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第57話 白状

前回のあらすじ

 エセルとシェリーは、リックが父ピーターに毒を盛ったという噂が流した女を捕まえる。

 リックが脅すと女は何でも話すから許して欲しいと懇願してきた。

 俺の脅しが()いたのか、女は白状する。

 彼女はパイル男爵という貴族に仕えていて、男爵からの命令でウォーカー男爵家の屋敷に潜入したそうだ。

 主な任務は情報収集。定期的にウォーカー男爵家の様子を手紙で報告している。早い話がスパイだ。

「パイル男爵って誰だ」

「ポール様の結婚式の時、来賓(らいひん)で来られていました」  

 俺の質問にエセルが即座に答える。

 エセルはあの時、来賓の貴族の顔と名前を全部覚えたと言っていた。

 大したものである。

「王家に仕える法衣(ほうい)貴族です」

 法衣貴族だと、オリーヴ義姉さんの実家であるマイエット子爵家と同じだ。(くらい)は子爵の方が上だが。

「その男爵はどんな人物だか覚えているか」

「はい。中年の男性でした。背は高いのですが、とても()(ほそ)っていて青白い顔をしていたと記憶しております」

 話を聞くととても不健康そうな人である。

「まるで幽霊だな」

「違います。パイル様は胃腸が弱いだけです」

 俺の感想にスパイの女が反論する。

 それにしても、主人の情報を俺に話して良いのだろうか。健康状況は極秘情報に入る部類だと思うのだが。

 何かの時に使えるかもしれないので覚えておこう。

 俺は尋問を続ける。

「どうして、俺が父さんに毒を盛ったという噂を流したんだ」

 情報収集を目的としたスパイを送り込むのは、貴族の間ではよくある話かもしれない。

 だが、悪意のある噂を流すのは滅多にない事だ。

 噂を流しているとバレてしまったらお互いが険悪になってしまうからだ。

「パイル様からは(すき)があれば悪い噂を流すように指示を受けていました」

 ウォーカー男爵家の使用人は統制が取れているので、これまでは噂を流す隙が無かったが、父さんが倒れて使用人達も動揺している今こそ絶好の機会だと女は思ったのだそうだ。

「結果はこのざまですが」

 女は自嘲(じちょう)気味に笑う。

 エセルやシェリーが優秀なのかもしれないが、噂を流したらすぐに捕まったり、少し脅したら簡単に白状したり、極秘情報を()らしたり、この女、スパイとしての能力は低いかもしれない。

 美人なのだから、その美貌を活かして男性の使用人を篭絡(ろうらく)でもすれば、違った展開になったのかもしれないが。

「リック様、彼女は男性が苦手なのだそうです」

 相変わらずエセルは俺の心が読めるらしい。

 試しに俺はスパイの女に顔を近づける。すると女は「ひぃ」と悲鳴をあげて後退(あとずさ)る。

 なるほど。怯えていたのは、俺が怖かっただけではなかったのか。少しばかり安堵(あんど)する。

「それで主さん。この人どうするのかな。死刑にしても問題ないと思うけど」

 シェリーの言葉を聞いた女は捨てられた子犬のような目で俺を見る。

 そんな目で見ないでくれ。情が芽生(めば)えてしまうではないか。

 前世日本人だった時の記憶が残っている俺からすれば、シェリーの言っている事は残虐に聞こえるが、この世界では当たり前の対応だったりする。

 貴族に仕える使用人は待遇が良い反面、厳しい環境の中で働いている。主人の機嫌(きげん)(そこ)なうだけで鞭打ちや棒叩きに()うし、主人の悪口を言おうものなら殺されても文句は言えない。

 ウォーカー男爵家の面々は貴族の中では珍しく温厚(おんこう)なのでそんな酷い事はしないが、今回は違う。

 この女がした事は、混乱を狙った悪質な行為である。日本でも犯罪として立件(りっけん)されるかもしれない。

 ここで変な恩情を出してしまうと周囲に示しがつかない。厳格な姿勢で(のぞ)む事が求められる。

牢屋(ろうや)に入れておいてくれ」

 やはり俺は人を殺す事には躊躇(ためら)いがある。

 処罰は後日決める事にしよう。困った事は先送り。これに尽きる。

「かしこまりました」

 エセルは警備の者を呼ぶ。

 屈強な男達がやって来て、スパイの女を牢屋へと連行していく。

 苦手な男に両脇を固められた上、両腕まで(つか)まれているので、女の顔は青ざめ、今にも倒れそうである。

 命が助かっただけでも良かったと思って頂きたい。

「それで主さん、これからどうするのかな」

 シェリーに言われて俺は考える。

 パイル男爵家はウォーカー男爵家を敵対視している。これは紛れもない事実だ。

 これからの先の内容(ないよう)如何(いかん)によってはウォーカー男爵家とパイル男爵家の争いに発展するかもしれない。

 それで良いのか、それとも穏便に済ませるのか。

 難しい判断だ。

「こんな時、ピーター父さんが元気だったら」

 俺は()やむ。父さんなら「ひっひっひ」と笑いながら良い考えを出したであろう。

 しかし、当人は(やまい)()せている。

「念の為に、彼女が本当にパイル男爵と繋がっているのか調べてみてくれ」

 他の貴族がウォーカー男爵家とパイル男爵家を仲違(なかたが)いさせようとしている可能性もある。

 離間(りかん)(けい)というやつだ。

 俺の指示にエセルとシェリーは了解する。

 面倒な頼み事でも嫌な顔一つせず受けてくれる。

 本当に頼もしい仲間である。  

「その先の事はポール兄さんに相談しよう」

 父さんが駄目なら兄さんしかいない。彼は長男であり次期当主である。

 俺は兄さんに同情する。

 年齢は20手前。俺が前世で日本人だった時は学生で毎日気楽に生きていた。

 それと比較すると、難しい判断を求められる貴族というのは大変な職業である。

「俺も頑張るか」

 齢は14だが、俺には前世60年の知識と経験がある。

 それを活かして兄さんを支えられる人物になろう。

 俺は心の中で(ちか)ったのであった。 


読んで頂いてありがとうございます。

小惑星探査機はやぶさ2が偉業達成しましたね!

新型コロナウイルスで暗い話題ばかりだったので、明るい話題はとても嬉しいです。

はやぶさ2に負けないように頑張りますので、これからも「転生者リックの異世界人生」をよろしくお願いします。

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