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彩眼の次男。実は主人公は私です!  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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独白録:秋里 香【家族】


Side 秋里 香


物心ついたころ、父と母と、姉と弟と暮らしていた。

母は綺麗な着物で着飾って、父はその母を見ながら悲しそうであるけれども乱暴者から母を含めた色んな人を守っていた。


澄んでいた場所は父の背丈よりもずっと大きな塀に囲まれていて、唯一の出入り口の門の外には出ちゃいけなかった。


ある夜、眠っている所を起こされた。

私と一緒に昼寝をしていた姉も、弟も、寝たままだった。


悲しげな母の顔と。焦るような父の顔は今でも忘れない。


『香、何がっても貴女を愛しているわ』


『光と満と一緒だとお前が危険だ。いいか香。忘れるんだ、お前に姉も弟もいない』


母の穏やかな声と、父の必死な声。

そして二人は強く私を抱き締めて、見知らぬ男に私を渡した。


見知らぬ男は私を肩に担いだ。

空は白み始めた青色。

もうすぐ夜の華やかな世界が終ろうとしていた。


『香!!』


響いた声に声の方向を見た。


走ってくる黒い髪の少女が門を越えようとした瞬間、その小さな体は門の目の前に立つ男に組み敷かれる。

それでも前に出ようと手を伸ばす少女は、必死に私の名前を呼んだ。


『香!嫌!連れて行かないで!』



姉が、私に手を伸ばす。

私も、思わず手を伸ばした。


朝日で伸びた陰ですら、その手が重なることはなかった。



耳に残るようなその叫び声を、今でも私は忘れられない。



五歳のその日、私は最初の家族を喪った。



ただ、その後に連れて来られたのは母と同じ色を持つ少年のところだった。

彼は私の従兄と名乗った。


『俺の名前は綾人。妹か弟が欲しかったから『兄上』って呼んでくれ!』


『綾人……全くこの子は……香、私の事は母と思ってちょうだい』


太陽のような彼と出会い、彼の母から彼と同じだけの愛情を注がれた。

兄に手を引かれ世界を知り、母に抱きしめられ愛情を知った。


彼が『兄』となり、彼の母が『母』なり、そして私は秋里 香になった。


それでも、父も、母も、姉も、弟も、忘れられなかった。


『ごめん、兄さん。どうしても家族を探したい』


『……両親は』


そこで兄は言葉を区切った。

多分、優しい兄は『両親が死んでいる』という事実を言いきれなかったのだろう。


『せめて、姉ちゃんと、満は探したい』


姉と弟。両親がもうこの世にいないかもしれないのは、何となく感じていた。

どうやらその事実を知っている兄や、養母、親戚たちは何とも言えない顔をした。


『なら騎士に成れ』


唯一、兄だけはそう言った。


『騎士なら他国に出られる。ただそのための努力は想像よりもきついぞ』


迷いなんて無かった。

その日から、剣を握った。

兄が相手をし、母が教え、そして鍛えた。


まだ十歳の手はアッという間に血まみれだった。


気にした兄の親友が手に回復魔法を掛けてくれた。


それからは炎魔法を磨いた。

元々発現していた。

だから、誰にも負けないように強くなることを選んだ。


誰にも反対されないように、士官学校では一位を取り続けた。


十六歳。士官学校卒業の年。

首席で卒業した私に、渡された辞令は第四騎士団への入隊命令だった。


第四騎士団の仕事は裏方。

裏方が大事だと分かっているけれども、私が望んだ第三騎士団……最前線には行けなかった。

それでもめげずに二年間、第四騎士団で働き続けた。


