ジャンケンによるACT予測
ブツブツ言いながらも俺のうなじに生体コードを接続させ、自身のOBと連結するゆりっぺは、基本的に人が良いのだろう。
ホッとした瞬間に年甲斐もなくイジリ倒してしまったから、今後は気を付けよう。
「で、どうかな? ACTを発動させるのに必要なスイッチが壊れている、って医者の話だけど、やっぱそうなのか?」
「スイッチは壊れている、と言っても良いのかもしれないけど……」
ゆりっぺはうーんと唸りながら、自身のOBを数度操作する。
「確かに、脳の血管にちょっとした損傷があるし、それをコイルで塞いでいる。血管が破れた時のダメージでスイッチも壊れた、って考えるのは当然と言えば当然だけど……」
「だけど、何か気になるのか?」
問いかけには答えず、ゆりっぺは彼女自身のOBにもう一つ生体コードを繋げ、それをPCに接続した。
PCを立ち上げてしばらくすると、PCのスクリーンにCTらしき映像が映し出された。
「これ、あんたの脳の情報を読み取って、一定の角度からスライスした感じで、MRI風に再現した映像よ」
A、B、C、Dと4つの画像を見せられた。
「で、こっちがアタシの脳」
同じく4つの画像が出てくるが……脳の隙間は、どの画像を比較しても、明らかに俺の方が大きいし、多い。
「やっぱりアンタ、どこかの諜報員でしょう? そうでもなければ、こんな30代としか思えない脳の画像なんて出てくる訳がないわよ」
「ゆりっぺから見て、俺の脳は30代の脳なんだな?」
「……な、何よ、そんな顔したって、事実は動かせないわよ。貴方の脳は、間違いなく、30代。どんなに若く見積もっても20台後半の脳よ。整形して若作りして、白髪を黒く染めたって、脳は偽れないんだから」
ゆりっぺはウソが上手いタイプでは無いから、感じたことをそのまま口にしているのだろうが……これは、俺にとっては重要な情報だな。
耳まで真っ赤にして両手をブンブン振って否定するような、あの直情径行がゆりっぺの演技だと言うなら、もう白旗を上げるしかない。
「ちなみに俺の脳を、津田さんや酒井さんが見たら、どういうリアクションをすると思う? やっぱり30代の脳だってビックリするんだろうか?」
「あ、それは無理」
「ん? なんでだ?」
「だって、アタシのACTって、情報の把握に特化しているから」
情報の把握に特化?
「まぁ、見た方が早いかな。ちょっと、アタシとジャンケンして」
「ジャンケンって……あのジャンケン?」
「それ以外ジャンケンって何があるのよ? そうね、20回くらいやってみましょう」
20回? そんなにやってどうする気だ?
「はいはい、何考えてると思うでしょうけど、論より証拠よ、はいじゃーんけーん」
俺グー。ゆりっぺチョキ。
「はい続けて続けて、じゃーんけーん」
おい、俺勝ったのに、続けるのかよ?!
俺グー。ゆりっぺパー。
続けて、俺チョキ、ゆりっぺチョキ、俺パー、ゆりっぺグー。
「おいこれに何の意味が」
「今のところ、あたしの1勝2敗1引き分けになるけど……ここからあたし、あんたに残り16回、全部勝つって予言しとくわ」
「はははは、んなバカ言うなよっ、と!」
俺チョキ、ゆりっぺグー、俺チョキ、ゆりっぺグー、俺グー、ゆりっぺパー、俺チョキ、ゆりっぺグー、俺グー、ゆりっぺパー……
「おいおいおい、なんだこれ?」
「ほーら、次いくわよ次」
やってもやっても、ことごとく負けるのはどうしてだ?
20回目、俺チョキ、ゆりっぺグー。
「アンタ、頑固ねえ……7回も連続でチョキ出すなんて」
「おい、これはどういうタネがあるんだよ? 16回も連続で負けるなんて、確率に直せばいくらだ?」
「2分1の16乗だから、6万5536分の1の確率ね」
つまり?
「テレパシーでも使えるのか、ゆりっぺ?」
「……あんた、さっきのアタシの話、聞いてた? アタシのACTは情報の把握に特化してるって言ったでしょ」
ゆりっぺはため息をついているが、情報の把握って何だよ?
「つまり、アンタが次、グーを出すか、チョキを出すか、パーを出すか、アタシはアンタの動作とか、息遣いとか、目線とか、そういった様々な情報を、アカシックレコードに照らし合わせた上で予測したのよ」
「おい、待て。なんだそれは? それってもう予知のレベルなんじゃないか」
「不確定な要素が入り込まない限りはね。例えば、じゃんけんやっている最中に、アンタが他の誰かに声をかけられた事で、反射的に出す手が変わったりすれば、アタシの予測は外れる……まぁ、大概は傍にいる誰かがどう声をかけるかとかも予測するから、万に一つくらいしか、それでも外れないけど」
「じゃあ、ゆりっぺのACTは予知に限りなく近い予測ってことか?」
「短期的な、って一言がつくけどね」
……こりゃ、1対1の対戦形式で戦う試験では、相当強い能力だわ。
どう予測しても回避出来ない攻撃を叩きこむしか、勝てそうにない。




