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第48話 女王ゲル

 俺は大量の働きゲルを避けながらも攻撃を試みる。

 一匹、また一匹と少しずつではあるが数を減らす。

 マーカスとオリーヴ義姉さんは大丈夫だろうか?

 俺は攻撃を避けながら様子を見る。


 ギギギゥギギ

 奇妙な声をあげながら女王ゲルがマーカスを襲うが、マーカスは剣で攻撃を受け流す。

「えいっ!」

 その隙(すき)を狙ってオリーヴ義姉さんが背後から槍で女王ゲルを攻撃する。

 見事な連携だ。

 マーカスが正面で女王ゲルからの攻撃を引き受け、オリーヴ義姉さんが遊撃隊として側面、背後と動き回って攻撃を仕掛けている図式になっている。

 ただ、彼女の槍の一撃は何回か入っているが、避けられて当たらない事も多い。

 図体(ずうたい)はでかいが思いの外、機敏だ。

 それでもこちらは二対一、一対一なら苦戦したかもしれないが、一の差は大きい。

 こちらが優勢。そう思っていると、女王ゲルが口を開いて大きく息を吸う。

「危ない!逃げて!!」

 シェリーが大声で叫ぶ。 

 マーカスもオリーヴ義姉さんも反応して女王ゲルから間合いを取る。

 次の瞬間、女王ゲルは、くしゃみをする。

 黒い飛沫(しぶき)が舞う。

 汚い。

 吸血ゲルの事は分からないが、人間だと、くしゃみの飛沫は時速320kmで飛ぶ。東北新幹線「はやぶさ」と同じ速度だ。

 飛距離は約4m。標準的な畳のサイズは182cm×91cmなので、畳2枚半の距離が瞬時にして飛沫(しぶき)に覆(おお)われる事になる。

「女王ゲルの飛沫(しぶき)には毒が含まれているから吸わないで」

 毒の飛沫か。

 俺は全身に痛みが走った時の事を思い出す。

 あんな風になってしまうと厄介(やっかい)だ。

 直撃していたら大変なことになる。

 こちらにとって幸いだったのは、シェリーが吸血ゲルの生態を知っている事だ。

 相手の手の内を知っていれば、厄介な攻撃でも防ぐことはできる。

 女王ゲルにとって、毒の飛沫は形勢逆転できる必殺技だったに違いない。その後も何回か毒の飛沫を噴き出す。

 しかし、噴き出す前に大きく息を吸う動作が致命的(ちめいてき)だ。

 動きが大き過ぎて、息を吸ってから噴き出すまでの溜(ため)の時間が長すぎるのだ。

 その間に、マーカスもオリーヴ義姉さんも簡単に避ける事ができる。

 もしも、護衛の働きゲルがいたなら、働きゲルが相手の動きを牽制(けんせい)して足止めし、噴き出した毒の飛沫を吸わせるという戦い方が出来たのかもしれない。

 分断させておいて正解だった。

 援軍(えんぐん)は望めず、必殺技も封じられた女王ゲル。

 人間だったら諦めてしまう者もいるかもしれないが、女王ゲルは必死に抵抗(ていこう)をしている。

 倒されれば、それは死に直結する。生きようとする生物の本能が女王ゲルを戦わせているのだろう。

 しかし、必殺技を何度も繰り出した疲労なのか、それともダメージが蓄積(ちくせき)された影響なのか、おそらく両方とも原因なのだろうが、女王ゲルの動きは徐々(じょじょ)に鈍くなる。

 動きが鈍くなれば相手への攻撃は当たらなくなり、相手からの攻撃は当たってしまう。

 女王ゲルはそんな悪循環(あくじゅんかん)に陥(おちい)っていた。

「隙ありですぞ」 

 今まで防御に徹していたマーカスが剣で女王ゲルを斬る。

 

 ギギギギギギギャァァァ


 女王ゲルは、耳障(みみざわ)りな叫び声をあげると、全身を仰(の)け反(ぞ)らして倒れる。

 僅かな間、床を転がるが、やがて動かなくなる。

「女王ゲルを倒しましたぞ」

 マーカスが鬨(とき)の声をあげる。 

 女王ゲルのあの叫び声は断末魔(だんまつま)だったようだ。

 これでの作戦第三段階も成功だ!

 

 これで働きゲルが増える心配は無くなった。

 あとは働きゲルを倒していくだけだ。

 女王ゲルが倒されて俺を襲っている働きゲルも動きに変化がみられる。

 動きが乱れ、動きがバラバラになってきたのだ。

 相変わらず俺へ襲い掛かってくる働きゲルもいるが、逃げ出そうとする働きゲル、グルグルと回りだす働きゲル、果ては他の働きゲルへ咬み付く働きゲルが現れるなど、意味不明な行動が目立ってきた。

 もしかして、女王ゲルはフェロモンを放っていて、それで働きゲルを統制していたのかもしれない。

「助太刀するわ」

 オリーヴ義姉さんとマーカスの猛者二人が俺の元へ駆けつける。

 これで勝負決したな。

 百体以上はいたと思われる働きゲルは、急激に数を減らしていき、ついに野球グランドに似た広い空間での生体は0になった。

「よっしゃー!」

 俺はガッツポーズをする。

 この前、囲まれた場所にはたくさんの吸血ゲルがいるだろうし、地下空間の各所にも吸血ゲルが残っている。

 まだまだ吸血ゲルを倒さないといけないが、山場は越えたと言って良いだろう。

「凄いねぇ」

「やったねぇ」

「喜ぶのはまだじゃぞ」

 喜ぶアーちゃんとシーちゃんを窘(たしな)める小人の長老。

「ありがとう」

 俺は皆にお礼を言う。

「主(あるじ)さんこそお疲れ様」

「さすがはリック様です」

「久しぶりに強い相手と戦ったわ」

「このマーカスの腕前、まだ錆(さ)びてはいませんな」

 シェリーもエセルもオリーヴ義姉さんもマーカスも喜んでいる。

「一休みしたら、残りの吸血ゲルも退治しに行こう」


 こうして俺達は、小人達の平和な暮らしを取り戻したのであった。



 

 …………………かと思ったが、そうは問屋(とんや)が卸(おろ)さなかった。


「予(よ)の邪魔をするのは貴様らか」

 突如、響き渡る謎の声。

 マーカスとオリーヴ義姉さんは即座に武器を構えて警戒するが姿は見えない。

 なんだ!ラスボスを倒したと思ったら真のボスが出て来るRPGのような展開は。

 俺は『超人』の力で感覚が鋭くなっているからか、違和感(いわかん)を感じる。

「あそこか!」

 俺は、違和感のする方へ、木の棒を力いっぱい投げる。

 すると空中で木の棒は粉々に砕ける。

「ほう。予を見つけるとはたいしたものだ」

 誰もいない場所。

 聞いたことが無い声が聞こえると共に、白いローブを纏(まと)った人物が姿を現(あらわ)したのであった。


読んで頂いてありがとうございます。

これからも頑張りますのでよろしくお願いします。


※追記…タイトルを「駆除作戦!後編」から「女王ゲル」に変更しました。

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