第216話 な い !
前回のあらすじ
神人達の衣・食・住の問題の解決に目途がつく。
森の開拓をディアナと神人達に任せ、俺は温泉へ向かう。
サボって遊びに行く訳ではない。
ゾンビの群れが神人に変化した例の温泉を調査する為だ。
俺と一緒に行くのはブッチー村長、クロン、シェリー、ノーマである。
「ここだ」
案内役のクロンが指差す先には湯煙が立ち上がる温泉がある。
「広いな」
100人入っても大丈夫!
そんな広さだ。
25mプール程度の大きさはあるのではなかろうか。
気持ち良さそうだな。
温泉を眺めながら俺は入浴したい衝動に駆られる。
風呂なんて何年も入っていない。
言っておくが、不衛生ではないぞ。体はほぼ毎日拭いて清潔にしている。
この世界での風呂は金と手間が掛かる為、贅沢なのだ。
ウォーカー男爵家が金持ちだった頃は毎日風呂に入っていたが、濡らしたタオルで体を拭いて汚れを落とすのが、この世界の一般的なやり方である。
「さっさとやって、さっさと帰るのさ」
ブッチー村長は入浴に興味が無いらしい。
猫は風呂が嫌いらしいからな。猫人も同じなのかもしれない。
「じゃあ、シェリー頼む」
俺がそう言うとシェリーは適当な繁みの陰に隠れ服を脱ぐ。
「行ってくるよ」
タオルを巻いたシェリーが温泉に入る。
念の為に言っておくが、俺達がシェリー一人を温泉に入れるのは淫らな理由ではない。
然るべき目的があるからだ。
さて、シェリーは爪先からゆっくり入り、膝・腰・腹・胸・肩とお湯に浸かっていき、ついには頭の先まで温泉の中に沈んでいく。
姿は消え、水面に泡が浮かんでいる。
溺れた!……のではない。
ザバーンッ
程なくしてシェリーがお湯の中から勢い良く出る。
「温かくて気持ち良かったかな」
そう言いながらシェリーは温泉からあがる。
折角の温泉なんだから、もう少し浸かっていても良かったのではないかとも思うが、さっさと終わらせたがっているブッチー村長に気を遣ったのかもしれない。
それにしても色っぽいな。
湯上りのシェリーを見て感じる。
濡れたタオルは体に密着し体型を正確に見せている。
たわわに実る2つの果実は見事なまでの大きさ。
だが、湯上りのシェリーの魅力は胸だけではない。
濡れてシットリしている銀色の髪!
ほんのり紅くなっている白い肌!
嗚呼!!湯上がりの少女は斯くも美しいのだろうか!!!
「………ご主人様………」
ノーマの声が冷たい。
いけない。シェリーが余りも美しすぎて見惚れてしまった。
本題に戻ろう。
「それじゃあ、見せて貰って良いか?」
俺の問い掛けにシェリーは黙って頷く。
緊張した面持ちで、シェリーは手で右側の髪をかき上げる。
「「「「 な い ! 」」」」
シェリー以外の4人の声が重なる。
「消えているのかな?」
そう言って顔の右側に触れるシェリー。
「見る?」
ノーマが手鏡をシェリーに渡す。
「本当だ!ない!」
シェリーは自分の顔を見て驚く。
彼女の顔の右、頬骨周囲に深い火傷の跡があった。
かつてウォーカー男爵領で発生した火災で負った跡。
しかし、今のシェリーの顔から火傷の跡は消えて無くなっている。肌は綺麗になっている。
「治ったよ!治ったんだよ!!」
声が弾むシェリー。
同時に目から涙が流れ出す。
火傷跡は見た目の事もあるが、痛みや強張り等の後遺症もある。
普段は明るく振る舞っているシェリーだが、辛い時も多かったのだろう。
彼女が火傷を負った原因は俺にある。
火災が起きたあの時、俺は『超人の力』を使う自分に自惚れていた。
不可能な事は何もない。特別な力を持つ特別な存在。そうとすら思っていた。
エセルの忠告を聞き流し、結果、俺の不注意からピンチに陥ってしまった。
そして、シェリーは顔に大火傷を負った。
俺がしっかりしていれば彼女の火傷は防げていたのだ。
俺はあの時の事を悔やみ続けてきた。
「あれ?主さんも泣いているのかな」
シェリーに言われて初めて気が付いた。
頬を涙が伝っている。
火傷跡が癒えたからといっても、彼女のそれまでの苦しみが消える訳ではない。
だが、傷が癒えたという事実は俺の心の重しを外してくれた。
そんな気持ちが俺に涙を流させたのかもしれない。
「治ったのは嬉しいけど、主さんとの縁と絆の証が消えて寂しくなったかな」
涙を拭き、冗談ぽく笑うシェリー。
以前、シェリーが言っていた。火傷跡があったから俺とシェリーは縁が出来たのだと。
あの時、そう言われて俺の心は救われた。
「心配しなくても大丈夫だ。俺達の心は、強い絆で繋がっている。これからもずっと一緒だ!」
俺はシェリーを優しく抱きしめたのであった。
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