エピローグ
――春国・朝比奈邸にて
ああ、夢か、と働かない頭で思いました。
第三次全面戦争はもう三年前になるのだと、思い出します。
柔らかな木漏れ日のような光が視界に入り込んできます。
徐々にシルエットがはっきりして来れば、見慣れた顔が私を見ておりました。
「あ、おはよう昌澄くん」
「おはよう、ございます……いえ、お帰りなさい、千歳さん」
そう言いながら起き上がれば、自分がソファーで寝てしまっていたのだと気が付きました。
ジッと私の顔を見て笑う彼女を見て、何となく思い出してきました。
そうでした、兄上と義姉の光さんのイチャラブ空気を見ていられなくなって、逃げたのでした。
「なんか、魘されていたけど大丈夫?」
そう言われて見た夢を思い出しました。
「……ギガ盛ユッケを思い出してしまいました」
「ああ、第三次全面戦争?」
「ええそうです。『蝕毒』事件と……兄上と光さんの」
私がそこまで言えば、彼女は苦笑いを浮かべました。
「あの時は大変だったよね。あ、昌澄くんに告白されたのもその時だったね」
「うぐっ!」
いきなり恋人からドロップキックを喰らった気分で、嫌なことを思い出しました。
ええ、告白した直後に、周りからの援護が私のメンタルをゴリゴリに削ったのを思い出します。
でもそのあと、周りから次々に私の話を聞かされた彼女は、もうなんと言いますか、完熟トマトよりも真っ赤になって、しばらく私から逃げました。
我ながら、我が国最速の彼女をよく捕まえたと思います。
……本当に、頑張りました。
「昌澄くん?」
キョトンと無防備に私を見てくる彼女。
起き上がりながら、そのまま抱きしめて、抱き枕のように腕の中に押し込みます。
「えっ!?」
「なんでしょうか、疲れました」
「まあ、ここ最近忙しかったもんね」
苦笑いする彼女は抵抗せずに、大人しく抱き枕になってくれている。
「でもね、まだ第三次全面戦争の時は自分たちも当事者だったから感じなかったけどね、昌澄くんが冬の国の革命に巻き込まれた時は……生きた心地がしなかったんだよ」
急に言われたことに、驚きながら腕の中にすっぽりと納まってしまう彼女を見ました。
その表情は、少し辛そうで……。
今思えばあの時は本気で周りを心配させたものです。
……まあ、きっかけは綾人さんですし、元を辿ると香さんですし。
想えば、秋里の血縁者には何というか振り回され続けますね、私。
直系ではありませんが光さんも、昆明も秋里の血縁者ですし。
秋里の血縁者に厄払いしておいたほうがよろしいですかね?
しかし、巻き込まれたことで、兄上の恋路をどういう訳かアシストすることになりましたし、何故かこのことがきっかけで千歳さんと恋仲に慣れた気がします。
不本意ですが。
まあ、そんな怒涛のような少し前を思い出しながら、少しだけ抱き心地が良くなった恋人を抱き締めます。
「もう少し眠りたいですね」
「ダメだよ。」
珍しくワガママが通らず、ちょっと珍しいな、と思いながら彼女を見ました。
「出来たんだって、ウェディングドレス」
千歳さんの言葉に「あっ、」と声を漏らしました。
「ふふっ、忘れていると思ったけど、今日はドレスを見てくれる約束でしょ?」
「すみません、忘れていました」
「清澄さんに聞いたら、光さんが代わりに仕事してくれるって」
そう言いながら笑う千歳さんに、どうやら彼女が先手を打ってくれていたのだと分かり、思わず笑います。
多分ですが、私の眠る時間をギリギリまで確保してくれたのでしょう。
「ありがとうございます」
「それは光さんに言ってね」
「あとで言いますが、今のは千歳さんの気遣いにありがとうございます」
「ふふっ」
楽しそうに笑う彼女に、私も笑いが零れます。
「思い出せば、確かに冬の国の革命に巻き込まれた時の方が大変でしたね」
そう呟いた言葉に、彼女がビクッと肩を揺らします。
「でも、もう無茶はしないでね」
その言葉に対して、流石に即答できないのが頭の痛いところです。
無茶したくてしているわけでは無いのです。
「ま、答えないのが昌澄くんだよね」
呆れたような千歳さんの声が響きます。
「まあ、いいよ。私の所に帰ってきてくれれば」
そう言う彼女は軽々私の腕の中から抜け出て、手を差し出します。
「行こう、昌澄くん!」
そう言って笑う彼女の手を取りながら、私はまた昔のことを思い出すのです。
第三次全面戦争の停戦の最中に、
春の国で起きた『蝕毒』事件をはじめとする内乱は完全には終わりません。
その事件が国境を越えて冬の国で広がります。
まあ、その話は次回にいたしましょう。
一章・完
これにて一章これにて完結です!
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
番外編を少し書いてから二章に続く予定なので、また読んでくださればと思います!




