618 おいでよ変態パーク
とうとうレースは錬金術市街へ。
此処は個性が爆発している店が並んでいる場所。
丸い機械を繋げたような店から、水晶で出来たような店まで、子供が思い浮かべたようなファンタジーな建物が勢ぞろいだ。
工業化や制度化により多くの錬金術士が職を失ったが、それでも一部の優秀な人間たちは生き残り、この区域で暮らしているのだ。
そして天才と変態は表裏一体。
我が侯爵領は個性的な人が多いが、一番の変態が揃っているのは此処だと思う。
アセナを乗せて丁寧に、しかし馬に追いつかれない程度に加速しながら進むと、住んでいる人々が興味深そうに此方を見ていた。
しかし今までと反応が違う。
娯楽のベクトルが違うのだ。
具体的には、競技ではなくボクの運転するバイクそのものに興味を持っているように見ていた。
「あれが例のナナハンを再現して改善を加えたバイクか。子供の背丈でも運転できるのだな」
「蒸気機関を二輪車に取り付ける案は昔からあったものだが、変形機工は無いように見える。見た目は普通だな。子供向けに使いやすくしているのか?」
「音や揺れからして馬力が高いが、あのフレームで持つのだろうか。
一見真鍮に見えるが、強度的には違うな。
どのような合金を使っているのだろう。緩衝材として液体金属を使っているのは確かだろうが」
「蒸気の水そのものにも特殊な錬金試薬が……」
皆さん研究熱心だなあ。
まるで学会で発表される実験動物のようだ。
──でも。
そう思い、ボクは前を見た。
それでも良いと思っているからだ。
どうせ貴族なんて社交界に出れば見世物と変わらない。
それに、そんな事より重要な事がある。
視線の先には、真鍮色で独創的なデザインのおもしろ建物。
玄関前に吊り下げられた看板は、大鍋を煮る女性の形。
そこには『メリクリウス錬金術店』と書いてある。
エミリー先生の家だった。
流石に彼女本人は、怪我で此処まで気楽に歩いて来れなかったらしいが、店員の子供達がボクを見ている。
このバイクは彼女の発明だ。
すなわちバイクが評価されるなら、エミリー先生が褒められる事となり、非常に誇らしかったのだ。
だから実験動物ではなく、品評会とも考えられるのだ。
よし、行くぞ!
思い切って派手なアクションをしていると、「おお」と大きく感心を集める声。
チラリとミラーで後ろを見ると、フォウの馬が建物のパーツや屋根なんかを渡りながらアクロバティックな動きで迫って来る。
「ガッハッハハハハ!
ア~ダ~マ~スウ~!覚悟おおおお!」
フォウが変な笑いを浮かべていた。
いや、本当に変な笑いだな。
キャラブレてないか?
大真珠湖の辺りで変なスイッチが入っちゃったかなあ。
まるで深夜ノリだ。
それを証明するかのように、テンションに比例して何時もより派手な乗りこなしをしている。
一方で家が壊された人は、壊された事自体には無関心でフォウの動きを近くで観察しようとしていた。
う~ん、この研究者肌よ。
「話には聞いていたが、あれがルパ族の壁走りか。興味深い」
「山羊のように動くとしても馬の体重で出来るものなのか」
「そもそも馬を操るとは決まった命令を送っているのであって、機械のように複雑な命令は遅れない筈だろう。
即ち既存の馬術とは何か別の……」
周りであーだこーだとフォウの馬術について議論がはじまった。
フォウ本人に聞かなければ決着が付かないのだが、それでも議論したがる人種なのだろう。
そういえば昔の馬術の授業で、中生代の辺境伯も坂をピョンピョンと飛び回る遊牧民の馬に、敵ながらも感動したって聞いたなあ。
アセナがにやにやと笑い、ギターを鳴らしながら此方を見て来る。
演奏されているのは、劇場で行うコメディ演劇で、ピンチの場面で流されるポピュラーな音楽だ。
「さあ、どうする?注目を取られちゃったなあ」
「むうう~、ボクのエミリー先生はあんなのに負けないから!
ちょっと荒い運転するから気を付けてね」
「あはは、それでこそ男の子だ!」
フォウが上から飛び降りて鞍の取っ手を掴もうとするが、ボクはドリフトの原理で車体を大きく倒し、そのまま最大出力で建物の角に突っ込んだ。
そして煉瓦の壁を破壊してカーブをしたのだった。
普通なら交通事故であるが、ボクは玄武咆哮で物理に対しては無敵状態。
そしてバイクは装甲でガチガチに固められて、馬力も凄い!
子供みたいな表現だが、子供だから良いだろう。
普段は大人びていると言われるボクであるが、嬉しい時くらいは子供になりたいものさ。
周囲は「おお~」と一番の感心の声。
アッハッハ、どうだ。
エミリー先生は凄いだろう。
思わずガッツポーズをした。
すると、煉瓦対策にしゃがみながら避けていたいたアセナが上半身を起こし、ツンツンとボクの頬を突いてきた。
「なんだい?」
「子供らしくて可愛いなって」
「そうかい、ありがとう」
隙あらばラブコメ。
甘い雰囲気がボク達の間に流れた。
しかしその空気はぶち壊されるのがお約束。
ボクが破壊した、背後の壁に異常が起きる。
ズガンと飛び散る煉瓦と砂ぼこり。
ボクの開けた穴が広がり、煉瓦の中から巨馬が飛び出して来たのだ。
建物は段々と傾きながら壊れていく。
はじめはボクが開けたとはいえ、良いのかコレ。
顔を青くしていると、アセナが指差して「アレが家の持ち主な」と、崩壊していく家の近くを指さした。
そこには「煉瓦を壊せるなんて素晴らしい出力だ!」と、キャッキャと喜ぶ変態が居る。
う~ん、じゃあ良いか。
するとフォウが巨体の上から大声を上げてきた。
それは今までのように尊大なものではなかった。
只、純粋に遊びに興じる剥き出しの『少年』そのものの声だった。
「アーハッハッハ!楽しいなぁ、アダマス!」
「ボクは別に」
「そうかー!まあ良い。余は楽しい!
認めた宿敵と、全力を以て正々堂々とした勝負で挑める。
もしかしたら戦争で戦うなぞ、遠回しだったのかも知れないな!」
「じゃあ戦争なんてしなければ良かったじゃないか」
「それは出来ん、何故なら戦争せずして今の余はおらんからだ」
めんどくせえなあ、コイツ。
と、感じつつボクとしてもちょっと楽しさを覚えていた。
彼の暑苦しい熱血の波動に当てられたか。
いいや、それだけではないだろう。
今日この日の為に練習を積んできたし、実践も味わった。
それでも全力を出さないと負けるって状況は、活力を高ぶらせる。
カーブを曲がった先は、駅前の道路。
ゴールは直ぐ先だ。
さあ、一歩を踏み出そう。
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