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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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十五節 白き玉座と暴走王妃




王女殿下の先導で着いたのは国王陛下への謁見の間。


最上段には、広間より三段高く据えられた王座と、その隣に配偶者の座。

春の国の伝統衣装で仕立てられた着物を纏った国王陛下と王妃殿下が、そこに並んで座しておられる。


一段下がった二段目に並ぶのは王族。王女殿下はそのまま彼女の定位置たる王妃殿下に一番近い二段目に立つ。


ええ、ここまでが我が国が誇る……まあ、誇っておきましょうか。王族の皆さまです。


三段目に並ぶのは宰相と騎士総長。そのお二方は左右に構える。


そのさらに騎士総長の下に兄が進み、他の三つの騎士団の団長と並ぶ。


第一騎士団から第四騎士団の団長が並び、反対側の宰相閣下の下には文官たちの各省の長官たちが並ぶ。


……メタ発言ですが、我が国の偉い人フルコンプセット、みたいな感じです。第一騎士団の副団長だけ不在ですが。


ただ、これほどまでに『敵』に囲まれた状態であるにもかかわらず、黒の姫君は変わらず優雅に挨拶をした。


軍人として、右手を左胸に。そして拳を握ることで彼女は忠誠ではなく、敬意を示した。


「ふむ。楽に」


国王陛下の言葉に光さんはすぐさま元の体勢に戻った。ニコリと笑い続ける光さんに、面白くなさそうな顔をしたのは国王陛下だった。


「つまらん。向こうの国と我が国では礼が逆だというのは知っておったか。

春の国、十八代国王、孝明(こうめい)である。――許す、とだけ言っておこう。」


国王陛下の言葉にニコリと笑った光さんは、今度はカーテシーの体勢を取った。つまり、挨拶は冬の国の礼儀に合わせるようだ。


「初めまして。冬の国、筆頭五家の嫡子、一条光と申します。此度、捕虜の身でありながら御前に招集された理由、伺ってもよろしいでしょうか?」


周りから溢れんばかりの殺気と、真っ黒な空気が湧き上がる。気持ち悪いほど様々な色が混じる黒は、ぬるりと粘度を持ったようにしつこく光さんに絡みついていく。


それほど、春の国と冬の国には大きな確執がある。


戦争によって生まれた憎しみ。


「……確かに似ておるな。否というほど似ている」


国王陛下は嫌そうにそう言いながら隣を見た。ドレスに身を包んでいるが、中身は第一王女の母と言わざるを得ない王妃殿下。王妃殿下はニコリと笑って手に持っていた扇子を開き、口元を隠した。