ある意味転機で、ある意味地獄が来た。


十八歳。

第三次全面戦争の最中、避難誘導中の第四騎士団に冬の国の軍勢が急襲。


後ろには避難中の住民が大勢残っていた。


迷いなんて無かった。

剣と、魔法で、全員の避難が終わるまで時間を稼いだ。


まさか、そこで私と一対一の勝負を受けた剣士が、敵国の皇子なんて思いもしなかったけど。

屈強な身体のその剣士は、私の剣も、魔法も、簡単に防ぐ。

それこそ兄よりも強いんじゃないかと思うほど、強者だった。


全員が逃げ切ったのを確認したところで、私は全力で魔法をぶつけた。

傷一つ付けられず、私は捕らえられて、正直このまま死ぬのかな、と思った。


『へえ、住民を避難させるために戦っていたのか。お前、やるなあ』


私を完膚なきまでに叩きのめした剣士は楽しそうにそう言った。


複雑なことに、私は捕虜として、敵国に送られた。

地下牢でひたすらに恐怖と戦っていたところで、私を捕えた剣士が来た。


『このままだとお前は危険だ。悪いが、俺の離宮に来てくれ』


濃紺の髪に、月のような銀色の目。

その人が差し出した手を、迷いながら取った。


その離宮に行けば、ほとんど人はいなかった。


彼は皇子でありながら、孤独な人だと気が付いた。

ただ、離宮にいる人たちは、『敵国の捕虜を皇子が見初めた!』と楽しそうに私を着飾る。

話を聞けば、どうやら彼は女性を一切近くに寄せず、殺戮皇子など、不名誉な呼ばれ方をする人だと知った。


そんな彼が連れてきたのは、青年だった。


黒い髪、黄色……いや黄金を思わせる目。

私よりも頭一個より大きく、まだ成長中であるだろうが、しっかりとした騎士の身体の青年。


『香、姉さんっ』


泣きそうな声で、彼は私を抱き締めた。

背中のシャツをぐしゃりと握りしめる癖。

すぐに分かった……弟だ。


『満?』


『うん、満だよ、香姉さん』


その後に言葉は要らなかった。

舌足らずに『かおるおねえちゃん』と言っていた頃の弟はもう何処にも居なくて、弟は敵国の騎士になっていた。


『会いたかったよ香姉さん……姉さんもっ、会いたかった、と思う』


弟の苦しそうな言葉に、思わずハッとした。


『え、姉さん、は?』


息が詰まりそうになりながら、弟を見上げれば、弟は何とも言えない顔で私を見た。

ドクリ、ドクリと嫌な心音が耳にへばりつく。


『お前の姉が、今正直、問題だ』


『殿下!』


『はっきり教えてやった方がいいだろ。

お前の姉、光は今、春の国の捕虜だ』


いきなり言われたことに頭が追い付かなかった。


『お前の姉は一条 光。我が国の第四師団の副師団長だ。仲間の命と引き換えに、捕虜になったそうだ』


『正光殿下!』


弟の怒声に、頭がガンガンしていた。

ただ、ポロっと落ちたのは一筋の涙。


頭の中で、泣き叫ぶように私の名を呼んだ姉の声が反響する。


『生きて、いるんだ、ね』


『ああ、光は殺しても死ぬタイプじゃねぇからな』


ケラケラと笑う皇子はどこか皇子らしくなく、まあ、私の知っている王子は王太子殿下とその弟君。

あ、昆明さんも王子だった。

そう思えば、昆明さんも王子らしくないから、この人も似たような感じなのだろうと思った。


そこから、弟はことあるごとに、離宮に弟の家族を連れて来た。


弟や、姉と兄弟のように育った従兄弟たち。

鷹司兄弟は本当に満と『兄弟』だった。


でもそれを見てしまえば、私は綾人兄さんを思い出す。

『香!』と明るい笑顔で私を呼ぶ兄さんの顔が脳裏に浮かんだ。


満と彼らは兄弟だけど、私の姉弟は綾人兄さんなのだと、一人孤独感を感じた。


ポスッと私の頭に手が乗った。

無骨な、剣を握る人間の手で、思わず見上げれば、皇子は複雑そうな表情を浮かべていた。


『俺には兄が居るが、兄と思えねぇ』


