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622 ジャンル:SFダークファンタジー

 暗闇。

 光一つない空間。

 物理的概念から隔絶された場所。


──パッ


 光が生まれた。

 踵を鳴らしていた『彼女』を照らす。

 暗闇の中、鮮やかに映るメイド服の紺。

 十代後半にも三十代前半にも見える彼女は、真鍮色のボブヘアをふわりと揺らす。

 口元には艶ぼくろ。


 彼女の名を【ハンナ・フォン・アンタレス】といった。


 自称人間。

 邪神、賢者の石、二代目ラッキーダスト卿、アダマスの乳母……様々な呼ばれ方があるが、今はそのように名乗っている高次元の存在だ。

 年齢も姿も自由自在で、今の姿が人である必要もないが、人でない必要もない。

 只、少なくとも今の彼女はこの姿を好んでいた。


 人間が『好き』だからだ。

 桃色の唇が動いて言葉を紡ぐ。


「さあさ皆様、この度はお越しいただきありがとうございます。

今章にて語られるのはある男の『死』。

それを以て少年が成長する話であります」


 彼女の背後に二つのスポットライトが落ちる。

 右手側には金髪の、女性的な美しさを持つ少年。

 それはこの物語の主人公【アダマス】である。


 そしてもう一方に照らされるのは、スタイリッシュな黒スーツを着た2m超えの大男。

 スーツの上からでも分かる筋肉が付き、熊のような威圧感があった。

 年齢は30代の中盤。

 黒いオールバックに伊達眼鏡。

 顔の左半分を一文字に流れる太い傷跡。

 なによりも猛禽類のようなギラギラとした目が一般人でない事を物語っていた。


 彼等の像を背に、ハンナは鳥の如く両手を広げた。

 第四の壁の向こう側に居る読者に視線をやり、微笑み顔を見せる。

 キツネを思わせる目付きだった。


「我々の世界への来訪者【セト・ヤクモ】。

悪の組織なんぞを作り、我々の世界を荒らし回っていた悪い人です。

初登場は四章ですが因縁は深く、いわゆる『宿敵』で御座います。

彼の目的は簡単、『この世界を自分と同じ弱肉強食の世界にする事』。

いわゆる、中世世界に来た現代人が『王政なんて遅れている、民主主義こそ正義だ』とか口走ってしまうあの現象ですね。

向こうでの名前は『瀬戸 八雲』ですが、此方の作品という事で統一させて頂きました」


 スポットライトが消え、二人の主人公が再び闇に消える。

 ハンナの姿だけが、ゲームのグラフィックのように不自然に光る。


「さて、皆様。

彼の『死』を知るにあたって、少々このスチームパンク世界と離れた視点になる事をお許し下さい。

坊ちゃまも出てきません。

なので、もしかしたら退屈になってしまうかも知れません。


なにせ、これから放送するはヤクモが『主人公』だった頃のお話。

暗黒の番組で御座います。

残酷な物が苦手という方もいらっしゃるかも知れませんが、お付き合いして頂ければ幸いであります

彼が前の世界でどのような事をしていたのか……。

長くなってしまいますが、ご覧下さいませ」


 ハンナは手の平に、バスケットボール程度の小さな『地球』を生成した。

 ヤクモの世界の地球の再現だった。

 それをバスケットボールの如く、人差し指で回した。

 回転しつつも『地球』から玩具のような宇宙戦艦が飛び立った。


「先ず、世界観説明といきましょうか。

小説のはじまり方としては悪手でありますがね」


 地球が西暦を捨てた未来世界。

 彼の世界では永久機関が開発され、人類はテラフォーミングによって様々な居住惑星を開拓し、宇宙への進出を果たしていた。

 しかしその背景は明るい訳でもない。

 地球の天然資源が枯渇し、貧民層を開拓民として宇宙へ送り込むが故の決断である。


 湧き上がるのは宇宙へ行く者への差別、思想の変化。

 そして地球民への恨み。

 様々な社会問題を背負ったが故の決断は、人類が三つに分かれて対立するに十分な理由だった。

 ひとつは『はじめて宇宙を開発した惑星』を謳う地球軍傘下の人間。

 ひとつは『完全なる頭脳』である人工知能【プルートゥ】の統治の基で人類の過ちを犯させないと謳う冥王帝国軍の人間。

