第35話 二つの丘
目的地へ向かって進む馬車。
屋敷を出てから一時間は経過しただろうか。
太陽は徐々に昇っていき、山間から姿を完全に表している。
「この馬車はいったいどこへ向かっているんだ」
ティム君誕生の儀式をするとは聞いていたが、まさか遠出するとは思っておらず、どこへ行くのかも聞いていなかった。
「ピーター様から用意する物は指示されたので、それは用意しましたが、どこへ行かれるかはエセルも聞いていません」
「うちも分からないかな。山の方へ向かっている感じだけど」
馬車に同乗しているエセルもシェリーも知らなかった。
行先が分からない馬車に乗る、まるでミステリーツアーだ。
まあいいか。御者は行き先が分かっているみたいだから、いずれは着くのだろう。
「なぁ……」
行先の疑問は先送りにして、俺はもう一つの疑問をエセルとシェリーの二人に投げかける。
「なんでこんな所に座っているんだ。狭くないか」
俺達が乗っている馬車の中は二人掛けの椅子が向かい合って置かれている。
日本の高崎線や東海道線の電車などで見られる四人掛け座席クロスシートをイメージしてもらうと良いだろう。
二人掛け椅子が二脚、つまり定員が四人。
乗っているのは俺、エセル、シェリーの三人だから、定員より人数は少ない。
それなのに、エセルとシェリーは俺の両脇に座っている。
つまり、対面の座席は誰も座らず空いているのに、俺達は二人掛けの椅子に三人で座っている状態だ。
俺は小柄だし、エセルもシェリーも少女らしく華奢だ。
だからこそ座る事も出来るのかもしれないが、二人掛けに三人はやはり狭い。
一度俺は空いている対面の椅子へ移動した。
しかし、すぐに二人も付いて来て同じ状態になっている。
「エセルはリック様の補佐役のメイドです。何かあった時の為に常にお傍にいる必要があります」
「うちだって、主さんに仕える身、近くにいて直ぐに動けるようしないといけないからね」
お傍、近くって、反対側の座席に座っても大丈夫だろう
「だけど、それは建前。本音は主さんの隣に座りたいからかな」
直球を投げたなシェリー。
そう言って、彼女は俺の肩にもたれかかる。
フワッとしたいい匂いがする。
そういえば、最近シェリーは髪型を変えた。
銀色の髪を少し伸ばし、おさげを解いたのだ。
理由は、この髪型にすると火傷の跡を隠せるからだそうだ。
毎日包帯を巻くのは、手間がかかるし、体温や汗で蒸れる。
これまでは火傷跡の範囲が広くて包帯でしか隠せなかったが、商人アーノルドから貰った薬で火傷跡が小さくなり、髪で隠す事が可能になったそうだ。
本当に良い薬をもらった。
「シェリーさん、何をしているのですか」
エセルは注意する。
しかし、当のシェリーはニコッと笑う。
「エセルさんもどうかな。ここには三人しかいないし、誰も見ていないから大丈夫だよ」
エセルは驚いた表情を浮かべるが、それは一瞬だけの事。
彼女もまた俺の肩にもたれかかる。
ああ、女の子って、なんでこんなにいい匂いがするのだろう……って、そんな事を言っている場合か。
「良いんじゃないかな。最近忙しかったから、主さんと一緒に過ごす時間なかったし」
俺の心を読んでいるかの如く話すシェリー。
「そうですね。エセルも最近は仕事の話しかしていませんでした」
エセルもシェリーに同調する。
「あのなあ、俺も年頃の男だって事を理解しろ」
美少女二人から密着され続けているから、股間が熱くなっている。
「「あっ!」」
体をモゾモゾと動かしながら誤魔化していたが、とうとう二人に見つかってしまう。
服越しでも分かる程、あそこが盛り上がっている事に。
男の子の健全な生理現象とはいえ、恥ずかしんだよな。
しかし、女の子二人は、そんな俺の羞恥心を一切気にしていなかった。
「主さん、大物だね」
シェリーは興奮している。
「あの夜よりも大きそうです。なんだか素敵です」
俺の実物を見た事あるエセルは泣き出すどころか、恍惚…うっとりとした表情を浮かべている。
「なんで二人して喜んでいるんだ」
こういう時は「変態!」って叫ぶ方が正しい反応な気がするぞ。
言われたら言われたらでショックだが。
「うち、欲求不満なのかな」
そう言ってシェリーは服の胸元を締めている紐を緩める。
俺の視界に彼女の大きな双丘の稜線が見える。
「うち、ちょっと自信あるんだよね。気持ち良いと思うよ」
シェリーは俺の二の腕に胸部を押し付ける。
布越しでも柔らかい感触が伝わって来る。
「待ってください」
その光景を見ていたエセル。
これまでの様子を見ている限り、止める事はないんだろうな。
その予想は当たる。
彼女は腰を浮かせ、ロングスカートの後ろを捲る。
そこには谷間を雪みたいに白い何かに覆われている、これまた綺麗な形をした双丘が出現する。
「エセルは上は自信ないですけど、下は自信があります」
そう言ってエセルは臀部を俺の腿に乗って来る。
ここも布越しだが、それでも柔らかい感触は伝わって来る。
「エセルさん大胆だね」
感心しているシェリーだが、彼女も俺の二の腕に密着したまま体を上下に動かしている。
やばい、理性が崩壊する。
前世、日本人だった頃の記憶だが、こういう時、ライトノベルだと、このタイミングで魔獣や盗賊の襲撃を受けて有耶無耶になる展開、又は目的地に到着して桃色な時間が強制終了という展開がよく見られた気がする。
年齢制限を設けている小説だと、主人公が勢いに乗って、桃色な時間を甘美に盛り上がらせる。そんな展開もよく見られた気がする。
それでは俺の場合はどうだったのだろうか。
答えはどちらでもなかった。
目的地に着くまでは、さらに一時間近くかかったが、魔獣や盗賊が襲ってくるなんて事はなかった。
仏説摩訶般若波羅蜜多心経…………
俺は前世で偶然覚えた般若心経を心の中で唱えて続けた。
本能に任せて突撃しても良かったのかもしれない。
だけど、今日は甥っ子ティム君の儀式の日だ。
そんな時に破廉恥な事をするのは悪いと思ってしまった事。
エセルやシェリーからはアタックはされているが、俺自身が告白していない。それなのに、こんな事をするのも二人に失礼だと思ってしまった事。
そのような理由で俺は我慢し続けた。
俺の態度は誠実と言って良いだろう。
しかし、馬車が目的に到着した時、エセルもシェリーも残念そうな顔をしていたのが印象的だった。
もしかして俺は誠実を隠れ蓑にした臆病者、ヘタレなのかも。
そう思ってしまったのであった。
どうなんだろう。
お付き合い頂きありがとうございました。
次回は8月5日水曜日の更新を予定しています。
これからもよろしくお願いします。




