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番外編2 ピーターの休日 後編

「お待たせ致しました」

 御者の声が聞こえ、馬車が止まる。

 町に着いた。

「ピーター様、お待ちしておりまたぞ」

 おいらとオリーヴが馬車を降りると男性が出迎える。

 白髪(しらが)()じりの頭をした(じい)さんだ。

「ひっひっひ。お疲れさん」

 おいらも挨拶する。

 あっ、そうだ。

「オリーヴ、紹介しよう。この爺さんはマーカス。この町の兵士隊長だ」

「お言葉ですが、このマーカス、爺さんではありません。若い者には、まだまだ負けませんぞ」

 いやいや。その発言自体が爺さんだ。

 マーカスの反論は置いといて、オリーヴとマーカスは挨拶をしてもらう。

 オリーヴには少しずつ領内の人間の顔と名前を覚えて欲しい。そうすればウォーカー家での生活も馴染(なじ)めてくるだろう。

 おいらとオリーヴはマーカスに案内してもらいながら町の中を歩く。

 商店や屋台が並ぶ市場。

 住宅街。

 貿易品を保管している倉庫群。

 教会。

「ひっひっひ、何もない場所だろう」

 町を一通り回り、おいらはオリーヴに聞いてみる。

僻地(へきち)でこの規模の町はかなり大きな部類に入るが、王都と比べれば大人と赤ん坊の差はあるだろう。

「いいえ。そんな事ありませんわ。町の中はゴミが落ちていないし、嫌な臭いもしていない。何より、王都よりも清潔(せいけつ)です」

 その通りだ。衛生にはとても気を使っている。

「ひっひっひ。リックの奴がうるさくてな」

 何年か前、領内で疫病(えきびょう)流行(はや)った時だ。

 突然、リックが清潔にすれば疫病が収まると言い出した。

 排泄(はいせつ)はトイレでする。

 |ゴミや汚物(おぶつ)はその辺に捨てないで、ゴミ捨て場に捨てる。

 その他にも色々と言っていたが、とりあえずこの二つを領内でやらせてみた。

 面倒だという声が領民から多数あがったが、やってみたら本当に疫病が収まった。

 以来、領内ではこれらは定着。オリーヴが言うように町や村は綺麗になったし、病気も減った。

「リック君は本当に凄いですね」

 そうだな。

 リックは幼い頃から不思議な子だった。

 大人びていたし、妙な知識もたくさん持っている。

 オリーヴの馬車が暴走した時もそうだが、普通では出来ない事をやってしまう事もある。

 正直、おいらはポールよりもリックの方が優秀だと思っている。

 間違ってもポールの嫁には言えないが。

 残念なのはおいらに似てしまった貧相な容姿ようしだ。これで(わり)()っている(ふし)がある。

 ポールみたいな美男子とまでいかなくても、せめて人並みの容姿だったらなぁ。

「ひっひっひ。リックの奴もオリーヴに褒められたと聞けば喜ぶだろう」

「それから、お義父様。屋敷の方もそうでしたが、町の皆さんの目が明るく生き生きとされていましたわ」

 ほう。この娘、目のつけ所が鋭いな。

 結婚式で招待した貴族連中は何もない田舎と嘲笑(ちょうしょう)していたが、こういう見方が出来るだけでも立派だ。

 ここは、昔は貧しくて、その日を生きるのでいっぱいだった。

 あの時、領内の小麦が豊作でなければ、今も厳しい毎日を過ごしていただろう。

(のど)(かわ)いた時に水が飲める。腹が減った時は(めし)が食える。(やまい)の時には治療(ちりょう)できる。生きる為に当たり前の生活をする為には金がいる」

 おいらは呟く。

 安く買い付けた穀物や嗜好品を高く売り払って得た利益のほとんどは、町や畑の整備、食料や医薬品の購入に費やした。

 貴族連中のほとんどはウォーカー男爵家を成金貴族と蔑んでいるが、金が無ければ人の命一つも救えない。領民たちが希望を持って生きていけるのであれば、おいらは笑い者にされても構わない。

「ここでの生活は楽しめそうか」

 おれの問いかけにオリーヴは「はい」と笑顔で返事する。

 ポールは良い嫁を貰った。それが分かっただけでも今日は大収穫(だいしゅうかく)だ。

「もうすぐ日が暮れる。屋敷へ帰るぞ」

 おいらとオリーヴは馬車に乗る。

 すでにポールとリックは屋敷に帰ってきているだろうか。


 ひっひっひ。今日は良い一日だ。


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