「ええ。香の方はそんなに思わなかったけれども、色合いが違うにしても、貴女は我が妹によく似ておりますね?」


ニコリと笑っているのだろうけれども、その目から注がれるのは鋭く、そして厳しい。


「へえ。私は母親似なのですか?冬の国(我が国)では『彩だけ持った半端者』と呼ばれておりましたが」


ニコリと笑う光さん。しかし、誰もが思っただろう。王妃殿下が口元を隠されたことで、光さんと王妃殿下の目元が、非常に似ていることが際立った。


「ええ。忌まわしいほど、似ているわ。

――我が妹に」


パチンっと扇が閉じる音。

その瞬間、王妃殿下の魔力が高まり、光さんの足元から――ボワッと火の柱が立ち上った。

まるで燃える竜巻のような天井へと昇りあがる火柱。それから流れ出る熱風はその火柱が本物の『業火』であると証明する。


その熱風に最前列の文官たちが思わず一歩退き、鎧の金具がかすかに鳴った。


咄嗟に、誰よりも早く、すぐ隣に居た千歳さんが剣を握って走り出そうとしていた。


しかし、剣を抜こうとした千歳さんの腕をがっちり掴んで止めたのは、彼女の上司である第一騎士団団長・秋里綾人だった。

今日は副騎士団長が不在のため、団長席には綾人さん一人。

真っ先に光さんを守ろうと動いたのは、補佐役として来ていた千歳さんだけだった。


ただ、千歳さん以外の団長、副団長は誰も動かなかった。


いや、動く必要がないと、分かっていた。


「わざわざ血縁確認ですか?それともあわよくば『冬の国の第四師団の副師団長』たる私を焼こうとでもしたのですか?」


業火に包まれながらも、髪の一本たりとも焼かれることなく、まるで雪の中にいるかのように涼しい顔で立っている黒の軍服の彼女。


「どちらかと言えば前者でございます。血縁確認の方ですね」


ふわっとその『業火』は散って、花火の最後のように空に溶け込んで消えた。


そう言って前に出てきたのは我が国の宰相閣下。彼も五家出身者であり、我が父と同世代であるが、その類まれなる才覚は、神より直接ギフトを賜ったと言われるほどの切れ者。


宰相閣下の言葉に光さんは肩をすくめるように笑った。


「へえ。後者の可能性もあったってことですか」


「ふふっ、そこに関してはご安心を……幸いにしてわが国には最高峰の治癒魔法を持つ一族が居ります故」


そう言った宰相閣下は兄上と私にウィンクしてみせた。


狐顔の宰相閣下のウィンクは分かりにくいです。スーパースロー再生の魔法でも使わないと察せないレベルです。


「ここからは(わたくし)が説明してもよろしいでしょうか?」


宰相閣下が許可を取ったのは光さんにではなく、国王陛下と王妃殿下に対して。国王陛下が「よい」と答えれば、宰相閣下はまるで狐のような笑みを浮かべながら光さんに視線を向けた。


