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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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三十五節 辞令と副団長


第三騎士団の訓練場があまりにも似合わない綾人さんはニヤッと笑いました。


「千歳、とりあえずこれだ」


何と言いますか、いたたまれない空気がやっと飛散したところで、綾人さんが一つの辞令書を千歳さんに手渡しました。


簡単に言えば団長や総長よりも偉い人からの辞令を仰々しい文で書かれた書類だ。


まあ、国王陛下からの『お前これやってこい!』を、ちゃんとお堅い文章にしたような書類ですね。


「辞令書ですか?」


千歳さんは綾人さんから受け取った辞令書を読んで、だんだんと青ざめていきます。


「え?」


「まあ、おめでとう、と言うべきか?」


「ああ、やっぱりですか」


綾人さんと兄上が千歳さんの後ろからその辞令書を読んで、そんなことを言いました。千歳さんは小柄なので、綾人さんも兄上も上から見られますね。


と、言いつつ、私もこっそり見ました。


『第一騎士団副団長 川上 敬 の除籍に伴い

第一騎士団三席 瞬木 千歳の副団長就任を許可する』


ああ、そっちでしたか……。

なんて思ったのですが、千歳さんが浮かび上がらせた色は、黒に近い紫でした。


「あ、アホですか綾人様!?

第一騎士団ってエリート中のエリートで、家柄もどこの博覧会かってレベルのお家の子息と息女ばっかりの団ですよ!?

私は弱小貴族の弱小跡取りですよ!?

暗殺させる気ですか!!?」


「朝比奈の家に暗殺行ける暗殺者いねぇよ」


呆れたように綾人さんが言いましたが、確かに我が家に暗殺者は来ないでしょうね。

暗殺者も裸足で逃げるレベルの方々が住んでおりますので。


「そこじゃない!!?」


千歳さんの叫び声を聞いた第三騎士団の副団長もまた、千歳さんの後ろから辞令書を覗き見ました。


「朝比奈邸なら安心だね~。何せ、朝比奈元団長と、倉敷元副団長がいる時点でオーバーキルですよ~。あれ、倉敷元副団長の奥さんもいるんですよね?わあ、なんていう地獄!

あ、でも、暗殺者が来るたびに壁が破壊されて目が覚めちゃうかも?」


「いや、笠谷副団長!!?その前に、私が朝比奈の御屋敷に住むこと前提で話が進んでいるのがおかしいと思うんですけど!!?」


「「えっ??」」


千歳さんの言葉に困惑の声を上げたのは第三騎士団の吉川団長と、その副団長の笠谷副団長でした。

ちなみに笠谷副団長は士官学校時代の二つ上の先輩でして、この中では一番年上ですね。

何考えているか本当に分からないタイプですが、弟たちが懐いているのを見るに、悪い人ではないでしょう。


ところで、お二人とも、なんですかその目は。

吉川団長、なんでそんな憐れんだ目で私を見てくるのですかね??

笠谷副団長、「ムッツリ」ってポソッと言わないでください、ポソッと!!


「ねえねえ、吉川。確か元団長ってさ~」


「それは、笠谷先輩……知らない方が幸せかと。」


「え~、でもさ、コレって?」


ニヤニヤ笑う笠谷副団長と、めちゃくちゃ胃が痛そうな吉川団長。

我が家の母と父の逸話を言っているのでしょうが、千歳さんはご存じありませんから大丈夫です。


「ああ、吉川団長」


兄上がニコリと笑いながら吉川団長の肩を叩きました。何ですかね、そんな猫みたいにビクッって肩を跳ねさせないでください、吉川団長。

あと、笠谷副団長は笑い過ぎだと思います。


「我が家の家訓は『押してダメなら押し通せ』なので、ご安心を」


「それ、安心できないやつでは?」


「絶対、朝比奈元団長の格言じゃないですか!」


真っ青な吉川団長と、めちゃくちゃ笑いながらの笠谷副団長。

兄上が笑って誤魔化しましたが、その格言は母ではなく、父の格言です。


「む、無理です!?綾人様!!?」


半泣きの千歳さんに、ポンって肩を叩いたのは笠谷副団長でした。

あ、半泣きで見上げる千歳さんちょっと可愛いです。


「し、偲先輩!?」


「まあ、あるあるだけど、千歳は貴族なだけましじゃない?」


キョトンとしながら言う笠谷副団長。

そこまで言って、ハッと思い出しました。


ですが、何故か第三騎士団の皆様が股間を抑えました。

一糸乱れぬその行動に、私をはじめ、兄上も、綾人さんも、千歳さんも、まあ外部の方ですが光さんも首を傾げました。


吉川団長、何故そんなに青い顔で視線を逸らすのですかね?


