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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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襲撃

 俺達の間で沈黙が立ち込め始めると、それを破るようにドアをノックする音が聞こえた。


 これ幸いと、俺はドアを開ける。


 こういう時、いつもと全く同じ佇まいの白鷺さんを見ると、ほんの少しだけだが、落ち着く。


 ……これで無表情でなければ、学校のアイドルとかになってそうなものなのに。つくづく惜しいと思ってしまう。


「秦さん、お話は終わったんですか?」

「ああ。酒井さんは停電の様子を見てくる、って先程様子を見に」


 後ろから肩をつかまれ、グイッと引っ張られる!


 正面を見たまま後ろから引かれたので、目の前を何かがピュッと音をたてて通り過ぎたのがわかった。


 そのまま倒れそうになるが、後ろに控えていた何かに寄りかかるような形で、どうにか転倒せずに済む。


 顔を上げれば、加藤由利が俺の肩をガッシリと両手で掴んでいた。


「加藤さん、何を」

「そこそこ出来がいい『人形』じゃない。アタシじゃなかったら、偽物だってわからないでしょうね」


 ! 加藤由利は左目だけで眼前の白鷺さん―いや、その偽物か―を見据えている。


 右手を振りぬいたフォームから、眼前の敵手はその左腕をこちらへ伸ばす。


 俺は下半身を落とし、膝のバネを駆使してバックステップで後退するのに伴い、左腕に装着したOBに『幻影』の改変式を打ち込む。


 敵手は加藤由利の目を抉るべく、貫手を放つ―ただし、彼女の顔から50センチは離れた空間に目がけて、だが。


「極力ACTは使うなって言ったでしょうが……! このバカ!」


 その隙に加藤由利は革製のグローブをはめた右手の親指と中指を合わせ、パチン、と人形の耳元で音を鳴らした。


 すると、敵手は突然動きを止め―なんだ? これは、溶けている? 水蒸気らしきものを辺りにまき散らしながら、ドロドロと身体を崩し―服と、ゴムみたいな皮だけが場には残された。


 加藤由利の叱責を誤魔化すように、俺は話題を変える。


「……随分視覚的にキツイACTを使うんだな。こんなドロドロに溶かすなんて」

「アタシはアカシックレコードに干渉して、ACTで造られた物質を『分解』しただけよ! 自然界に存在する物質をドロドロに溶解するACTなんて使えないわよ! その証拠に服は残ってるでしょ!」


 心底嫌そうな顔で叫びつつ、靴のつま先で、敵が残したゴムみたいな皮をつついている。


 まさか毒とかでも塗っている訳じゃないだろうが―一応、ホテルに備え付けられたタオル越しに、そのゴムもどきを触ってみる。


「……ゴムっぽいんだが、ゴムなのか? いや、今はこんな物よりも白鷺さんだ白鷺さん!」

「ちょっと、アレ!」


 加藤由利の声に顔を上げる。

 彼女の視線は、近場の公園に向けられており―そこにいた、スーツ姿の何者かの肩に、見覚えのある紺系のデニムに、英語で印字された白系のTシャツ、そして腰まで伸ばした黒髪の女性が担がれているのが窓から見えた。


 その後ろから、幾人かの―恐らくは、これも俺達が遭遇したような『人形』を相手取りつつ、接近を試みる人物が1人。


 こちらも見覚えのある、ウチの高校の制服を着たマスケラ。


「マズイ! このままじゃ白鷺さんが拉致され」

「……加藤さん。コレ、おかしくないか?」


 俺はその光景を、ホテルの窓の上から、俯瞰しながら呟いた。


「? 何を訳のわかんないこと言って」

「いや、おかしい。人形があれだけたくさんいるから、酒井さんが手間取って、中々白鷺さんに近付けないのはわかる。なのに、どうして白鷺さんを担いだ人形はとっとと逃げない?」


 指摘に、加藤さんは一瞬だけ考え込むも、首を横に振る。


「でも白鷺さんを取り返さないと、彼女、何をされるか」

「賭けても良い。俺達が出て行ったら、白鷺さん担いだ人形はすぐに逃走するぜ」

「……だからって、ここで手をこまねいている訳にいかないでしょ! 現にあの娘は捕まってるのよ!」

「だから、アンタに協力して欲しいんだよ。行くぜ!」


 ん? と訳がわからないと言いたげに眉をしかめる加藤由利に背を向け、俺は走り出した。

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