急に言われた言葉に、私は何と答えていいか分からなかった。


『だけどな、兄弟みたいに育ったやつがいる。俺にとっての家族はソイツだ。お前にとっての家族も他にいるんだろ』


なんとなく、慰めてくれているのだと分かった。






離宮に連れられて分かったのは、彼は危うい地位に居ることだ。

毎日のように、彼は傷が増える。

軽いものも、深いものあるけれども、必ず増えている。


『え、怪我!?』


その日は明らかに傷が深かった。


『来るな!』


駆け寄ろうとしたところで、彼の怒号のような声が響く。

思わず足を止めたところで、その後ろから男が歩いて来た。

満が連れて来た、私の従兄、鷹司 義貞。


『香、触れてはいけません。殿下の傷は毒が混ざることが多いですから』


そう言いながら、従兄は皇子の傷を手当てしていく。

つまりは従兄も毒に侵されることのない身体だという事だろう。


『またクズですか?』


はあ、と大きなため息を吐きながら、義貞さんは手当てを進めていく。


『ああ。多分、アイツは俺より下なのが気に食わねぇんだろ』


『殿下、香が手に余るなら我が鷹司にて保護しますよ』


兄がそんなことを言っているのを黙って聞いていた。

ドクッと、嫌な心音が耳に届く。


『お前だと、伯父上に逆らえねぇだろ』


『ですが……』


『一条に保護させるにも、光がいねぇ状態の一条じゃ機能しねぇ。伯父上の命令をつっぱねられるのは俺ぐらいだろ』


二人の会話を聞いてしてしまったことを少しだけ後悔した。

私が彼を、傷つける要因になっているのだと、分かってしまったから。


『ま、なんだかんだ、コイツのことを気に入ってんだ。気にするな』


『……では満と友貞の二人をこちらの護衛へ』


従兄がそんなことを言って、次の日から離宮に弟と、弟と一緒に育った従弟が来た。


その日から、剣を使っていいと言われ、弟たちと剣で模擬戦をするようになった。

皇子も混ざって、よく分からないけど剣を交えるようになった。


弟たちは剣に魔力を付与して戦う魔剣士だった。

どっちも魔力コントロールが優れていて、力押ししてしまう私には新鮮だった。


まあ、それを見た皇子が私に魔力コントロールを教えてくれた。

今まで知らなかったことを知り、少しだけ柔らかい顔をする皇子……正光に不思議な気持ちになっていた。


『お前の人質交換が決まった』


突然言われた言葉に驚いた。


『人質、交換?』


『ああ、お前と光を土門……春の国だと喜哉だったか?その国境で交換することになった』


『え?』


『光とお前を故郷まで歩かせる。お前が光と話せるのはその一瞬だ。俺が出来るのはここまでだ』


彼の言葉を聞いた夜、空を見た。

綺麗な満月だった。


『おい、なんつう恰好で外出てんだ』


バサッと肩に掛けられた上着に驚いて振り返れば、シャツ姿で、どしっと隣に座る皇子。


『月って、どこで見ても同じなんだな、って思ったらなんか、見入っちゃって』


意味の分からないことを言ったな、思たけれども、隣の皇子は同じように空を見た。


『そりゃ世界は繋がってんだから月は同じだ』


『そう、だよね』


『姉さんも、この月を見ているのかな……』


『光は月見る質じゃねぇな。どっちかっていうと本を読む』


『姉さんの事、詳しいね』


思わず口から出た言葉を、慌てるように手でふさいだ。


『あいつは優秀だからな』


気にした様子もなく答える彼に、何故か胸がチリリと痛んだ。


『……正確に言うならお前の従姉でもあるんだが、澪が自慢するように言ってくるんだ』


『澪、さん?』


彼の口から出た従姉と名乗った女性を思い出した。豪快な感じで、どことなく皇子と似た空気を感じていた。


『澪と、その旦那の成継……あいつ等、光が可愛くてしょうがねぇんだよ。めんどくせぇ』