「『秋里』の姫君。ご帰還を心より歓迎いたします」


そう言いながら宰相閣下は格上の『貴人』にする挨拶。まあ春の国で『秋里』と言えば、王室に次ぐ高貴な家。そこの『姫君』であれば、正しい礼と言えるだろう。


ただ、思わぬ言葉に光さんの笑みが僅かに崩れた。


その後に広がったのは、濃い紫。

それがじわじわと黒に侵されていく。

疑念と不安が、感情の底で渦を巻いているのが見えた。


ちらりと兄を見れば、兄から出てくるのは青だった。


同情?どんな感情だ?なんて思っていれば、視線に気が付いたのか、兄がこちらを向いた。


フッと笑う兄上。とっても魔性の顔です。私が女でしたら兄弟だろうと落ちます。ええ、魔性です。


「『貴女様』は我が国で『二人目』の『姫君』ですからね……ましてや、冬の国でも姫君となれば、我が国としては捨て置くわけには行かないのですよ」


ニコリと笑う宰相閣下に、光さんは笑う。にこやかに見えるその顔だが、真冬のホワイトアウトしそうな絶対零度の吹き荒ぶ極寒ブリザードを背中に背負っていた。


「捨て置く、ね?」


その口元の笑みは崩さないまま、声だけが温度を失っていく。


「ええ、第二騎士団の朝比奈団長の庇護下に置いたとはいえ、『貴女様』を欲する人間はこの国だけでもごまんと居りますからね……。」


そう言った宰相閣下が見たのは末席の方の軍人や、貴族たち。宰相閣下の視線から視線を逸らした人間たちは気まずそうに赤色に近い紫を浮かべた。


「つまり、この場で私が『秋里の血縁』と分からせることが、私のみの安全を守るという事ですか?」


「ええ、そうなります。まあ、秋里のご当主が『俺の従妹(いもうと)』と宣言されておりますので、それだけでも抑止力ですが」


宰相閣下の視線が綾人さんに動けば、綾人さんは一度頷く。


「どっちの国も、似たようなものか……」


低く、侮蔑の混ざったような光さんの声が響いた。


「くっ……」


その直後に響いた王妃殿下の声。ぐっと握る扇子がみしみしっと音を立てる。




「もう無理!ウチの姪っ子可愛すぎ!!!」




広間に響いた声に、国王陛下は頭が痛そうな顔でこめかみを抑えた。


王太子殿下も同じ動作で眉間に皺をよせ、第二王子殿下は苦笑い。第一王女殿下は『あ~、持たなかったか~』と呆れながら笑っている。


第三王子殿下はあわわと慌てながら上座と広間の光さんを交互に見ている。


お前は王族らしく落ちつけ!!……と流石に言えませんのでお口にチャックですが、兄上を含めた騎士団長の面々は「「「「あ~」」」」と呆れた声でハーモニーを奏でていた。


「ちょっと、どういう教育したらこんな凛とした感じになるの!?

ウチの妹は香とそっくりで、ほわ~~~んとした癒し系だったのに、

娘はこんな切れ味抜群の白百合になっちゃうの!?

……いや、どっちかっていうと『近づくな』って言ってる感じの大輪の赤薔薇!?」



皆さま多分同じことを思われたでしょう。

『王妃、息しろ!』

ええ、この間ノンブレスですからね。流石に王妃殿下も一度呼吸をされました。


「とにかく、可愛いわ!」


ビシッと閉じた扇を光さん向けながら宣言された王妃殿下マシンガントークに、どうしていいのか分からなくなったのか光さん。


そうですね、さっきまでの殺伐空気から一転、『うちの子が可愛い!』とプレゼンしまくる母上集団のお茶会の空気になりましたからね。


戸惑った光さんは助けを求めて宰相閣下を見た。速攻で視線を逸らされました。


続いて、こちらの騎士団長ゾーンを見られました。


綾人さんが『長い物には巻かれろ』と口を動かし、兄上が『悪い方ではありません』と口を動かされました。


その流れで私を見られましたが『ご武運を』とにこやかに笑っておきました。


光さん、そんなゲテモノを見る目で王妃殿下を見ないでください。我が国の一番高貴な女性なんです、それでも……。


「まったく……朝比奈の坊主!こっちの姪っ子も確保よ!絶対に逃すんじゃないわよ!」


王妃殿下の声が響き渡れば、皆の視線がこちらに向いてきました。ちらりと兄を見れば呆れた顔で、そして視線が合う。たぶん、私も似たような顔をしていると思います。


「兄上、ご指名です。」


「おや。お前も朝比奈だろう、昌澄」


「いえいえ、光さんのエスコートは兄上にお任せします。というか、早く助けてあげませんと、光さんがいたたまれない気分になられるかと?」


そう言いつつ、視線を向けたところで、オレンジ色に近い赤が浮かび上がる光さんが自分の顔を隠して俯いていた。ええ、光さんの耳が赤いのは突っ込みません。


チラリと盗み見た兄上が楽しそうに笑われておりまして、ええ、魔性です、兄上。

幼女からマダムまで、皆さんの理性を奪うレベルの尊顔です。

それはいけません。

女性の皆様がトゥンクトゥンクしてしまわれます!


え、ナニあれ可愛い。


ってアフレコを付けたいところですが、とりあえず兄上、その顔はやめてください!


ま、まあ、光さんはこういうパターンを想像しておられなかったのでしょうね、分かります。我が国の王族の方々は非常におちゃめです。故に反面教師で末っ子が胃痛持ちに……。


そんな兄上は楽しそうに光さんの横に行き、そして手を差し出してエスコートなさいました。あの流れるように華麗なエスコート、私には真似できませんね、とちらりと深刻な顔をなさっている千歳さんを盗み見ました。


なんともまあ、悔しそうな顔ですね。こういうところが彼女のいいところであり、愚直すぎるところでもあるのですがね。


なんて少し違う思考にふけっている間に、兄上がエスコートして、光さんをこの場所から退散させてくださいました。とりあえず、彼女はメンタル回復するでしょう。


ただ……こそこそと聞こえる声が『兄上と光さん並ぶと素敵~~~』的な外堀が埋め埋め状態になっていることについては。



……私は何も聞いておりません。聞かなかったことにします。







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