「僕なんか一般ピープルで、思いっきり平民だからね!おかげで、吉川に『副団長やってくれ』って言われた時大変だったよ」


ニコッと笑って楽しそうな笠谷副団長と、対照的に青ざめていく第三騎士団の皆さま。

あ、弟たちは何故かニヤニヤしておりますが。


「困ったときはね、キンタm」


「「「わあああああああああ!!?」」」


「辞めてくれ、、あんなの……」


「ああああ、悪夢だ、思い出しない!!」


「副団長の悪魔!!?気持ちが分かる癖に!!?」


「痛みが分かるのに容赦ないんだよ!!」


「悪魔だ……悪魔だ……あんなところを治癒されるなんて……」


……阿鼻叫喚の嵐にみんなの視線が笠谷副団長に集まりました。


「調教すれば問題ないよ!」


ニコッと笑う笠谷副団長……。何をしたのか想像がついてしまって、ゾッとします。というか、同じ男として悪魔度合いが上がります。怖すぎます。



「……そうですね!」


え?と言いそうになったのを思いっきり飲みこみました。流石に兄上と綾人さんもびっくりした顔をしています。あと、光さん、貴女は本当にお姫様ですね、「きんた?」って首傾げないでください。下世話な言葉なので覚えないで下さい!


「頑張ります、偲先輩!」


「おー、頑張れ、頑張れ!」


そう言いながら千歳さんの頭を撫でる笠谷副団長。


ぬぐぐぐっ!羨ましい!


ええ、知っておりますよ!笠谷副団長が貧乏って聞いた千歳さんに教科書とか譲っていたっていう話は!懐いているのも知っていますよ!!


でも割り切れません!!


「まあ、やりすぎんなよ?第一騎士団は坊ちゃまばっかりだから、変な性癖植え付けんなよ?」


呆れたように綾人さんが言いますが、チラチラ視界に入る光さんがはてなマークを連発して浮かべているのが対照的過ぎて困ります。


「で、こっちが本題の辞令だ」


そう言った綾人さんが出したのは丸められた巻物のような辞令書。

こちらの形は国王陛下直筆のサインと、王判が押された最高位の辞令書。


「お前に光の『喜哉』への護送の辞令が下りた。理由は二つ、女であること、副団長であること。こういう理由もあって、副団長指名だ。」


「……なるほど、承ります」


「あと千歳、俺に『様』付けは辞めろ。下との区別がつかなくなる」


「え、えええええ!?」


いきなり言われた言葉に、一瞬だけ理解が遅れた千歳さん。確かに副団長が、家臣のような言葉遣いは気になりますね。同じことに気が付いたのか、千歳さんは紫から青に色を変えて、一度深呼吸をしました。


「では、綾人団長、と」


そう言いながら千歳さんは綾人さんからの辞令を受け取ります。


「ああ、それでいい」


綾人さんはもう一つの辞令書を出した。それを兄上に渡してから、綾人さんは視線を動かしました。


「そんでもって、光」


綾人さんが光さんを真っすぐに見ます。

光さんはニコリと笑われます。


「お前の『人質交換』が正式に決まった。場所は『喜哉』と冬の国『土門(どもん)』の国境だ」


「ああ……あそこは更地では?」


すぐに地形が浮かんだのか、光さんはそう言われました。


確かに『喜哉』と『土門』の国境は平地の見渡す限り広大な更地。

何度となく繰り返される全面戦争の最前線であり、多くの兵士が展開できる広大な、戦場。


「ああ……そこでお前と香は国境まで歩いてもらう。交渉人も一切付けない。たった二人だ」


綾人さんの言葉に、光さんの目はこれでもかと大きく開きました。


「それは……」


「春の国は四騎士団、全部を展開させる。香に何かあればすぐに開戦だ。

……向こうも、同じだろう」


綾人さんの冷水のような声が響きます。逆に光さんは悲しそうに笑いました。


「こちらも四師団全てを展開するでしょうね……私が帰らねば、また戦争が始まる」


そう言って笑った。

浮かび上がる色は深く、冷たい、深海の海のような青。


「ありがとうございます。ご恩情を頂き。この上ない……最後です」


その表情は何とも言えない。

ただ、光さんの青に、違う色が混ざってきていくのは少しだけ悲しく見えた。


その色合いがなんとも言えないまま、胸に突き刺さった。


綾人さんから兄上に渡された辞令書を、兄上が私に差し出します。


『辞令、第二騎士団全団員にて交渉人 天翔宮 朱子、および交換捕虜 一条光の移送護衛を命ず』


兄上の色は、変わらぬ色でした。



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