独白録:一条 満 四【国境】
Side 一条 満
時の流れはあっという間。
ひょっこり帰ってきた澪姉さん。
予想通り、義貞兄さんはブチギレ。
成継さんは宣言通り『監禁』。
俺と友貞は震えて抱き合う。
……監禁、と言ったけれども、澪姉さんの身体は予想以上にボロボロだったらしく、安静にさせる措置らしい。
そうして、来て欲しかったような、
来て欲しくなかったような、運命の日が来た。
冬の国と春の国の国境の防衛都市、土門。
互いの国境の町から展開される軍団は一発即発という言葉が最適だろう。
ただ、少し意外だったのは、春の国の白の軍団に囲まれる姉さんが驚くほど穏やかな顔をしていたことだ。
『なんか光姉ちゃん妙に元気じゃない?』
隣の友貞の言葉に、頷いた。
その姉が、魔力をまとめるような動きをした。
俺を初め、一条の人間たちが剣の柄を握る。
でも姉は『待て』というように手で制した。
その意味を、冬の国の人間は知っている。
『え、光姉ちゃんマジ?』
『……相手の男誰だかわかるか?』
隣の友貞に尋ねれば、ニヤッと笑う友貞はジッと相手を見た。
『あれは多分、第二騎士団の団長の朝比奈 清澄じゃないかな?』
『破天荒な次男の方じゃないよな?』
『ゾンビ軍団生み出した長男の方だと思うよ』
そう言いつつも姉が差し出した石を受け取った男の顔はどこか穏やかだった。
『……光姉さんにもチェーンとペンダントトップ必要だな』
『あれ~?香姉ちゃんと差が激しいな?』
『あれは正光殿下が気に入らなかっただけ』
『ふ~ん』
そう言い合っていたところで、空に向けて音が鳴る。
パンっと、鳴り響いた音は、風に溶け込んだ。
反応するようにもう一度、空砲が鳴る。
二度目のパンっという音に、白い軍服の背中を、見た。
その音を合図に、白の軍団に囲まれた、黒の姉はこちらに向かって歩き出した。
そして黒の軍団に囲まれた、白の姉は向こう側に歩いていく。
雪を踏みしめる音と、風が泣き叫ぶ音、剣が震える音。
緊張感が――爆発寸前まで高まる。
白い軍服の背で赤茶色の髪を靡かせる姿が、どこか懐かしかった。
――幼き日に見た、母を思い出した。
『またね、香姉さん』
聞こえないであろう言葉を小さく呟いた。
唯一、聞こえたであろう友貞の口元も僅かに緩んだ。
歩いてくる姉さん。
歩いていく、香姉さん。
二人の脚が、ちょうど国境で止まった。
二人の髪が風に攫われ合う。
どうして……この瞬間に思い出したのだろう。
黒い髪と、太陽眼を持った父の笑顔と、
紅茶色の髪と、業火の目を持った母の笑顔を。
忘れていた記憶の蓋が開いた。
ぼろり、と落ちた涙の意味など、誰にも分からない。
『そうだった……母さんと香姉さんの髪の色は……紅茶色だった』
俺の呟きに、友貞は何も言わず、ただ背中を叩いた。
その手が、妙に暖かかった。
『ごめんね、母さん。父さん。忘れていた』
そう呟いたけれども、両親としては忘れたままで居て欲しかったかもしれない。
でも俺は思い出してしまった。
俺が涙を溢すように、姉もまた、銀色の涙を零しながら歩いてきた。
風に攫われるその涙は、俺と、香姉さんと、同じ色だ。
歩いて来た姉は泣きながらも、笑った。
『ただいま』
その言葉に、俺も、友貞も、義貞兄さんも、姉の小さな身体を抱きしめた。
『おかえり、姉さん』
温かさを感じる姉がフッと笑った。
柔らかなその表情はどこか満ちているように見えた。
ふと、俺は振り返った。
白の軍団の中で、香姉さんを抱き締める紅茶色の髪の男。
遠くから、姉を見つめる男。
俺は軍帽を取って頭を下げる。
同じ動作をしたのが周りにいるのを感じた。
友貞、義貞兄さん、そして一条の血縁。
顔を上げて軍帽を被り直した。
『ねえ、満。私ね、婚約先取りしてきた』
ふふっと、笑う姉は楽しそうだった。
姉さんが笑っている限り、俺の闇は闇のままではいられない。
『帰ったらチェーンとペンダントトップ作るから、人造魔石を見せてね』
そう笑って、俺たちは帰った。
ああ、俺はまだ、未熟だ。
それでも今度は、見ているだけじゃない。
姉さんの帰る場所で、
香姉さんも帰って来られるように、
――今度こそ、ちゃんと立っていよう。
これにて番外編も含めて一章完結です!
続きも書き始めますので、お待ちいただければと思います!
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