番外編14 シェリーと応接間
前回のあらすじ
リックはマイエット子爵と情報交換をする事にした。
一方その頃、留守番をしているシェリーは……
「修道女様!?」
うち、シェリーの姿を見て、パイル男爵の手下の人が驚く。
柄の悪い男だけど、低姿勢だ。
修道女の肩書は凄いね。教会様様かな。
ここはウォーカー男爵家の離れ。来客をもてなす為の建物。
パイル男爵一行が滞在している場所。
豪華過ぎるもてなしだ。
ウォーカー男爵家は本当に金持ちだね。
「パイル男爵にお会い致したいのですが」
それを聞いた手下の人は困った顔をする。
「男爵は体調が優れなくて」
知っているよ。さっき、エセルさんから教えてもらった。
トイレとお友達になっているって。
「お身体が優れない?それは心配ですね」
だけど、知らないふりをしておく。
「はい。心配です」
おーい、手下の人。視線がうちの胸に釘付けになっている。
心配しているのは口だけみたいだね。
「此れは此れは。修道女様ではございませんか」
手下の人とそんなやり取りをしているとパイル男爵が声を掛けて来る。
トイレの帰りかな。
何事もないように装っているが、顔は明らかにやつれている。
ノーマが盛った薬が効いているみたいだね。
「おはようございます」
うちは努めて恭しくお辞儀をする。
「本日は相談したい事があると聞き伺いましたが」
そう。うちはパイル男爵に呼ばれたのだ。
パイル男爵の担当をしているおかっぱ頭のメイドさんから話を聞いてやって来た。
だから手下の人がその事を知らない様子だったのは意外だったかな。
「こんな朝早くからご足労お掛けして申し訳ございません。どうぞこちらへ」
そう言いながらパイル男爵は、うちを案内する。
内股歩きしているね。
お尻を庇っているのかな。
辛そうだ。
「大丈夫ですか」
「何のことですか」
心配の言葉を掛けてみるけど、とぼけた振りをするパイル男爵。
人に弱みを見せない性格なのかな。
うちが連れて行かれたのは離れの一室。
ソファーとテーブルが置かれている応接間。
手下の人は入ってこない。
うちとパイル男爵の二人だけだ。
「どうぞお納めください」
ソファーに座るなり、パイル男爵はテーブル上に布製の袋を置く。
口は紐で固く縛られているから中は見えないけれど、確実にお金が入っている。
お布施は建前でうちを懐柔するのが目的かな。
断ろうかと思ったけど、お布施と言われたから受け取る事にする。
全額を教会へ納めれば問題のない事だからね。
うちは中身を見なくても重さと袋の膨らみ具合で、どの程度お金が入っているのか分かる。
主さんは驚いていたけど、うちが凄いのではなくて、教会の人なら誰でも出来る。
聖職者は常にお布施を集め、その合間に祈りを捧げる事が仕事だからね。
一ヶ月も経験すれば誰だって出来る。
それに貴族のお布施は額を当てるのが簡単だ。
庶民と違って彼らは銀貨や銅貨をお布施に使わない。必ず大金貨や金貨を使うからだ。
貴族の見栄なのかな。
うちは感謝の言葉を述べてから袋を持ち上げる。
えー!?
手にずっしりとした重みが伝わる。
これは金貨……いや、袋の膨らみ具合からして大金貨。金貨の10枚分の価値がある硬貨だ。
それが100枚は入っていそうな重さ。
大金だよ!
「神のご加護があります事を」
うちは祈りを捧げる振りをして動揺を隠す。
公爵家や侯爵家のような上級貴族であれば、これくらいの額は不思議でもない。
しかし、男爵にように爵位が低い貴族は、華やかなイメージとは裏腹に金のやり繰りで四苦八苦しているのが現状。
ウォーカー男爵家のような富豪は例外中の例外。
普通であれば金貨1枚を出すのも惜しむ。
パイル男爵だって同じはず。
それなのに、桁違いのお布施を出すなんて。
おかしい。怪しい匂いがプンプンするかな。
「パイル男爵はとても信心深い御方でございますね」
うちは、声色を甘くする。
猫なで声というところかな。
「そのような御方。す・て・き」
上目遣いに相手を見る。
うちが王都の教会にいた頃に使っていたテクニック。
これを使うだけで男性信者のお布施が倍に増えるのだ。
「はっはっは。こんなの端金。大したことありません」
狙い通り、パイル男爵の鼻の下が伸びている。
上手くいくか心配だったけど、火傷跡を髪で隠しておいて良かったかな。
「さすがはマルカヌ公爵の腹心パイル男爵でございますね」
資金の出どころはマルカヌ公爵だよねと言いたいけれど、それだと露骨だから、少しだけぼやかした言い回しをする。
全然ぼやかしていないかな。
ところが、パイル男爵はうちの言葉を聞いて、ムッとした顔をする。
「修道女様は勘違いなさられているようですね。このお布施は全て小生の力によるものです」
うそっ!?
声に出して驚きそうになったけど、ギリギリの所で何とか抑える。
「小生はマルカヌ公爵と袂を分かちました。あのような間抜けといても未来はありませんので」
パイル男爵は自らの意思で公爵と決別したように言っているけど、現実は追い出されたんだろうな。
その原因はうちにもあるけど。
そうなると、この大金は誰が出したのかな。
ソランジュ
長く尖った耳を持つ若い女性。
小人さんの洞窟で吸血ゲルという凶悪生物を持ち込んだ女性。
そして、主さんとオリーヴ様とマーカスさんという猛者三人を余裕で相手していた不気味な女性。
ソランジュとパイル男爵が何らかの繋がりを持っている事をうちは知っている。
だけど。
うちはパイル男爵にソランジュの名前を出す事は出来なかった。
よく見るとパイル男爵の目には狂気が混じっている。
いくら教会の関係者であっても、ここがウォーカー男爵家の敷地であっても、その名前を口に出せば無事には済まない。
そんな恐怖を察してしまった。
「どうですか修道女様。これから一緒に食事でも」
幸いパイル男爵はうちの恐怖に気が付いていないみたいだ。
馴れ馴れしくうちの肩に手を置いてくる。
視線はうちの胸だ。
頭の中では鳥肌が立つような妄想でもしているのかな。
毅然とした態度で断っても良いけれど、パイル男爵を怒らせる事は出来るだけ避けたい。
そうだ!
うちは良いアイデアを思いつく。
「もう。パイル男爵ったら」
うちは抱きつく振りをして、お腹に肘打ちをする。
うちのように小柄で力の弱い女性の肘打ちは、男性にとって大したダメージを受けない。
健康なら。
「うっ!」
ノーマの薬でダメージを受けている内臓は、ちょっとした衝撃でも効果絶大だった。
「あわわわわ」
パイル男爵は両手で腹を抱え、内股気味に走り出す。
トイレに行ったようだ。
応接間にいるのは、うち一人だけ。
「お邪魔しました」
この隙を見逃す程うちは馬鹿ではない。
早々に離れから去る。
こうしてうちは無事帰還できた。
この事件、まだまだ裏がありそうだね。
読んで頂いてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




