第84話 応接間
前回のあらすじ
王都の別邸が前回来た時と比べて雰囲気がおかしくなっている事に戸惑うリック。
そこにみすぼらしい格好をしているマイエット子爵とカミラ夫人が現れる。
カミラ夫人の提案で、リックとノーマは子爵でお茶を飲むことになったのだが……
「ピーターの屋敷に比べれば狭いが、寛いでくれ」
マイエット子爵とカミラ夫人に案内され、俺達は子爵の屋敷の応接間へ通される。
茶色を基調とした落ち着いた雰囲気。
この部屋は見覚えがある。
「あの時はすまなかったな」
マイエット子爵が謝りの言葉を述べる。
相変わらずの無表情であるが、声に申し訳ない気持ちが込められている。
「気にしていないで下さい。今となっては愉快な思い出です」
ここは、ピーター父さんと俺が、ポール兄さんの婚約者だったオリーヴ義姉さんを迎えに来た時に通された応接間だ。
あの時は日が暮れまるまで待たされ続けた挙句、全身甲冑姿の婚約者と対面させられた。
色々と面食らったのは事実だが。
「親子だな。思考がピーターに似ている」
そうなのだろうか。
マイエット子爵の言葉に俺は首を傾げる。
実感は湧かないが、15年弱一緒に過ごしてきたから感化されてもおかしくない。
「さあ、お掛け下さい。お連れの方もどうぞ」
カミラ夫人が、ソファーに座るように促す。
俺とノーマは腰を下ろす。
「そう言えば、この部屋で最初にあった時、甲冑に入っていたのはカミラさんだったのですか」
どうでも良いといえばどうでも良いのだが、ふと気になったので質問してみる。
「あの時だけはオリーヴが入っていたのよ。家族になるかもしれない人がどんな方か早く見たかったらしいの」
カミラ夫人が答えてくれる。
オリーヴ義姉もカミラ夫人も体格が似ているので、あの甲冑には二人とも着用する事が出来るのだそうだ。
「お茶でございます」
子爵家の執事が俺達にお茶を運んできてくれる。
ティーカップに琥珀色の液体が注がれた紅茶が置かれる。
ところが、ティーカップが置かれたのは俺、ノーマ、カミラ夫人の三人のみ。
マイエット子爵一人だけ置かれていない。
「湯呑み!?」
俺は思わず声を出す。
子爵の前にはティーカップに代わりに湯気が出ている湯吞み茶碗、それも寿司屋に出て来るような大きな湯呑みが置かれている。
前世では見慣れた湯呑みだが、この世界に転生してからは初めて見た。
「ほう。これは湯呑みというのか。ピーターが言っていた通り、誰も知らない知識に精通しているのだな」
そう言いながらマイエット子爵は両手で湯呑みを掴み、ゴクッゴクッと中の液体を飲み干す。まるで風呂上がりの瓶牛乳を飲むように。
あの液体って紅茶だよな。湯気も出ていたから熱いはずだ。それを一気飲みするとは。
「リックさん、気にしないで。この人、いつもそうなの」
カミラ夫人が「うふふ」と笑いながら言う。
まあ、ここで気にしても仕方ない。
これはマイエット子爵の嗜好の問題だ。
俺があれこれ言う権利は無い。
「ところで、マイエット子爵とカミラさんは、何故あんな姿をしてあそこにいたのですか」
だから俺は早々に本題を切り出す。
同じ王都にいるのだからウォーカー男爵家の王都別邸の前で出会うのは不思議ではない。しかし、二人の格好には疑問がある。
マイエット子爵は風呂上りの時でも正装するような人だ。
そんな人が外でみすぼらしい格好をしているのは、どう考えてもおかしい。
「まるで変装をされていたみたいですね」
俺は感じていたことを言葉にして伝える。
「やはり分かるか」
子爵は即答する。
「何故、変装をして俺の家の前にいたのですか」
俺が自分で質問しておいて何だが、理由は予想できる。
「オリーヴとティムが元気か確かめる為だ」
予想通りの回答だ。
「マイエット子爵なら変装しなくても義姉さんやティム君と会えるのではないですか。それとも貴族の子弟が集まっている謎の集会が関わっているからですか」
「流石だ。情報が早いな」
俺の言葉に常に無表情のマイエット子爵の眉が少しだけ動く。
「いえいえ。そんな事はありません」
情報が早いというより、知ったのは偶然だ。
俺は謙遜しておく。
「私も聞きたい事がある。リック、なぜ君は今、ここにいるのだ。私の計算では、ウォーカー男爵領に情報が届き、王都へやって来るのにあと1日は要するはずだが」
マイエット子爵が眼鏡越しに鋭い眼光を放つ。
つまり俺が王都へ到着するのが1日早いと言いたいのだろう。
1日の差は『超人』の力と早馬の差である。
それを的確についてくるとは。
頭が切れる人だ。
マイエット子爵に『超人』の力を教えるべきか。
考える時間はない。
余計な時間は相手に付け入る材料を与えるだけだ。
即座に返答する必要がある。
「たまたま俺の手元に優秀な馬がいたからです。あとは運が良かったからでしょうか」
子爵を信用してないわけではないが『超人』の力は伏せておく。
「優秀な馬か………そう言う事にしておこう」
恩情で容赦してもらったみたいだ。
「それより、お互い何が起きたのか話しませんか」
情報交換を提案する。
王都別邸で行われている謎の集会について、詳しい事を俺は知らない。
マイエット子爵だって、ウォーカー男爵領で起きた出来事を全て知ってはいないだろう。
お互いの情報の精度を高める事は有意義な時間になる。
「うむ。君の言う通りだ」
マイエット子爵も同意する。
こうして俺と子爵は持っている情報を伝え合ったのであった。。
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