三十四節 脳筋集団の参謀
Side 第三騎士団・副団長
戦場よりよほど制御が難しい光景が、今、目の前に広がっている。
いや~、随分愉快なことになっているな、というのが僕の感想だ。
第三騎士団の副団長を不本意ながらも続けている笠谷 偲は、目の前のハチャメチャラブコメを興味津々で見つめていた。
それにしても我が団はいつ見ても喜怒哀楽が乱高下していて楽しいな、と笑う。
普通の生活ですらこれだけ笑わせてくれるのだ、楽しい職場と言わざるを得ない。
まあ、風呂だけは時間をずらさねばならないのが残念だが。
二年前、士官学校時代の後輩であった吉川と共に、戦場で多くの仲間を失った。
当時は小隊の隊長であった吉川と僕は絶望とでも言える地獄絵図を目の前で見た。
そして吉川に『情報を伝えるために逃げろ!』と、僕らは殿を務めた。
一重に……我が国に『情報』を伝えることを優先して。
でも部隊の中で唯一爆風で吹き飛ばされた僕は瀕死となりながらも、生き延びた。
ぎりぎり息のあった僕を見つけ、僕を抱えてセーフゾーンに戻ったのは、向こうで真っ青になっている吉川だった。
他の騎士団トップ集団っていうか、キラキラ王子様・お姫様エフェクト満載集団に、ムッキムキの吉川が入るの場違い感半端ないよねー。
まぁ、吉川は二世だ、力量不足だ、自意識過剰だ、プライド高飛車だ、散々に言われているが――
彼は間違いなく第三騎士団の最強。
見る影もないぐらいに、震えているけれどもね!
まあ、メンタルブレイクされ始めたのは間違いなく、朝比奈元団長……いうなればあの規格外の朝比奈四兄弟の母親がお引退する際に、団長任命で吉川を指名したことだ。
あんなに傲慢だった吉川が『力量不足だ』『無理だ』と自分を見つめ直した言葉を何度も、何度も朝比奈団長に伝えた。
『お前は地獄を見た。私の時代は終わったってことだ。私みたいに、一人強くても、最強の第三騎士団にはならないのさ』
そう笑いながら23名もの殉職者を出した歴代最低の騎士団長との汚名を背負った朝比奈元団長は騎士団から『除名』された。
25年にも及ぶ彼女の功績は、勲章も、記録も、戦果も。
公式記録からは、綺麗に削除された。
悔しくて、どうしようもない時、吉川からある打診をされた。
『副団長に、なってくれ』
思わぬ申し出だったが、朝比奈元団長と共に『除名』された倉敷元副団長の席も空席となったことに気づかされた。
誰かがやらないと、また『死』が待っている。
僕は握った拳で思いっきり壁を殴った。
パラパラと第三騎士団の騎士団長の部屋にヒビが入る。
倉敷元副団長なら、壁壊して貫通させただろう。
『やるよ。ただし、システムを全部変えないとだ』
『分かっている。俺が目指す第三騎士団は『誰一人、失わない』だ』
強い視線でそういう吉川に絆されたのは間違いないだろう。
吉川はプライドも何もかも殴り捨てて、第四騎士団の治癒魔法士を借りる提携システムを作り、同時に、ある双子に目を付けた。
朝比奈四兄弟の三男と四男の双子。
兄たちに比べて剣術を得意とし、
なによりも我が国の最高位の治癒の血統魔法『朝比奈の水』を使用できる双子。
最前線で回復しつつ戦える。
何としてでも欲しい人材だった。
団長は来る日も、来る日も、士官学校へ出向き、二人を口説き落とそうとしていた。
まあ、印象最悪の諸悪の根源が来た!みたいな顔で二人は話も聞いてくれなかったらしい。
それでも団長は通い続けた。
翌年、口説き落とした双子が第三騎士団に入団した。
今思い出しても、初日は酷かった。
死屍累々でほとんどの団員が双子にやられた。
あの日立っていられたのは、吉川と僕の二人。
そこから吉川と僕は第三騎士団のシステム全体から変えた。
強者だけに頼るのではなく、全員の底上げ。
生存することを優先とした、戦闘プランの発案。
まあ、双子が思いのほかやりすぎるが、僕は団員たちが『助けて!』って半泣きで見てきても『生きろ』という役になって、上から色々と言われる小言を、吉川は一人で受け続けた。
ほんと、できた男だよね~
時々、双子の後処理に疲れて転団届を衝動的に出すような変人だけど。
そう言うときに止めるのは女房役の僕だったり、双子の仕事だからねー。
あ、誤解なきように言っておくけど女房役だからね?
女房じゃないよ!
間違ったら朱子殿下に殺されちゃう!吉川が!
