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第63話 面接試験

「まずは名前を教えてくれ」

 エセル達、周りにいる全員がずっこける。

 皆ノリが良いな。お笑い芸人になれるぞ。

「主(あるじ)さん、今まで彼女の名前を知らなかったのかな」

「しかたないだろう」

 ずっと女と呼んでいたから名前を聞く機会を逸していたのだ。

「エセルもシェリーも彼女の名前を言った事が無いだろう。本当に知っているのか」

 俺は疑いの眼差しを二人に向ける。

「もちろん知っているよ」

「エセルも知っていますよ。ねぇ、ノーマさん」

 エセルが女の方を見ると、女は首を縦に振って肯定する。

「そうよ。あたしの名前はノーマよ」

 女ことノーマが自己紹介する。

「ではノーマ。君の特技を教えてくれ」

「スパイ活動かしら」

「「「それは違う」」」

 俺とエセルとシェリー、三人の声がハモる。

「命惜しさに雇い主の情報を漏らしたり、噓の情報を報告したりするのは、優秀なスパイとは言えない」

「ふふ。冗談よ」

 俺の言葉にノーマはそう言うが、目は泳いでいる。

 本気でスパイ活動が得意だと思っていたらしい。

「それなら、掃除(そうじ)かしら」

「エセルがいる」

 屋敷全体であれば広いから人数が多い方が良いが、俺の身の回りだけなら普段からエセルがしてくれるので増員する必要はない。

 それに俺だって簡単ではあるが、身の回りの掃除くらいはしている。

「エセルは凄いのね」

 ノーマは感心している。メイドだから掃除は必須技能だと思うのだが。

「他には特技はないか」

「えっ、えーと………」

 ノーマは頭を抱え考え込んでしまう。

 ネタ切れだろうか。

 自分の特技を二つも否定されたので焦っているのがよく分かる。

 余程の人手不足で困っていない限り、日本の企業ならこの時点で面接終了、不採用になる。

 その考え方はこの世界でも同じだと思う。このまま終わらせても問題はないだろう。チャンスは与えた。

 ただ、俺は彼女が何か言いだすまで黙って見守ることにする。

 これは俺の勘(かん)でしかないが、ノーマは何か持っていそうな気がするのだ。

「………ぇ」

 長い時間が経過。

考え込んでいたノーマは、ようやく何か言葉を発する。

「すまない。声が小さくて聞き取れなかった」

 俺はもう一回言うように促す。

「なきごえ」

「え?」

 今度は聞き取れたが、言葉に意味が理解できなかった。

 泣き声?これまで泣きそうな顔はよくしていたが、これは特技なのだろうか。

「物真似(ものまね)が得意なのよ。鶏とか猫とか犬とか。一度聞いた動物のなら何だって真似できるわ」

 俺の態度が、ノーマには馬鹿にされたと見えたようだ。

 彼女はとても恥ずかしそうに説明する。

 顔は真っ赤になっている。

「動物の鳴き声が得意なのか」 

 ノーマはコクンと頷く。

泣き声ではなく鳴き声か。

「とりあえず犬の鳴き声をしてくれ」

「お安い御用よ」

 ノーマは犬の鳴き声を発する。

「若様、こちらから犬の鳴き声が聞こえましたが、如何なされましたかな」

 ノーマの物真似を聞いてマーカスがやって来る。

 本物の犬の鳴き声と勘違いしたらしい。

 それだけノーマの物真似は上手だった。

 俺は鶏、猫、鼠、牛、馬など思いつく動物の鳴き声を要求したが、どれも本物そっくりの鳴き声だった。

「凄い特技だ」

 俺は素直に称賛する。

 ノーマは嬉しそうだ。

 しかし、凄い事は凄いのだが、活用する機会は限られそうだ。

 宴会の盛り上げ役くらいだろうか。

 ただ、俺が主催するような宴会なんて無いし、ウォーカー男爵家そのものが、辺境という土地柄かパーティーのような華やかな集まりをほとんど開かない。

 兄さんの結婚式やティム君の誕生祝いは特別な行事だったのだ。

 俺の元で働くより、サーカスや大道芸で活動した方が活かされると思う。

 可哀想だが、これだけでは雇うのは難しい。

 男爵領追放処分。王都にいるパイル男爵が怖いなら別の都市に送還するか。

 俺と付き合いのあるターミガン商会のアーノルドなら良心的なサーカス団を紹介してもらえるかもしれない。

「リック様」

 エセルが耳打ちしてくる。

「ノーマは雇われた方が良いと思います」

 エセルが予想外の意見を言う。

「動物の鳴き声の物真似は使い道が限られた特技かもしれないです。しかし、他の人よりも抜群に秀(ひい)でています。思わぬ時に役に立つ事があるかもしれません」

 鶏鳴(けいめい)狗盗(くとう)。

 エセルの意見を聞いて、前世で聞いた故事を突然思い出す。

 紀元前中国の春秋戦国時代、斉(せい)の国の孟嘗君(もうしょうくん)という人物が秦(しん)の国に幽閉され殺されそうになった時、食客(しょっかく)として召し抱えていた物真似名人の鶏の鳴き声のおかげで秦の国から逃げ出せて命拾いをしたという話だ。

 まるで俺が孟嘗君になった気分だ。

 孟嘗君だって物真似名人を召抱えた時は、命の危機に活躍するとは想像していなかっただろう。

幽閉されたり命を狙われたりするような事態に、今後も遭遇しない事を願うばかりではあるが。

「ノーマ、君は合格だ」

 過去の偉人の判断を尊重しよう。

「ありがとうございます!」

 ノーマが輝いた表情をする。

 心の底から喜んでいる。

 その様子を見ていると俺も嬉しい気持ちになる。

「何をしてもらうか詳細は後で詰めるが、頑張ってもらうぞ」

「はい。精一杯頑張ります。よろしくお願いします」

 こうして、エセル、シェリーに次いで俺の元に新しい仲間が一人増えたのであった。


読んで頂いてありがとうございます。

久しぶりに3日連続投稿をしましたが、次回の更新は通常通り1月20日水曜日を予定しております。

これからもよろしくお願いします。

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