第62話 牢屋の女 その後
昨日は多くの方からアクセスして頂きました。
ありがとうございます。
「若様、お待ちしておりましたぞ」
牢屋の手前の入口に白髪頭の老兵士マーカスがいる。
「なぜマーカスがいるんだ」
いつもの牢屋番はどこに行ったのだろうか。
「彼は三日前から風邪をひきましてな」
なるほど。治るまでの間、マーカスが代役を務めることになったそうだ。
ある時は護衛、ある時は牢屋番、町の兵士隊長を引退した後も何かと忙しそうだな。
「それであの女の様子はどうだ」
するとマーカスが顔を曇らせる。
「大量の吸血ゲルを見ても動じなかったマーカスにしては珍しいな」
「化け物と女では扱いが違いますのでな」
マーカス曰く、女は彼が近寄ると恐怖に身を強張らせ今にも死にそうなくらいの顔になるそうだ。
満足に会話をした事も無い。
これはマーカスもそうだし、いつもの牢屋番にも同じ対応だという。
「まるで、このマーカスが極悪人のように感じてしまいましてな」
さすがのマーカスも困った様子だ。
「彼女がメイドして潜入していた時も、男性に対しては同じだったと聞いています」
エセルが補足説明をする。
極度の男嫌いだな。
「だけど変だな」
マーカスは猛者だが見た目は好々爺、牢屋番も強面ではなく人が良さそうな風体をしている。
逆に悪人のような外見をしている俺の方が怖がられながらも会話が出来ているし、そこまで酷い対応もされていない。
「若様の人徳かもしれませんな」
「それは違うと思うけどな」
とりあえず会ってみよう。
俺達は牢屋へ足を踏み入れる。
「よう。元気か」
俺は極力明るい口調で鉄格子の向こうにいる女に話しかける。
「何の用かしら」
女は一瞬身を震わせるが直ぐに落ち着きを取り戻したし、不安そうな顔はしているが今にも死にそうな感じにはなっていない。
むしろ、この前、会った時よりも反応は良くなっている
不思議だ。
ちなみにマーカスは怖がらせてはいけないという理由で来ていない。
「様子を見に来ただけだ」
外見を見る限り健康上の問題はなさそうだ。
食事はしっかり食べているし、夜も寝ているそうだ。
「そうなの……」
女はそう言うと、モジモジしだす。
「トイレか」
「違うわよ!」
女は強く否定する。
「主さん。その冗談は面白くないよ」
いや、冗談のつもりは無かったのだが。
「リック様は、何かあるとその冗談を使う傾向が有りますので、気をつけられた方が良いかと思います」
「そうなのか?」
俺の問いにエセルは「はい」と答える。
気がつかなかった
そういえば前世日本人だった頃も同じシーンがあった気がする。
「女性にトイレの話題はデリカシーがないよ」
どこの世界でも女性に排泄の話題は駄目らしい。
気をつけるようにしよう。
「そろそろ良いかしら」
いつの間にか会話の輪から外れてしまっている女が、恐る恐る声を掛けて来る。
いけない。また忘れるところだった。
「頼みごとがあるの」
「頼み事?」
女の言葉をオウム返しする俺。
いったい何だろう。
「あたしを雇ってもらえないかしら」
「えっ?」
俺は驚く。
「それはウォーカー男爵家の使用人ではなく、俺個人の部下という意味か」
「そうよ」
平然と答える女。
エセルやシェリーは口をポカンと開けている。
この二人は驚いているというより呆れている感じだ。
「それはパイル男爵を裏切るという意味で解釈して良いのか」
核心を突いた俺の質問に、女は困った態度を見せるが、すぐに反論する。
「しかたないじゃない。パイル男爵に噓の報告をしてしまったのだから。これで帰ったら裏切り者として始末されるわ」
女の言う事は尤もである。
大失態を犯したパイル男爵は、そのきっかけを作った女を恨んでいるだろう。
うーん、困った。
実を言うと俺は、この女をウォーカー男爵領から追放して王都まで強制送還するつもりでいた。
王都へ送られたらパイル男爵に捕まるとか言い出して泣きそうだな。
ただ、雇えと言っていること自体が言い掛かりに近いし、そもそも罪を犯しているので、そこまで配慮する必要はないと言えばそれまでなのだが。
俺はエセルとシェリーの顔をちらっと見る。
二人とも普段と同じ表情をしている。
この女を雇う事に是と思っているのか非と思っているのか、全然感情が読み取れない。
良いように解釈すれば俺の判断に任せると捉えられるのだが。
まずは女の話を聞いてみるか。
「雇えと言うが、俺にだって選ぶ権利はある」
現実問題、この女を雇うなら俺の予算、シェリー曰く「お小遣い」から捻出されることになる
シェリーからは貧乏貴族よりも高額なお小遣いを貰っていると言われているが、青天井のように何人も雇う事は出来ない。
限りはあるのだから、人選は慎重に決めなくては。
「選ばれなければどうなるのかしら」
「男爵領追放だな。王都まで馬車で送ってやろう」
「それはやめて!すぐにパイルに始末されるわ」
想像通りの反応だ。女は泣きそうな顔で抗議する。
「それなら俺に雇ってもらいたいと思わせるように売り込むのだな」
女は黙って頷く。
緊張した面持ちになっている。
まるで企業の採用面接みたいだ。
俺は前世での就職活動を思い出したのであった。
読んで頂いてありがとうございます。
頑張りますので、これからもよろしくお願いします。




