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番外編12 エセルとシェリー3

前回のあらすじ

 リックは、面接をした結果、動物の鳴き声の物真似が得意なノーマを採用する事に決めた。

(あるじ)さん。お邪魔するよ」

 うちは、主さんの私室の扉を開ける。

 この扉を勝手に開けて良いのは、主さん以外には、うちとエセルさんの二人だけだ。

 それだけ信頼されている証拠かな。

 しかし、部屋には主さんはいなくて、エセルさんがいる。

「リック様はお風呂へ行かれましたよ」

 そうか。そんな時間だった。

「何か言付(ことづ)けがありましたら伝えておきましょうか」

「うーん。どうしようかな。今日の分の仕事が終わった報告なんだけど」

 エセルさんから伝えて貰えば事足りる。

 しかし、うちとしては直接主さんに伝えたい。

「お疲れ様。ありがとう」

 仕事終わりに主さんから、笑顔でそう言われるのが、最近の密かな楽しみでもあるからだ。

「もう少ししたら戻られると思いますので、待たれますか」

「そうするよ」

 エセルさんのお言葉に甘えて、主さんの私室で待たせてもらう事にする。

 うちは仕事が終わったが、エセルさんは主さんの就寝準備で忙しそうだ。

 水差しの用意、寝間着の用意、ベッドメーキング、手際(てぎわ)よくこなしていく。 

 手伝ってあげたいけど、この(たぐい)の作業、うちは苦手だ。

「さすがだね」

「メイドの仕事をしているまでです」  

 エセルさんは当然のように装っているが、内心嬉しそうだ。

 動きが少し軽快になっている。

 褒められれば誰だって嬉しいよね。

「ねえ、エセルさん。一つ聞いても良いかな」

「何ですか」

 枕を整えながら、返事をするエセルさん。

「どうして主さんにノーマを雇った方が良いって進言したのかな」

「ノーマさんみたいな物真似を出来る人はなかなか見つかりません」

 淡々と話すエセルさん。

 予想通りの返答だ。

「うちもそう思う。だけど良いのかな。恋敵が増えたのかもしれないよ」

 枕を持っていたエセルさんの手が止まる。

 確かに主さんとエセルさんは恋仲だ。

 しかし、主さんは気が多い性格に思える。

 エセルさんを愛しているのは事実だが、うちにも好意を持っているし、オリーヴ様への想いも諦めきれていない。

 ノーマは主さんよりも年上だけど美人だ。

 男が苦手というが、何故か主さんへは苦手意識の度合いが他の男性よりも軽い。

 既に主さんは少しずつノーマを異性として意識しだしている節がある。

 貴族の一夫多妻は当たり前の話だし、教会だって愛人を何人も囲っている聖職者は珍しくない。男とはそういう生き物だから仕方がないと思っている。

 けれども、妻や愛人の人数が増える程、(そそ)寵愛(ちょうあい)が薄くなる危険がある。一つのパイを四人で分けるのと八人で分けるのとでは、一人が食べる事ができる量が違うのと同じだ。

 エセルさんが進言しなければ、ノーマは雇われなかった。わざわざリスクのある行動をしたのか、うちは不思議だった。

「リック様がノーマさんと関係を持つ可能性が高い事は、エセルも覚悟しています」

 エセルさんはうちの方を向かず、窓の外、暗闇を見ながら話す。

「しかし、今のリック様には一人でも多くの仲間が必要です」

「エセルさんも気が付いていたんだ」

「もちろんです。心配しています」

 うちとエセルさんが心配している事、それは主さんの将来だ。

 主さんはまだ成人していないのに屋敷の家計管理を担う等、責任のある仕事を任されている。

 父であるピーター様は、主さんが金銭感覚を養うための修行と言っているけど、それは方便だと思う。

 主さんの実力を評価しているから、そして主さんをウォーカー男爵家に繋ぎ止めるために任せていると、うちは考えている

 ピーター様が元気なら、これから主さんは徐々に仕事を任されていき、ウォーカー男爵家に欠かせない人物になっていただろう。

 しかし、ピーター様は病の身。日に日に衰えていている。

 失礼な言い方をすれば、先は長くないはずだ。そんな事を言ったら主さんは怒ると思うけど。

 ピーター様の次の当主は長男のポール様が()かれる事は確実だけど、ポール様が主さんをどの様に扱われるかは分からない。

 兄弟という(きずな)は、強い結びつきを生む事もあれば、強い反発を生み出す事もある。

 教会にいると貴族のお家事情がよく見えるけど、兄弟が反目する例は枚挙(まいきょ)(いとま)がない

 ポール様がピーター様同様主さんを重用して頂ければ問題ないけれど、冷遇された時どうなるのか。

 主さんは苦境に立たされる。助ける仲間が必要だ。

 うちとエセルさんは確実に主さんを助ける。

 マーカスさんも力を貸してくれると思う。

 オリーヴ様は主さんに友好的だけど、ポール様の妻だ。何かと制約を受けてしまうだろう。

 だから、エセルさんは頭数を増やそうとノーマを仲間に引き入れるように進言した。

 ただ、エセルさんの態度を見ていると複雑な心境なのかな。

 それでも主さんの為を考えての行動だ。

 偉いなぁ。

「それを聞いて、うちは納得したよ。エセルさんは本当に主さんが好きなんだね」

「もちろんです。それにリック様は何が有っても、どんなに女と抱えようとエセルを愛し続けてくれると信じています」

 そう言い切るエセルさんは自信に満ちている。

 主さんを信頼している。

 輝いている。その姿がとても(まぶ)しく感じる。

 本当に偉い!

 尊敬するよ!!


「ところでシェリーさん、エセルはノーマさんに一つ疑問があるのです」

「何かな」

「ノーマさんは、リック様に掃除が得意って言っていましたよね」

 そんな事を言っていたかな。うちは頷く。

「ノーマさん、メイドの仕事をされていたから掃除はそれなりには出来るのですが、特技と言えるほど凄くないのです。むしろ料理とか裁縫の方が上手なのですが、何故あの時、自信もって掃除が得意と言ったのでしょうか」

 エセルさんの疑問に対する答えをうちは一つ知っている。

 ただ、それを話しても良いのかな。分からないと言った方が良いのかな。

 そんな事を考えていたら、うちはまた髪の毛をいじってしまっている事に気が付く。

 しまった。

 うちの癖がバレている以上、誤魔化す事はできない。

「これはね、うちの勝手な推測だけど、暗殺を生業としている人は、対象者を始末する事を『掃除』という隠語で表現するんだ」

「えっ!?」

 絶句するエセルさん。

「あ、あくまでも勝手な推測だよ。違っている可能性の方が高いかな」

「そ、そうですよね。ノーマさんは暗殺者なんかではないですよね」

「「あははは」」

 お互いに乾いた笑いをする。

 ノーマが本当に暗殺者だとしても、掃除する機会が発生しないと良いな。

 うちはそう思った。

 同時にそんなに甘い考えをするようになった自分自身に驚いた。

 主さんの影響を受けているのかな。


読んで頂いてありがとうございます。

北海道・東北・北陸の大雪、大変ですね。

お住まいの方、怪我お気を付け下さい。

次回もよろしくお願いします。

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