呆れたような彼の言葉に、胸の焦げるような痛みが減った。


『どっちかって言えば、俺は口うるさい光より、お前の方がいいわ』


サラッと言われた言葉の攻撃力の高さに、何も言えずに彼の上着を握りしめた。




『おい、香。ちょっと付き合え』


急に言われた言葉に、彼の離宮の人たちはあっという間に私を着替えさせた。

ただ、魔法で髪の色を彼に似た濃紺の色に変えられる。


『どこに、行くの?』


思わず尋ねれば、ニッと笑う。


連れて行かれたのはぱっと見、普通のカフェだった。

ただ、案内された席は個室だった。


『カフェ?』


『ああ、光の親友に光の好物聞いたらココのショートケーキとココアだとよ。クソ甘いが、どうせなら食べるかと思ってな』


そう言いながら彼はケーキとココアを注文した。


『どうせもう来ることはねぇだろうけど、姉の生きたところぐらい知っておきたいだろ』


そう言われて出されたケーキとココア。

姉の好物が、私と同じだと、初めて知った。

彼はコーヒーだけ頼み、私が食べるのを見ていた。


『姉さんとね、会ったら、一緒にケーキ、食べたかった』


『そうか』


『それで、同じベッドで、寝ながら、話したかった』


ボロボロと零れ出したものと一緒に吐き出した気持ち。ポンポンと席の反対側から頭を撫でられれば、更に悲しくなってくる。


この国に来て、私は初めて泣いた。




その後から、何となく毎晩、彼と話すのが日課になった。

彼の話は興味深いけれども、時々冬の国の理不尽さが垣間見える。

だから春の国だとこういう風にしているよ、なんて笑いながら話すと、彼の眉間のしわが少しだけ緩む。


ただ、満と、従弟の友貞が複雑そうな表情で私を見ることが多くなった。


『明日、土門に向かう』


その日の夜、彼からそう言われた。


『そう、なの』


複雑な気持ちになった。

姉に会える喜びと、同時に彼と会えなくなる悲しさ。

天秤がちょうど均衡するようなその感情にどうしていいか分からなかった。


『……もしもの話だ』


『え?』


急に切り出された言葉に、なんとも言えない返事が口から洩れた。

するりと力が入っていない私の手に、彼の武骨な手が絡んだ。


『この国が正常になって、お前の故郷と対等になれれば、俺はお前を求められるか?』


言われた意味を理解できないほど、私は馬鹿じゃなかった。


『それって……』


確信を口に出そうとしたところで、彼は笑った。

その表情に、ドキッと胸が騒ぎだす。


『そう言う未来を、目指してもいいか?』


ダメ押しのように言われた言葉に、ただ頷くことしかできなかった。

その瞬間、彼は花が咲いたような笑みを浮かべた。


『だとしたら、なおさら、光に帰って来てもらわないとですね~』


『殿下、俺の姉を口説かないでください!!』


急に後ろから響いた声に、ビクッとして振り返れば、ちょっとキレ気味の満と、満を羽交い絞めにしている従弟の友貞くんと、ニヤニヤ笑っている従兄の義貞さんがいた。


『お前ら……面白がってるだろ?』


『いいえ、殿下がお覚悟を決めたのならば、我らは従うまでです。まあ、恋が原動力とは似合わな過ぎて爆笑しそうですが』


そう言いながら、従兄の義貞さんは笑った。


『さて、殿下。私の可愛い従妹(いもうと)に求婚するなら私を倒してからになさい』


『あ、次俺と満な!』


『友貞、ちょ、離せ!一発ぐらい、殴らせろ!』


騒がしい離宮の状態に、思わず笑いが零れた。

すると義貞さんがポンポンと頭を撫でる。


『香、君としては気まずかもしれないけどね、僕らはずっと君を待っていたんだ。春の国にも家族がいるだろうけどね、僕らも君の家族さ。だから、また帰っておいで』


