交錯する疑念2
「……以前は、胸が当たっただけでかなり動揺していたように思うのだけれど」
「狙って当てているとわかれば、脂肪の塊がぶつかっているなとしか思わないよ」
『秦啓一』であれば、慌てるかもしれないが―いや、女性に対して相当な警戒感を持っていた上に、津田香は、最初から何かが怪しいと踏んでいた相手。わざと胸を当てている、と考えた瞬間に態度を硬化させるだろう。
腕を解かれたオレはソファの上で脚を組み、あえて大きな態度をとった。
ここに白鷺凜はおらず、気を遣うべき相手である槇原康太も、内心を読まれることを警戒する加藤由利も、『秦啓一』の味方をすることがわかりきっているマスケラもいない。
「まず、確認よ。ちゃんと情報交換を行うって、凜に声はかけたのよね、秦啓一」
「もちろん。ただ、体調が優れないので今回はパスさせて下さい、という言伝があった。アンタには伝言か何か、なかったのか」
場違いにも程がある陽気なバラードの音楽だけが鳴り響く中、津田香はテーブルの上にマイクを置き、現在の白鷺凜のような鉄仮面を連想させる無表情で3秒ほど沈思。
彼女は、ゆっくりとソファに腰を下ろした。
「あの娘に害を加えたら容赦しないわよ、秦啓一」
オレに対して向けた言葉であるなら妥当なものだが―よりにもよって、命懸けで救った白鷺凜に対して、『秦啓一』が害を加える、だと?
「アンタにだけは言われたくない言葉だな、津田香。
アンタは酒井さんや加藤さんのように、白鷺さんとそれほど縁が深くないという訳でもないのに、白鷺さんと対峙した時、あっさりこちらについたじゃないか。槇原君のように、ズタボロになってでも説得しようとは、全く見えなかったんだがね」
鳴り響いていた音楽が止むと、辺りの空気が静寂に包まれる。
「……そのセリフ、そっくりそのまま返すわ、秦啓一。少なくともあの時、凜の逃げ道を塞ぐような発言をして、暴発させたのは貴方でしょう」
「ああそうだな。そして、もう一度言うが、説得はもう不可能と早々に判断し、俺に手を貸して、白鷺さんと対決することを選んだのもアンタだろ、津田香」




