第49話 白いローブの人物
前回までのあらすじ
女王ゲルを倒したリック達。
これで小人達に平和が訪れたと思ったのもつかの間。
白いローブをまとった人物が現れた。
※作中にある『一年半ほど前』の出来事は、本作第11話の事です。
突如現れた白いローブを纏った人物。
背丈は俺よりも少し高いだろうか。体型はやせ形。
フードを深くかぶっているので、顔は見えない。
声は高い。声変わり前の少年とも若い女性とも受け取れる。
だから性別は分からない。
ただ、この人物、一年半ほど前に、俺は見た事がある。
暴走馬車に乗ったオリーヴ義姉さんを助けた時、俺は盗賊の一団と遭遇し戦った。
その時に捕まえた盗賊の親玉が尋問している最中に突然苦しみだして死に、その後ゾンビ化した事があったが、その様子を遠くから眺めていた人物だ。
遠目ではあるが、あの時の事を俺は鮮明に覚えている。
また、あの時、親玉が死んでゾンビ化したのは、この白いローブの人物が関わっている気がしてならない。確証はないが。
もし、そうだとすれば、厄介な力を持っている事になる。
敵対心は持っている様子だが、戦いは避けたい相手だ。
さて、どうするか。
「邪魔をされたと言っていたが、俺達は何を邪魔したんだ」
とりあえず会話して情報を集めるとしよう。
白いローブの人物は無言で吸血ゲルの死骸を指差す。
そうだろう。俺達が派手な行動をしたのは、これくらいだし。
「吸血ゲルをここへ持ち込んだのは、あんたの仕業か」
「『そうだ』と言ったらどうする」
やはり、この人物が持ち込んだのか。
そうなると次の会話が重要だ。何と切り返すべきか。
「何でこんな危険な生き物を持ち込んだのかな」
俺が返答に詰まったのだと判断したのだろう。
シェリーが代わりに話してくる。
「知っていると思うけど、吸血ゲルは人を殺す危険があるんだよ。うち達も危険な目に遭っているんだよ!」
珍しくシェリーが語気を荒げる。
あまり相手を刺激しない方が良いぞ。
「だから、持ち込んだ理由くらい教えて欲しいかな」
荒げていた語気が急に柔らかくなる。
さすがはシェリー、怒っている振りをして情報を引き出すつもりらしい。
「ふん。小賢しい女だな。良いだろう。特別に予の目的を教えてやろう」
そう言って白いローブの人物は深緑の宝石を取り出す。
その宝石は翡翠に似ている。
ただ、翡翠と違うのは宝石自体が光っている事だ。
電球とも蛍光灯ともLEDとも違う。温もりを感じさせる光だ。
「あっ、あれは!」
宝石を見て小人の長老が狼狽する。
「あれは女神様からお預かりした大事な宝石!何故持っている!」
「貴様らが吸血ゲルに追われて居なくなった隙にもらった」
なるほど。吸血ゲルを持ち込んだ理由は小人達を混乱させて宝石を奪う為だったのか。
邪魔をされたと言っているから他にも目的は有ると思うが。
「卑怯な!」
「そんなに大事なら持って逃げるべきだな」
「ぐぬぬぬ」
小人の長老は歯ぎしりしているが、白いローブの人物が言っている事は正論だ。
ただ、長老が宝石を持って逃げていたら、白いローブの人物に襲われて奪われただろう。
そうなれば殺されていたかもしれない。結果論だが、置いて逃げて正解だったと思う。
「この宝石は持っては行かせぬ」
長老は両手を広げ大仰な構えをすると呪文を唱える。
すると長老の手から光り輝く無数の糸が放たれる。
糸は白いローブの人物を襲い、全身を縛っていく。
『荷造り』の魔法。
小人の長老が使える魔法の一つだ。
本来の用途は名前の通り、荷造りする為に物を縛る魔法であるが、熟練者だと人を縛る事も可能だと言う。
この魔法の存在は俺達も教えて貰っていたが、女王ゲルとの戦いの時は、概ね順調だったので使用に至らなかった。
「どうじゃ。身動き取れないだろう」
手、足、胴体を縛られてしまった白いローブの人物を見て、得意げに話す長老。
「そんな事を言っては駄目だ。それはフラグだ!」
「ふらぐ?」
俺の指摘に隣にいたエセルは首を傾げるが、詳しく説明する余裕はない。
「愚かな」
俺が危惧した通り、白いローブの人物は嘲笑い、縛られていた光り輝く糸を引き千切る。
役目を失った糸は霧散する。
「なんじゃと!?」
驚きのあまり目を見開く小人の長老。
「ふふふ。予に歯向かうとはいい度胸だ」
そう言いながら、白いローブの人物は掌にはサッカーボール程の大きさの火の玉を浮かび上がらせる。
これは、有名な火球の魔法か。
異世界に転生して初めて定番の魔法を見た。
できれば敵ではなく、味方が使って欲しかったが。
一方の長老は火球に驚いてしまったのか、立ち竦んでしまっている。
「貴様の度胸に免じて、苦しまずに殺してあげよう」
火球を投げる白いローブの人物。
剛速球だ。これも魔法の力なのだろう。
「「長老様ぁ~!」」
アーちゃんとシーちゃんの叫び声が聞こえる。
長老が危ない。
一か八か、俺は長老を抱えて避けようと動き出すが、それよりも早く、長老よりも手前の位置で火球が爆発する。
熱風が襲うが思ったよりも熱くない。耐えられる規模だ。助かった。
火球が爆発した場所には棒状の物体が砕け落ちている。
槍の残骸だ。
オリーヴ義姉さんが、槍を投げて、飛んできた火球に命中させたのだ。
凄い腕前だ。槍の名手となるとこんな芸当も出来るのか。
しかしながら、これでオリーヴ義姉さんは槍を失った。
大幅な戦力ダウンである。
「人間にしてはなかなかやるな」
一方、白いローブの人物。オリーヴ義姉さんの達人技を見ても余裕の様子である。
口調も相変わらずの上から目線だ。
……あれっ?
『人間にしては』
そういう言い方をするという事は、白いローブの人物は人間ではないという事だろうか。
小人はいるし、目の前で魔法は使っているから、それも有り得る話だろうが。
あいつは何者だ?
「若様。この場は、このマーカスにお任せを」
「駄目だ」
即座にマーカスの申し出を却下する。
彼が何をするつもりなのか分かる。自分が囮になって俺達を逃がすつもりだろう。
「悪いが、マーカスが囮になっても厳しい」
マーカスの実力ならある程度の時間は稼げるかもしれない。
だが、それでも俺は逃げ切れる自信がない。
それだけ得体知れない強さをこの白いローブの人物は持っている。
それに、みすみす仲間を失うのも気分が悪い。
「それならどうすれば……」
「皆を守ってくれ」
そう言い残して俺は白いローブの人物へ向かって駆け出す。
覚悟を決めた。
ここまでくれば戦うしかない。
『超人』の力が発動している今なら太刀打ちできる。
残された時間は僅か。
それまでに決着をつける必要がある。
俺は勝負に出たのであった。
読んで頂いてありがとうございます。
新型コロナウイルスやら不景気やら暗いニュースが多いですが、この作品を読んで少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
これからも『転生者リックの異世界人生』をよろしくお願いします。