でも、面白いことに、今日、第三騎士団の団員たちはみんな、目が変わった。
停戦状態になった敵国の将校の強さを間近で見て、なおかつ自国の最強の剣士を見られた。
みんな、また目が変わった。
僕らが行くのは『死』の最前線。
でも、一人もかけずに帰ってくるのが、僕らの信念。
なんだけどね……。
「ふっ、ちょっ、まさ、うっ」
う~ん、どうしよう。
というか、朝比奈次男。君ね、ちょっとTPO考えようよ。
訓練場に響くのは甘美な女性の声。
あ、誤解なきように言うけど、回復魔法掛けているだけなんだよ?驚くことに。
何があったって言えば、朝比奈長男がバーサーカーで、敵国の将校の女剣士もバーサーカーで、人質扱いなのに、朝比奈長男が敵国の将校殺しかけて、吉川と瞬木 千歳の二人が止めたんだけど、千歳が負傷。
んで、朝比奈次男が治療したら、こんな目を瞑ったらハートマーク乱舞の見せられないよ!ってなる空気が醸し出されている状態。
いたたまれなくて視線を逸らした第三騎士団の団員たちが、目を逸らしたら、見えない美学ってやつ?余計に想像しちゃうみたいで、『助けて!』って視線が来るんだよね。
『生きろ』って笑っておいた。
「副、団長、俺たち、限界ですっ!」
半泣きの団員たちが言うもんだから、急所が?って言いそうになったけれども、とりあえず笑っておいた。
その瞬間に、目が合ったのは朝比奈次男がやらかす横で、オロオロと瞬木と朝比奈次男を交互に見る吉川。
目が合った瞬間、雨の日に捨てられた子犬の如き目で見てくる。
『助けてください!!』
あ、うん。視線で分かるけどさ……。
『自分で言え』
ってジェスチャーすれば、絶望した顔の吉川。
目の前のハート状態の空気を死んだ目で見る。
「あの、朝比奈副団長」
おっ、吉川が覚悟を決めたように声を掛けた!
ちなみに第三騎士団の団員はみんな『団長!』って叫んでいる。心の中で。
「それ以上は……瞬木さんが、哀れかと……」
視線を逸らしながら、なんとか吉川が言った言葉。
おい、朝比奈次男、お前は前見ろ、前。
「ちょっ、も、だめ」
誤解招くぞ、千歳。
「昌澄の兄上、流石に千歳さんが悲鳴上げているんだから魔法は止めなよ?」
さすがに千歳が可哀そうになったのか、維澄の方が朝比奈次男に声を掛けた。
おい、キョトンとするな、キョトンと。
目の前で女がとろけてんぞ。
まあ、突っ込みたい気持ちを抑えて見ていたところで、朝比奈次男が手を離した。
そのタイミングで、朝比奈次男は何かをミスったらしい。
「ひゃあっ!」
あー……めっちゃ響いた千歳の声に、数名……三割ぐらいか?クリティカルヒットしたみたいだな。
なんて人ごとのように見ていた。
しっかし、好い声響いたな。
僕も男だったら反応したかも?
「ね~、偲ふくだんちょ~」
ノシッと急に肩に体重が乗っかる。重いね、とは言わずにそのさっきまで泣きべそかいていた我が団の三席を見た。
「どうした、遠澄」
「槍の練習をしたいから、付き合ってください」
「いいよ」
「え、いいの!?」
なんだ、その『聞き間違いじゃない!?』みたいな顔は?と言いたいところで、遠澄は目の前で始まったラブコメをジッと見た。
「ふっ、ふふっ、昌澄の兄上、凄い色している」
「彩眼は本当に凄いな。どうせ、デロデロピンクなんだろう、次男」
「あ、そんな感じだね。煩悩満載っていうか?」
「なんだ、ムッツリか」
「あながち間違っていないのが困る」
なんて言った瞬間に、朝比奈次男は長男に首根っこを掴まれて。千歳との物理的距離を置かされた。
「ところで、ずっと前から気になっていたこと聞いていい?」
「なんだ?」
「副団長っていつになったら、団長にカミングアウトするの?」
酷く雑に直球で聞かれた言葉にクスリと笑った。
「そうだな、吉川と朱子殿下が結婚したら、かな?そろそろ部下の性別を間違っていることに気が付いて欲しい気もするけどな~」
「副団長が『僕』って言わなければ気づくかもよ?」
「ほう、この前の戦時中に隣で着替えたが全く気付かなかったぞ!」
「……それはそれでどうなの?」
「さすがに自分の絶壁を恨んだ!」
「何それ」
遠澄の声が明らかに低くなったが、まあ、気づかれないものは仕方ない。
むしろ、遠澄はよく気づいたな、と感心するぐらいだ。
そのぐらい、僕が男ではないと知っている人間は少ない。
……と、言うよりも僕だけ生き残った日にみんな死んだ。
「さあね。」
そう言ってクスクスと笑っておく。
「まあ、おもしろいから黙っておくのさ」
第三騎士団の副団長。
狐みたいな細目に、首ほどで揃えた亜麻色の髪。
長身・馬鹿デカ壁集団の第三騎士団では平均身長ぐらい。
体格も、この中だと小柄に見える。この中ならね?
僕は笠谷 偲
絶壁なんてシャレにならないほどのスットーンの第三騎士団副団長。
そして――今日も笑って「生きろ」と言う側の人間だ。
一度書いてみたかったボクっ娘男装女子(不本意タイプ)
自分の脳内で偲の声は朴璐○さんの声で再生されていたりします(笑)