そう言って頭を撫でられると、全然違うのに綾人兄さんを思い出した。

落ちた涙、義貞さんが笑うし、友貞くんは満を押さえて『ステイ、満ステイ!!』と叫ぶし、満は『うちの姉を泣かせるな!』と叫んでいた。


ああ、そっか……家族って一つじゃないんだ。


『……忘れないうちに』


そう言いながら急に目の前で皇子が魔力を集め出した。

手のひらに竜巻が起こるように魔力が凝縮していくのが分かった。


綺麗に吸い込まれる魔力が、コロンと彼の手のひらで転がった。

彼の濃紺の髪と似た紺色に、砂金のような輝きが散りばめられている。

まるでラピスラズリのようなその石を差し出された。


綺麗な石に見惚れつつ、どうしていいか分からないで周りを見れば、全員の視線が私に来る。


『もしかして、香は知らないかな?春の国ではこういう文化無いのかな?』


そう尋ねてきたのは義貞さんだった。


『えっと?』


『男が自分の魔力で作った魔石を女に送るのは『結婚してください』って要するにプロポーズなのだよ』


『プロっ!?』


想像していたのと違うと、一気に赤面してしまえば、ニヤッと笑う義貞さん。


『で、香はどうするのだい?もし受けるなら、まず殿下の人造魔石を受け取るんだけど』


そう言われて、少し迷いながらも、彼の手のひらの石を指でつまんだ。


『なるほど。なら、次は香が殿下に魔石を送るのだけれども……』


『兄上、多分辞めた方がいい。香姉ちゃん澪姉ちゃんタイプ』


『俺もそう思う。多分、香姉さんは離宮壊滅させるタイプだと思う』


何故か友貞くんと満からそう言われて、何となく腑に落ちない気分でいれば『だよね』と納得したように義貞さんが笑った。


『うん、じゃあ、僕が補佐しようか』


そう言いながら、義貞さんが私の手を握った。


『おい義貞』


『変な嫉妬は辞めてくれるかい、正光。補助しないと、お前へのお返しが出来ないだろう?』


そう言った義貞さんはそのままニコッと笑う。


『さあ、香。まず魔力を手のひらに集めてごらん』


言われた通りに魔力を手に集めてみる。

一気に流れ込んだ魔力に、一瞬驚いた顔をした義貞さん。

でも私の周りを守るようにゆっくりと、その激流のような魔力をまとめていく。


そのまま待っていれば、私の手にコロンと、何かが落ちた。

すっと離された手のひらに乗るのは、ガーネットのような赤い石。


『君の作った魔石だよ、香。魔石を送り返せば、君は正光の求婚を受けたことになる』


そう言われて自分の手に乗る赤い石を見た。

そっと、手を差し出して、彼に見せれば、彼は少し嬉しそうに赤い石を指でつまんで受け取った。


『うん、婚約成立。ほら、満。拗ねてないで『お姉ちゃん』と『お兄ちゃん』に贈り物をしてあげないと』


そう言った義貞さんが見たのは、拗ねたような顔をする満だった。

ブスッとした顔で満は手のひらに魔力を集め出した。

黒い魔力がまるでねじれるように巻き込まれていき、そしてネックレスのチェーンのようなものが出来た。

暗さのある黒に近いグレー色のチェーンと、まるで渡された石を嵌め込むようなペンダントトップ。


『……婚約のあと、『家族』は送られた石を装飾するものを送るんだよ』


そう言いながら、満は私の手に包まれているラピスラズリのような石を手に取り、そのペンダントに嵌め込んだ。

ピッタリとハマったそのネックレスを、満が首から掛けてくれた。


『……おめでとう、香姉さん』


そう言いつつ、満はもう一つ、同じものを作った。

乱暴に皇子の手から赤い石を奪い取って、そして嵌めこんで乱暴に返す。


『どうせ殿下に作ってくれる家族居ないから代わりに作ったよ』


なんというか、拗ねているのが分かるけれども、それでも皇子は嬉しそうだった。


『必ず国を変えてお前を迎えいいく。だから、それまで待ってろ』


