プロローグ
新連載始めました~
恋愛と戦闘が両立した?作品を目指して
ゆっくり書いていくのでよろしくお願いします!
平和という言葉ほど、信用できないものはない。
なぜなら、平和な時ほど修羅場は育つからだ。
例えば今。
兄は義姉を膝に乗せている。
しかも執務中だ。
……感情が色で見える私にとって、これはなかなか刺激が強い。
――これが、今日の修羅場の始まりである。
――春の国・朝比奈邸にて。
穏やかな日の光で、私は手を止めて窓の外を見た。
平和であるはずの青空を見て、私が思い浮かべたのは悲惨な戦場。
多くの裏切り、多くの犠牲、多くの決意。
――多くの人間たち。
血で血を洗う戦場を思い出して、今の穏やかな日々を噛み締めた。
カチャ、っと小さな音が響きました。
「少し休んだらどうですか?」
その声に顔を上げれば、心配そうに見つめてくる義姉が居りました。
どうやら紅茶を入れてくださったらしく、目の前には湯気の立つ紅茶が置かれております。
顔を上げてみれば、トレーにもう一つの紅茶を持って、苦笑いする女性。
「ありがとうございます、義姉上」
「昌澄さんに、『義姉上』と呼ばれるのは、まだむず痒ですね」
「私の方が年下ですし……」なんて言いながらも、義姉はそのままもう一つの執務机の方に歩き出しました。
私と同じように執務に追われる兄は、私以上に書類の山に埋もれておりました。
そんな兄を優しげな視線で見つめる義姉は、新婚らしい白いドレスを揺らしながら兄の隣から、もう一つの紅茶を兄上の前に置きました。
「そろそろ休みましょう、清澄さん」
義姉の言葉に顔を上げて、フッと笑った兄がその瞬間に、義姉の腕を引きました。
「わっ!?」
驚いた声が漏れた義姉はそのまま兄上の膝に乗って、すっぽりと兄上の腕の中に包み込まれておりました。
「ちょっと!?なんで!?」
流石に焦った様子の義姉は持っていたトレーを抱えながら頬を赤く染めておりました。
身体を捩りつつ、なんとか兄の腕から逃れようとしているのですが、兄は楽しそうに笑うだけです。
義姉が耳まで真っ赤になったところで、兄がスッと、そのトレーを取り上げ、執務机に置きます。
……兄の楽しそうな感情は、オレンジに金色を混ぜて揺れている。
義姉は顔は真っ赤に染めているが、その後ろで咲かすのは桜のような淡く美しい色。
「……疲れました」
兄の心の底からの言葉に、義姉は抵抗をピタリと止めました。
ええ、兄がここまで疲れるのは分かります。
それほどまでに、今は忙しいのです。
出された紅茶でのどを潤しながら、ちらりと見た兄夫婦。
兄は澄んだ水のような水色の髪に、満月のような白銀の瞳。
その瞳の虹彩には淡い虹を持ち、瞳に魅了された人間は数知れず。
兄のようなこの目に虹を持つ目を『彩眼』と、人々は呼びます。
義姉は漆黒の髪に、太陽のごとき黄金の瞳。
その瞳は赤い斜陽の如き筋が入り、宝石のようだと称されることもあります。
義姉のような黄金の瞳を『太陽眼』と、人々は呼びます。
『彩眼』と『太陽眼』で見つめ合う二人の姿は、絵姿のように美しく、お似合いでありました。
私は湯気が薄らいできた紅茶を一気に飲み干しました。
そしてスッと立ち上がり、兄が義姉を捕えた執務机の前からトレーを取り上げ、自分の飲み切った紅茶の茶器をトレーに乗せました。
「義姉上、少し早いですが、今日は休みます。……ので兄上を、よろしくお願いします」
そう言った瞬間に義姉は何か叫びたそうだったけれども、兄が先手を打ってその口を塞いだ。
義姉が真っ赤になりつつも、兄が楽しそうな色を浮かべたので、私は視線を逸らす。
その瞬間に義姉の首に輝く薔薇型のクリスタルのような魔石を見て、思わずため息吐いた。
内心では『リア充爆発しろ』なんて叫びたいところだが、私ももうすぐ独身卒業なので息と共に言葉を飲みこんだ。
コツ、コツと廊下を歩けば静かな廊下には足音が響く。
廊下を歩きながら、私はふと息を吐く。
――随分と穏やかな世になった、と。
ほんの二年前までは、隣国同士が血を流し合う戦時下だったのだから。
その戦場で、兄と義姉は出会った。
巷で人気の『騎士団長と敵国副師団長の恋物語』。
『彩眼の騎士団長』と『太陽眼の敵国の副師団長』が慈しみ合い、手を取り合い、心を通わせ、――そして国の腐敗に立ち向かう剣と恋の叙事詩。
それが誰の物語か――言うまでもない。
ただ、事実は物語よりも数奇で、物語よりも波乱の連続。
この物語は私、朝比奈 昌澄が、兄夫婦を語る物語だ。
二つの国の運命を揺り動かす兄夫婦が、夫婦となるまでの道筋。
その道の途中で、誰が死に、誰が裏切り、誰が消えたか——私は覚えている。
兄と義姉が出会ったことで母国と敵国、両方の根深い腐敗が立ちふさがった。
多くの人間が、自分だけは正しいと信じていた。
それらは全てぬるま湯に生まれた腐敗だった。
兄と義姉は腐敗を壊し……二つの国を大きく揺るがし、同時に新たな価値を産んだ。
その過程を人々が忘れても、私が覚えている。
それでも私は、あの選択を後悔しない。
――壊さなければ、救われない命もあった。
……少なくとも、私はそう信じている。
私は語り部である。
ただ、ほんの少しだけ、兄に申し訳のない気持ちがある。
私が見なければ、あの選択はなかっただろう。
私は——この物語で多くの犠牲者を産んだ共犯者でもある。
今は平和だ。
だからこそ、私は怖い。
感情は、いつだって色を変える。
誤字報告ありがとうございます!
気が向いたら評価してもらえると嬉しいです!




