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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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本性

 沈黙が2人の間を支配し―何かをひっくり返したような轟音が聞こえてきた。


 加藤由利は左腕にOBを装着し、そこから伸ばした生体コードを素早くうなじに接続。両手には、すでに例の皮手袋がある。


「……ちょっと、様子を見てくる。アンタは」

「いや。敵の立場で考えたら、今、アンタと離れるのは自殺行為だ。敵の目的は攫おうとした白鷺さんか、その白鷺さんに化けた『人形』を使って、排除しようとした俺だろうからな。情けない話だが、アンタに守ってもらうよ」


 詭弁を弄しつつ、身体につけられていたコード類を乱雑に取り外し、両腕を使って上体を起こす。

 それだけの動作で身体が悲鳴をあげたが、部屋の外から聞こえてくる物音の激しさが、状況の悪化を否応なしに告げている。


 どうにか足をベッドから床に下ろし、


「アンタは下がって!」


 加藤由利が叫んだ瞬間、ドアが蹴破られた。

 ナース服を着た看護士、入院患者と思しきお年寄り、見舞客と思しき少年―共通点は何一つ無いが、彼等が一斉になだれ込んできたことから判断しても、


「邪魔よっ!」


 視線を彼等に据えつつ、左手の親指と中指を弾き、両足の爪先と踵は地面を鋭く叩き付ける。

 一瞬で繰り出された3つの音は、殺到してきた3名―いや、3体の『人形』を、瞬く間もなく、衣服を残して溶かした。


 加藤由利はこちらを顧みない。


「止めたって無駄なんでしょ。なら、道は切り開くからついてきなさい! アンタのOBとか諸々の道具は、そこのロッカーに入っているわ」


 ……中々にキツイ要求を言ってくれる。


 だが、最初に無茶を言ったのは俺なんだから、身体に鞭打ってでも動かねば。


 ポケットに突っ込んだACT余波の集約装置をONにしてから左腕にOBを装着。万一のため『砂上の楼閣』の改変式はあらかじめ打ち込んでおく。


 こんな僅かな動作だけで、上半身が痛みと言う危険信号を発し、肺が締め付けられる。


 OBから生体コードを伸ばし、うなじに接続し、荒い息をどうにか整え、歯を食い縛りながら歩を進めた。


「……行こう。悪いが、先導を頼む」


 早朝の公園は、一般人に見られるかもしれない危険性はあったが、結果を見てもわかるように『見られない』可能性も多分にあったから、リスクを考慮して襲ってきた可能性もあった。


 しかし病院と言う、どう考えても衆人環視の状況は避けられないにもかかわらず、『人形』が襲ってきたということは……見境なく襲ってきたか、あるいはなんらかの制約・制限のために、そうせざるを得なかったのか。


 そう思う理由は、


「5階の人も眠らされているだけだったけど……4階も同じね」


 加藤由利は左目だけを開けた状態で、各病室の入り口や廊下で倒れ伏している病人を確認しつつ、神経を尖らせている。


 彼女であれば一目で見破れるが、倒れている一般人を装って『人形』を配置している可能性もあるからな……そうやって考えると、後々三氏族に睨まれることを考慮しなければ、上手い手かもしれない。


「白鷺さんの部屋は3階なんだろ?」

「ここはB棟だけど、白鷺さんの部屋は隣のA棟の部屋なのよ。二つの棟を繋ぐ通路は1階か、4階にしかないから」


 鳥肌が立つような冷気を感じ、俺も彼女も言葉を切った。


 明らかに殺気とは異なる物理的な冷気であることは、吐き出した息が白く染まることからもわかる。


 A棟とB棟を繋ぐ通路と窓ガラスには霜が薄っすらと張り始め、気温差によるものか、霧も発生していた。


 金属めいた異音が響くと、何者かが俺達のすぐ側にまで後退してきた。


「……よかった。そっちは、無事だったかい」


 声を聞くまでもなく、マスケラに高校の制服とくれば、該当者はさっちゃんしかいない。


 肩で息をして呼吸を整える彼女の左手にはサバイバルナイフが握られているが―彼女の利き手は、右手だったはず。


 右腕は敵の攻撃を受けたのだろう、制服の袖が血に染まっている。


 高校内で、マスケラを装着するのを教師にすら黙認される彼女が、押される相手。


「……アンタの主張通り、彼女が絡んでいた訳ね」


 右目を閉じ、左目だけを霧の向こうに見据えて加藤由利が呟く。


 A棟とB棟をつなぐ通路の奥には、見ていて暑苦しさを覚える笑顔ではなく―俺が普段見慣れている、白鷺さんのような無表情でOBを構える、津田香が佇んでいた。

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