 そして、そのどちらからも属さない『見放された民』。

 見放されたといっても貧富の差が激しい時代では、大半の人類はこの層に分類される。

 豊かなのは一部の人間だけなのだ。


 しかし数は力。

 事実、火星はその見放された民らに権力を掌握されていた。

 表向きは地球軍によって収められているが、その実は現地のマフィアによって地球とは切り離された政治形式と言える。

 独裁は絶対悪でなく、民主主義は絶対正義でなく。

 『汚いやり取り』で成り立つ火星の風土には、地球のやり方は根付かなかったのである。


 宇宙戦艦が飛び切り、小さな地球が消えた。


「そんなマフィア──真の支配者の名は『ミアズマ』。

地球に本部を置いた伝統ある反社会組織であり、その若頭が火星支部を運営しておりました。

ぶっちゃけヤクザですね」


 ハンナは革のソファを生成して浮かべる。

 脇にはライフル型のビームガンが立て掛けられていた。

 『ミアズマ』の事務所で愛用されていた物だ。


 ミアズマはありとあらゆる『力』を使って、アウトローの集まりだった火星を纏め上げた武闘派集団だ。

 地球軍上層部に潜り込ませた幹部から横流しされた武器の支援。

 そうして得た権力を以て火星内部ならダーティーな『スキマ商売』や直接的な暴力で。

 外部なら艦隊を用いて駆逐する。


 特に単なるアウトローと一線を画すところは『艦隊戦』が強いところ。

 旧式ながら一大隊規模の宇宙戦艦の艦隊を持ち、正規の軍隊だって退けるのだ。

 しかし強さの根源はそれらを率いる『若頭』にあると、構成員は口を揃え、畏怖の感情を込めて言うのだった。


「その若頭の名を、セト・ヤクモといいました」


 突如。

 ハンナの立つ背景が、暗闇から白い廊下に変わった。



 廊下の壁は、セラミック複合装甲のパネルを何枚も繋いで作られた硬く冷たく武骨な物。

 彼女は横にある小さなモニタを弄ると、廊下の外の景色が映った。

 黒い空間に散りばめられた星。

 そして幾つもの宇宙戦艦の艦隊が、此処が宇宙空間であることを示している。

 戦闘中だ。


「エネルギーについて解説致しますと、『永久機関』が戦艦に直接積まれている訳では御座いません。

惑星には巨大な永久機関を設置された『塔』が存在し、そこから照射されるエネルギーを受けて戦艦はエネルギーを得ます。

なので、『塔』の奪い合いがこの世界の戦争の基本と言えますね」


 スカートを翻してカツカツと歩く。

 すると、ある場所から床の色が変わっているのが分かる。

 赤色だ。

 赤い床には沢山の死体が転がり、壁床天井と余すところなく血で覆われている。


「どうやら先程まで、艦内での戦闘が行われていたそうです。

少数の腕自慢が敵艦の外壁に穴を空けて侵入し、押し入り強盗よろしく惨殺。

この時代では珍しくない光景と言えましょう。

特に、敵艦の物資を無傷で奪おうとする『見捨てられた民』はこの戦い方を好みます……あら、実行犯の方々が見えましたわね」


 歩いていたハンナは足を止めた。

 その視線の先には、五人の人間が立っている。

 この血塗れの『惨劇』。

 しかしそれは、戦時であれば英雄的行為となる。


 若頭、セト・ヤクモ

 ハッカー、アズマ

 雇われ殺し屋、イオリ

 メカニック兼スナイパー、タカラ

 相談役、マエストロ


 これまで、この物語に出てきたミアズマの主要人物達である。

 この頃のヤクモ達は無敵のチームだった。

挿絵(By みてみん)

お絵描き。ヤクモ


読んで頂きありがとう御座います。


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― 新着の感想 ―
最終章到達おめでとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈) ここからハンナさん無双が始まるの? かとおもいきやの、ヤクモの旧世界解説。 見放された民が大半を占める、というのが、たしかにそうだよなぁなどと思った…
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