お披露目会と動き出した物語①
――コンコン
「姫様、おはようございます。
今日は時間との勝負ですからね、頑張りましょう!」
ノック音と共にマリーが入って来た。
あの、マリーさん、まだ太陽昇りかけなんですが。
早すぎやしませんか。
「おはよう、そしておやすみなさい」
「ダメです。はい、起きて下さーい。
今日は姫様のお披露目会なんですよっ」
知ってる。でも夕方からでしょ。
態勢を整えて二度寝しようとすると、ベッドから放り出された。
「私、一応 王女………」
「はいはい。文句は全て終わってから聞きますから、今は我慢して下さいませ」
一般ピーポーだった記憶しかないから分からないけど、
乳母って実は権力者なんですか。
だって自国の王女にコレだもんね。
不敬罪というか、人によったら暴行罪に問われるよ?
『王女の乳母、実は最強チーターだった』的な、新ジャンルですか。切り開いちゃった感じですか!
「マリー、実は異世界転移してたりする?」
「異世界転移? 何です、それは。
とにかく準備始めますよ、1分でも惜しいので」
「ですよね!何でもないのっ、忘れて」
こういうのはアレよね。誰にも言わないのが定石よね。
今から変な子だと思われたら大変だもの。
前世だったら厨二病ですんだけど、この世界は分からない。
もし悪魔つきとか言われて隔離されたりでもしたら大変だわ。
5才から始まったマナー&歴史の勉強では、平和な国っていうイメージだけど、外を知らないから実際は分からないし。
そんな事をぐるぐる考えているうちに準備が完了していた。
すごい、ぴっかぴかだっ。
自分で言うのもなんだけど、美少女だと思う。
腰まで伸びた、ホワイトに近いプラチナブロンドのゆるふわ髪。ターコイズブルーの海を思わせるパライバトルマリン色の瞳。お人形さんみたい。DNAって偉大。
それが今日は、メイド達の手でさらに磨きがかかってる。
すでに3時間かかってますからね。この準備に。
あれ、私いつ朝ごはん食べたっけ。
記憶はないけど、お腹は満たされている。え、恐い。
「素敵ですぅ!姫様!
じっくり見れない事が悔やまれますが、時間がありません。神殿に参りましょう」
「………神殿? 」
何故、神殿?
え、神殿って、あの神殿?
聞いてませんよっ、今日ってお披露目会だけじゃないの?
「はい。姫様も10才になられたので、属性を鑑定してもらうのです」
「どうして? 私の属性は水でしょう。また鑑定してもらう必要があるの? 」
この国では、安全性を考えて魔法は10才以上から学べるようになっている。
しかし、王族はコレに当てはまらず7才から学ぶ。
だから再鑑定の意味が分からないわ。
「ありますよ。それにジョゼフ殿下もアラン殿下もされています。しきたりのようなものとお考え下さい」
しきたりと言われたら仕方ないか。
これでも王族だから、伝統は守らないとね。
王都の最北端に位置するデメテリア神殿は、豊穣の女神デメテリアを信仰する王国最大のデメテリア教 総本山。
国内にある教会の7割を占めているのが、コレ。
残り3割は、教会と信者数が少ないだけで、別に差別などはない。まぁ、信仰は国民の自由と定められているしね。
「分かったわ。ねぇ、マリー。
神殿まで馬車でどれくらいかかる?(寝れるかな)」
「転移魔法で行くので、すぐですよ。
馬車には乗りません」
転移魔法っ!
存在するのは知ってたけど、体験した事はない。
楽しみすぎる!
ラノベみたいに酔って気持ち悪いとかあるのかしら。
でも一瞬で目的地に行けるんだもの、それを差し引いても素晴らしいわ。
「じゃあ、早く行きましょう!」
「ええ。応接間に神殿の方がいらっしゃっているはずです」
というわけで応接間に着きました。
―――が、
「レティっっ!何て可愛いんだ‼︎
僕のレティは天使に違いないっ」
「くっ、危険だ。コレでは余計な虫がうじゃうじゃと!」
お兄様方、何をしてらっしゃるんですか?
