第25話 教会の人達 その後
町で、今後の事を打合せするというピーター父さんとポール兄さんと別れ、俺はエセルと一緒に、ウォーカー男爵家の屋敷に戻って来た。
体調がまだ万全ではないので体を休ませるという理由もあるが、あの火災で大怪我した三人、巨乳修道少女シェリー、ドズーター神父、元盗賊の奴隷ゲブの見舞いをする目的もある。
町にある診療所は、設備も整っているし、今回の火災でも燃えずに無事だった。
本来はそこに入院するべきなのだろうが、今は怪我人の治療で忙しい。
重傷者は少ないが、軽傷者が多いからだ。
教会の要職者もいるので、父さんの判断で、重傷者は屋敷の離れで預かる事になったのだった。
「神父様、失礼します」
最初に訪れたのは、教会のお偉いさんであるドズーター神父。
骨折した左脚は二本の添え木で固定され、上から吊るされている。
骨折した人はギプスをはめるのが定番だと思ったが、この世界ではまだ登場していないようだ。
「これはリック様、お忙しい中、ありがとうございます」
ベッドに座りながら神父は会釈をする。
「これは親父……、いやっ、ウォーカー男爵からです」
俺が合図を出すと、エセルは柳で編んだバスケットを神父に差し出す。。
「うほぉ。これは素晴らしい」
バスケットに被せられている布巾を外した神父は中身を見て歓喜する。
「これは見事な黄金色」
「はい。ほんのお気持ちでございます」
神父の笑みにつられて俺も笑う。
「ウォーカー男爵、そちも悪よのう」
「いえいえ、神父様ほどでは」
どうして、ドズーター神父が日本の時代劇のお約束を知っていんだ。
この台詞は全世界共通なのだろうか。
「どうぞお納めください」
「それでは遠慮なく」
満面の笑みを浮かべる神父。
彼はバスケットの中からそれを取り出し、口に運ぶ。
「如何でございますか」
「素晴らしい」
俺の問い掛けに神父は親指を立てて答える。
「男爵家特製の栗のケーキ、喜んで頂けてなによりです」
スポンジ生地の上に、シロップで煮た大きな栗を載せた、特製のケーキだ。
「おお!美しいだけなく、なんという美味しさだ。ホクホクとした食感、口の中に広がる甘味、素晴らしい」
「ウォーカー男爵家秘伝の製法でございます」
秘伝とした方が凄そうに聞こえるからそう言ってみたが、日本で親しまれている栗の甘露煮を想像して貰うと良い。
この製法を伝えた時、男爵家の料理人は感心していた。前世の知識が役に立った。
「こんなに素晴らしい物を食べられるとは。骨折も悪くありませんね」
こうして、甘い物が大好きなドズーター神父へのお見舞いは、終始、和やかな雰囲気となったのであった。
山吹色のお菓子作戦、成功だな。
ドズーター神父の次は元盗賊の奴隷ゲブだ。
「入るぞ」
部屋に入るとベッドで横たわっているゲブ。
ゲブは肋骨を骨折するなど大怪我して動くことが出来ない。
ドズーター神父があの高さから落下して骨折程度で済んだのは、ゲブが身を挺して庇ったからだ。
「リック様、お忙しい中、ありがとうございます」
ゲブの脇にいる修道女がお礼を述べる。
清楚な顔の美人で、モデルみたいにすらりとしたスタイルをしている。
だが、昨夜他の修道女達と救助の順番を巡って醜い争いをしていた一人なので、ちょっと引いてしまう。
彼女はゲブの看病の為にいるようだ。
「なんだ」
ゲブは俺の顔を一瞥して、その一言だけ呟く。
「ゲブさん、失礼ですよ」
修道女が窘めるが俺は手で制す。
ゲブからすれば俺と会うのは、戦った時以来だ。
かつて俺にやっつけられ、奴隷にさせられた。彼が俺に敵対心を持っていてもおかしくない。
「今日は良い天気でございますね」
「そうだな」
この場を和ませようとしたのか、修道女が話し出す。
「ゲブさんのお仲間の方々は見つかりましたか」
「残念だが、まだ捜索中だ」
あの火災の後、ゲブを除く元盗賊の奴隷達8人が行方不明になっている。
町の外れで逃げている姿を目撃されているので、逃げ遅れて死んだという事ではないらしい。
最近は町の人達の間で、奴らが放火したという噂が広がっているとマーカスが言っていた。
「まあ、そうですか。早く見つかると良いですね」
この修道女がいるとゲブと話が出来ないな。
俺はエセルに目配せする
「修道女様。ご相談したいことがございます」
「えっ?」
エセルが半ば強引に修道女を部屋の外へ連れていく。
さすが、エセルだ。
扉が閉まる音がする。エセルと修道女が退室したからだ。
部屋は、俺とゲブの二人きりになる。
気まずい雰囲気が部屋に漂う。
実は、ゲブの見舞いに行くか行かないか悩んだ。
行かなくても差し障りはない。
ただ、俺はゲブに聞いてみたいことがあった。
「どうして神父達と一緒に行動していた」
きつい言い方になってしまったな。
もう少し優しく言った方が良かったな。反省する。
ゲブは最近、他の奴隷達から孤立していたらしい。
それは、ゲブは暇を見つけては一人で教会を訪れていたからだ。
火災の時も教会の人間達と行動を共にし、彼らを力の限り助け、身を挺して神父を庇った。
今も、動けないとはいえ、修道女が看病してくれている。
それは教会の人達がゲブを受け入れている証拠だ。
それに見合う行動を教会で行ってきたのだろう。
悪行を重ねてきた元盗賊とは思えない行動だ。
なぜ、ここまで教会の為に尽くすのか、俺はその真意が聞きたいのだ。
「………おでは、いつも、おやになぐられた」
少しの沈黙の後、ゲブが語りだす。
「なぐられるのが、いやだった。だから、いえをでた」
親から虐待されていたのか。
「はらがへったから、ぬすんだ。ひとをころした。わるいこと、たくさんした」
生きる為に、盗みや殺人を犯したという事か。だからと言って、許される行為ではないが。
「おまえにまけて、どれいになった。また、なぐられるとおもった」
奴隷の扱いは酷いからな。
原則として人ではない、物と同じ扱いだ。
酷い場所では、毎日のように棒や鞭で叩かれると聞く。
「だけど、ちがった。しごとをすれば、たたかれない。めしもでる」
おお。ウォーカー男爵家の厚待遇を理解してくれていたのか。
他の8人の奴隷達は、反感しか持っていなかったと聞いていたから、少し嬉しい。
「きょうかいも、ちがった。おでに、やさしくしてくれた。みんな、やさしくしてくれた」
火災の時の醜態や、これまで数多の寄付金要求を目にすると教会は腐敗しているかと思っていたが、しっかり聖職者の務めは果たしていたんだな。
「だから、おでは、きょうかいのひとがすきだ。きょうかいが、なくなる、おでは、いやだ」
今まで、酷い扱いを受けて来た人生だ。もしかすると、ゲブにとって教会は、産まれて初めて人から優しくされた場所かもしれない。
「みんなが、しななくて、よがった」
ゲブの想いはよく分かった。
俺は心の中が温かく感じる。
「体を大事にしろよ」
ゲブが盗賊時代にしてきた罪は消えるものではない。
けど、これから償って欲しい。
そう願いながら、俺は部屋を出た。
最後はシェリーだ。
正直言うと、シェリーのお見舞いへ行くのが最も気が重い。
「はあああああ」
無意識のうちに、俺は大きなため息をついてしまったのであった。
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