

姉上、あと二年は息をひそめてください。


そうすれば、あとは成人した僕が何とかしますから……。


ただ、この時に気づけなかった。


姉上の握りしめる手に、どれほどの憎しみが食い込んでいたか。

姉上がどんな気持ちで、心の内に怪物を作っていたか。


いや、僕が作ってしまったのだ。

姉上の内なる怪物を生まれさせたのは、僕の失態だ。




少しでも面白い!続きが読みたい!

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