ハロウィン
ハロウィン。この世とあの世の境が曖昧になるこの日、街は異界になる。
あちこちに飾られたカボチャのランタンが微笑む先には、魔女や吸血鬼、フランケンシュタインの怪物。王子様、お姫様、それから何かのキャラクターまで。多岐にわたるモンスターたちがあちこちの家に突撃し、「Trick or Treat」を叫んでいる。
籠の中にたくさんのお菓子を入れて満足そうに歩いていく子どもたち。その中にはもちろんキーラとティミーもいた。
魔女の姿と、黒猫の姿。二人が立つのは、紫の外壁に黒い屋根、ところどころライムグリーンの汚れが飛んだ一軒の小さな家の前。マゼンダに近い赤色の扉が不穏な雰囲気を漂わせて――
「さあティミー、行くわよ!」
それでも構わず、魔女は扉に手を掛けた。ティミーは咄嗟にもう片方の手に飛びついた。
「え、本当に入るの⁉ 嫌だよ、怖いよ!」
「大丈夫よ。ここにいるのは、本物じゃなくて仮想した大人の人やお人形よ?」
そう、キーラたちが入ろうとしているのは、特異な家でも何でもなく、ただのお化け屋敷である。このハロウィンのための特別な催しを知って、キーラはティミーを連れてきたのだが。
「そうかもしれないけど、雰囲気が……」
ティミーは恐る恐る扉へと目を向ける。よくよく耳を澄ませると、環境音らしいBGMのなかに、翼の羽ばたく音や土を掘る音、骨がぶつかり合っている音、金属が軋んでいるような笑い声などが混じり合っている。ティミーの中に墓場を荒らし回る物の怪たちの光景が浮かんだ。
「平気平気」
身を震わせて腕を強く掴むティミーの手を、キーラはもう一方の手でもぎ取った。そして代わりにその掌を握る。
「大丈夫よ。案外素敵なお化けがいるかもしれないし」
「いないよぉ、そんなの」
「そんなことないわよ。少なくともドラクロワ伯爵は素敵な人だったでしょう?」
説得しているようで失礼な発言に、ティミーの顔は引き攣った。
「それに――」
「……何?」
警戒するティミーを前に、キーラは胸を張った。
「言ったでしょ? あなたは私が守ってあげるって。魔女だから簡単よ」
Day 31. ハロウィン