そう言いながら、彼が唇を落としたのは、私のネックレスの石だった。


別れの時はすぐに来た。


私は白の軍服に袖を通す。

綺麗に直された白い軍服は、今までと少しだけ着心地が変わっていた。

離宮に居た侍女たちが、一生懸命元の形に近いように直してくれたのだ。


その白の軍服の下にネックレスを隠すように掛けている。


その姿で皇子の隣に並んで、国境の町土門から、母国の国境の城塞都市・喜哉を見た。


白の軍服の中に、ポツンと黒い軍服が見えた。

姉だ――。


零れそうになる涙を見せないために、上を向いた。


その瞬間、空に黒い渦を見た。

驚くように視線を下げれば、白の軍団の中で、黒い軍服の姉が、黒い渦を作っていた。

一瞬にして、私を囲う黒い軍人たちが殺気を放つ。


でも、姉が手のひらをこちら側に向けた。


『待て』と制止させるような動きに、誰もが動きを止めた。


『はっ、アイツもいい顔するようになったな』


皇子の言葉に私は遠くの姉を見た。

遠い昔の記憶が呼び起こされた。

父と話すときの母の姿が脳裏に浮かんだ。


『元気でな』


小さな言葉に隣を見た。


その瞬間、パンっと音が鳴った。

直ぐ近くらの空砲。


パンっと母国側からも空砲が鳴る。


その合図が、本当の別れだって分かっている。


『私、待っているからね』


それだけ言って、真っすぐに前を見た。

ゆっくりと進み出す先に、同じように歩いてくる黒い騎士。


目の前で、黒い髪が風に攫われる。

風で、その目が細められる。


でもその金色の目は、嬉しそうに笑った。


近づいてくるその女性に、涙が零れそうだった。

近くで見れば、見るほど、記憶にある母と、そっくりだった。


『香』


もう知っていた頃の声とは違う。

でも穏やかに、彼女は私の名前を呼んだ。


『ねえ、さん』


絞り出した声はかすれてしまった。


『会いたかった』


そう言った姉が腕を広げる。

私は迷う事なんてなく、その胸に飛び込んだ。

記憶の中の姉は私よりも大きかったのに、今の姉は私と同じぐらいの大きさだった。


だけど、優しく抱きしめてくれるのは何も変わっていない。

悪夢を見た夜も、こうやって抱きしめてくれた。


『ねえさん』


『うん』


『私も会いたかった』


『うん』


ぎゅうっと抱きしめられる腕が、強いのに嬉しかった。


『そのネックレス』


ハタっと視線が私の首元に向いた。


そっと胸から出せば、姉はフッと笑った。


『その色は……正光殿下かな?』


『うん』


『そっか……香も一緒だったんだね』


そう言って笑う姉は、とっても綺麗だった。


『安心して香。また会えるから……絶対に会えるようにするから』


姉の目からぽろっと涙が落ちた。


『私が、みんなと変えてくるから』


そう言った姉は、もう一度強く抱きしめ、そしてあやすように私の背を撫でた。


『元気で、香』


『うん、姉さんも、気を付けて』


見つめ合った。


そして振り返らずに、互いの母国へ歩き出した。

一歩、超えた国境。


そして一歩、また一歩と歩みを進めていく。

優しげに笑う綾人兄さんの表情に、零れ出した涙が止まらなくなった。


『香』


優しい声で、綾人兄さんは腕を広げた。

耐えかねて、私はその胸に走って飛び込む。


『兄さん、綾人兄さん!』


泣きながら、兄の名を呼んだ。


いっぱい、話したいことがあるの。

私、凄く頑張ったの。


あとね、焼かれるように苦しい恋をしているの。


でも、言いたいことよりも、話したいことよりも、涙が止まらなかった。


私が泣きじゃくるのを、綾人兄さんは何も言わずに背を撫でた。





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