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第85話 ポールフィーバー!

前回のあらすじ

 リックはマイエット子爵の屋敷を訪れ、ウォーカー男爵領と王都で何が起きたのか情報を交換する事になった。

 マイエット子爵家でお茶を飲んだひと時は、子爵が「有意義であった」と評した通りの時間となった。


 子爵の話によると、王宮で襲爵(しゅうしゃく)の儀式を受け、正式に男爵になったポール兄さんは、王都の有力貴族達を訪問して挨拶をした。

 見目麗しい容貌。爽やかな弁舌。優雅な作法。

 白馬の王子様を地で行くような兄さんは、貴婦人の皆様方の心を鷲掴(わしづか)みにした。

 有力貴族が開く舞踏会の来賓に競って招待されるなど、王都の社交界はポールフィーバーと言っても過言ではない程の熱狂ぶり。

 人気アイドルの様な扱いだったらしい。

 凄いな兄さん。

 その光景にマイエット子爵は異様さを感じたが、王都で人脈を広げたいウォーカー男爵家にとって悪い事ではない。多忙な兄さんを心配しつつも温かく見守っていた。

 異変に気が付いたのは今から8日前の事。

 その日予定されていた舞踏会を無断で休むと、それ以降王都の別邸に引きこもってしまい。一歩も外へ出なくなってしまった。

 それだけでも問題だが、事態はこれだけで済まない。

 時同じく、王都に住む貴族の子息(しそく)息女(そくじょ)が次々とウォーカー男爵家の王都別邸に駆け込んだのだ。

 そして、彼らはそのまま出て来なかった。

 子供が駆けこまれた貴族達は、別邸へ使いの者を出した。

 しかし、門は閉ざされ無反応。何が起きているのかも分からないという。

 現在、王都の社交界はこの話題でもちきりだが、事態が事態なだけに貴族達はどのような対応をするのか決まっていないという。

「私達としては、少しでも早くこの事態を決着させなくてはいけない」

 それがマイエット子爵の考え。その為、マイエット子爵とカミラ夫人は変装して偵察に来ていた。

 今はまだ貴族達が戸惑っていて様子見の状況だが、時間が経過すれば、駆け込んだ子息達の救出という名目で王国軍が出動する可能性がある。

 そこまで事態が大きくなってしまえば、何らかの処罰が下される。それもウォーカー男爵家は爵位や領地の没収(ぼっしゅう)といった規模だ。最悪の場合処刑という事も有り得る。

「そうなってしまえば、君も無事では済まないだろう」

 事態は想像以上に深刻だった。

「まずはオリーヴと接触してもらえないか」

 冷や汗をかいている俺に子爵は提案する。

「オリーヴ義姉さんとですか?」

「そうだ。あの子は常にポールの近くにいた。それに芯がしっかりしていて、ちょっとやそっとの事では動じない。この状況を冷静に分析しているはずだ」

「つまり情報をもっと集める必要があるという事ですね」

「その通りだ」

 マイエット子爵は頷く。

 事情は分かったが、何故兄さんがこんな事をしてしまったのか理由が分からない。

 原因を突き止めないと解決策は見出(みいだ)せないという事か。

 俺も同感だ。

「それから一つお願いがある」

「何ですか」

「オリーヴとティムを保護して欲しい。頼む」

 そう言ってマイエット子爵とカミラ夫人は頭を下げる。

「頭を上げてください」

 俺は慌てる。

 過去のやり取りから娘思いのお父さんなのは知っていたが、プライドが高くて人に頭なんか絶対に下げないタイプだと思っていた。意外だった。

「絶対にオリーヴ義姉さんとティム君は助けます」

 俺は誓う。

 頼まれなくても真っ先に助けるつもりだった。

 俺にとってもオリーヴ義姉とティム君は大切な人だ。

「ありがとう」

 マイエット子爵は感謝している。

「リックさん。私も一緒に連れていってもらえませんか」

 カミラ夫人が申し出る。

「本当ですか。()(がた)いです」

 社交辞令ではなくて本心だ。

 カミラさんは一見すると華奢(きゃしゃ)な貴婦人。

 しかし、槍の名手オリーヴ義姉さんの実母で武門の家の出身。

 その上、ウォーカー男爵領までの長い道のり、馬車に乗っていたとはいえ、悪路の中、何日間も金属製の全身甲冑を平然と着続けたような人だ。

 只者(ただもの)ではないのは確かだろう

 これから何が起きるのか分からないのでとても心強い。

「私も一緒に……」

 カミラさんに続いてマイエット子爵も申し出ようとする。

「いけません」

 しかし、それはカミラさんに拒否される。

「貴方は足手まといになるだけです」

 ハッキリとものを言う人らしい。

 きついな~。

 確かにマイエット子爵は荒事には向いてないように見えるが……

 哀愁漂うマイエット子爵。無表情ながら、しょんぼりとしている。

 そんな子爵にカミラさんは言葉を続ける。

「人には向き不向きがあるんです。貴方には私が太刀打ちできない特技がたくさん有るではないですか。そちらから力を貸してください」

「うむ。そうであるな。任せて置け」

 マイエット子爵が立ち直る。

 むしろ、さっきよりもやる気に満ちている。

 落ち込んでいた子爵にフォローを入れたカミラさんは手慣れた感じがあった。

 落として上げる。

 いつもやっているのだろう。

 夫婦としての長年の付き合いからこそ出来上がった形。

 二人を見て俺はそう感じたのであった。


読んで頂いてありがとうございます。

明日で「転生者リックの異世界人生」は投稿1周年を迎えます!

そこで、明日も投稿します。

次回もよろしくお願いします。 

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