「………あのぅ、ミカエル様がお待ちなのでそろそろ」
あ、貴方が神殿の方ですね。
「お迎えありがとう。お願いしますね」
「「俺(僕)のレティが、可愛い‼︎ 」」
「お任せ下さいませ、王女様」
外野を見なかった事にして、笑顔で神官の元へ行く。
差し出された手はどうすれば良いのかしら。
握手………ではないよね。とりあえず重ねてみるか。
「「「あ゛っ」」」
あ゛っ?
兄様だけでなくマリーまで驚いてる。
間違えたかな、作法間違えちゃった感じかな。
どう取り繕おう。
ぎゅっ
「ぎゅっ? 」
重ねた手をガッツリ握って、神官が何か唱えた。
わっ! 眩しい!
急に足元が光ったと思ったら、目の前にどでかい真っ白い扉が。
「お疲れ様でした。さあ、神官長ミカエル様がお待ちです」
「此処……は、神殿ですか」
「左様でございます」
扉の奥にいるのね、きっと。
それにしても静かだわ。私達以外 人気はないし、風の音さえ聞こえない。ゔー萎縮しちゃう。
「あの、何か作法、、、いえ決まりとかあったりするかしら? 」
「………そうですね、我々にはございますが、この場で王女様が気にされる事はございません。
さっ、お進み下さい」
あるよ、絶対あるよ。
マリーは驚いて声を出したんじゃなくて、焦ったんだわ。
迂闊に行動するんじゃなかった。
「失礼しまーす(小声)」
恐る恐る扉を開けると、心地良い光に満ちた空間が広がっていた。
窓は見当たらないけど、一体どこから光が。
「ようこそ、レティシア様。こちらへどうぞ。
私、神官長のミカエルと申します」
祭壇の前に立つ美青年。
ええっ、神官長って偉い人よね。てっきり白髭蓄えた御老体だと思ってた。
透き通った白髪に吸い込まれそうなエメラルドグリーンの瞳。祭服と相まって神秘的だ。
男の人に失礼だけど、すごく綺麗。ちょっと人間離れした容姿かも。
「ごきげんよう、ミカエル様。本日は宜しくお願い致します」
「こちらこそ。
その前に、急なお呼び出し失礼致しました。
本来であれば誕生日の3ヶ月後の予定だったのですが、神のお導きがありまして」
「とんでもございませんわ。会までは時間がありますもの(3ヶ月も先の予定を急にねじ込むとは!)
ただ、私何も知らなくて……ご不便をおかけするかも(ほんの15分前に知らされたもので)」
「レティシア様に特別して頂く事はございませんから、ご安心を」
さいですか。嫌味が効かないわ、この美人さん。
笑顔の眩しいこと、おほほ。
「では、早速鑑定を始めましょう。
そのまま楽にしていて下さい」
「分かりましたわ」
くっ。こんな綺麗な人に見つめられたら緊張する!
でも悪い気はしない。なんならご褒美な気が―――げふんげふん。
恥ずかしいから目を閉じとこう。
「はい、終わりましたよ。
再鑑定の詳細は後程お送りしますが、今お伝えしますか? 」
「ぜひ」
「―――――――、こんな感じですね。
さすがは王族といったところでしょうか。素晴らしいです」
「ありがとう存じます」
「それではまたお会いしましょう」
「ええ、また」
* * * * * * *
「お疲れ様でございます。ミカエル様。
ただいま戻りました。………いかがでしたか? 」
「ああ、送り迎えご苦労。
神託通りだったよ。
鑑定結果、王家に届けといて」
レティシア・ファン・ベーヴェルン ⑽
種族;人間(王族)、(???)
属性;水 C
光 D
スキル;??
加護;豊穣の女神デメテリア(?)
「レティシア王女、ねぇ。
私の鑑定が弾かれるとは………レベル不明とはいえ女神の加護持ちが今何人いる?
そんな人物がスキル不明か、、、ふーん興味深い」