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気が利く男

本日の投稿は終了

 街へ辿り着いた我ら一行は、そりゃあもう盛大なもてなしを受けた。先頭が。

 キャーキャーワーワー叫ばれた。先頭が。


 ま、そんなもんだ。

 寧ろ俺らの立場の人間が騒がれたら、ドッキリか陰謀を疑う必要がある。


「なんか、大人の変な配慮を見てる気がするねケイ君」

「言えてる。まさかあんなねーちゃん達がいるとは思わなかったわ」


 ダリルと共に宿泊施設のデカい屋敷の窓から庭を見て、思わず関心半分、飽きれ半分の感情を抱いてしまう。


 庭に着飾った美人なねーちゃん達がいて、うふーん。あはーん。みたいな感じを醸し出していた。

 信じられますか神様? 学生行事なのに高級娼ほにゃらら。みたいな人達がいるんすわ。

 これがエロゲーという概念なのか狭間の同胞達よ⁉


「ま、俺らが話しかけたら向こうも困るっしょ。お互い見なかったことにするのが一番さ」

「そうだね」


 素直な自分の意見を口にする。

 あの人らも領主に言われてここに来てる職人だから、対応外の俺らに話しかけられたら困るだろう。

 優しくやんわり断れながら、この坊やは私になんの利益も与えてくれないのよね。みたいな冷たい目で見られると、それはそれでいけない扉を開いてしまいそうではあるが。


「ところで夜会って……ダンスとか無理なんだけど、あると思う?」

「ないんじゃないかなあ?」


 実はかなり懸念していることを漏らすと、ダリルが流石に無いっしょ。みたいな軽い感じで否定してくれた。だよな!


 そんな訳で領主のデカい館に案内されて、使用人や侍女が忙しなく動き回り、高貴な大人達があらあらうふふとお喋りする空間に迷い込んでしまった……俺ら必要ねえだろ!


 なお主役である三大美女は、よくある演出。つまりあのお方のご来場です! みたいな扱いのため、ちょい後でやってくる。


 見事にピンと跳ねた髭の貴族。恰幅のいい大商人っぽい人間。それに着飾ったご婦人。その他大勢。

 更に皆、本題はお喋りのため少し摘まむ程度にしか食べないのに、やたらと用意された料理と飲料。

 これがブルジョワというものか!


「こちらをどうぞ」

「あ、どうも!」


 使用人のあんちゃんが運んでくれた杯を手に取り口付ける。

 うん。甘くておいしい。体に染みわたるわー。


「女神ルシール様、聖女リズベット様、聖勇者レア様がいらっしゃいました!」


 俺ら学生全員と関係者全員が入れる、このためだけに作ったに違いないパーティー会場で、俺に負けないレベルのデカい声が響く。


 ワー!

 集まった大人達は拍手で三大美女を迎え入れてパチパチ、俺は体がポカポカする。

 は? なにこれ?


「あの、なんか体が温まるんですけど、なんですかねこれ?」


 使用人に理由を尋ねる。

 原因はどう考えても俺が飲んだ甘いなにかだ!


「行事の伝統である滋養強壮の飲料です。歩かれた方々の疲れを癒すのに最適ですよ」

「ほほうー。これは中々に気持ちがいい」


 体が芯から温まっていい感じ! なるほど、これは確かに伝統になる訳だな! それくらい効果がある!

 いやちょっと待てよ。男の俺でこれ?


「うん? 途中から馬車に乗られた御令嬢の方々はどんな感じです?」

「基本的にはずっと歩かれた方に提供しておりますので、御令嬢の方にはしておりません」

「ふむふむ」


 ははは。だよねー。

 きちんと運動して疲れた奴向けの効き目だもん。

 いやちょっと待てよ。パートツー。

 なんかイヤーな予感。狭間の同胞の言葉を借りるなら、エロゲー特有理論!


「歩いた人ってことはルシール様達にも提供するんですか?」

「はい。そういう手筈になっています」

「ぶ、分量とか気にされてます?」

「え?」


 こ、これが中世独特のガバガバ⁉

 俺らみたいなやんちゃボーイと女性、特にリズベットさんみたいな小柄な人が同じ分量を飲んでいい訳ねえだろ!


 ここは使用人に頼んで、ルシールさん達がこれを飲まないようにしてもらおう。

 という訳にはいかないんだなあこれが。

 まず使用人が上司に報告。その上司が更に上の上司の顔色を窺う。そんでその上司が、最高責任者。つまり領主に報告して、そこから話が進むのだ。

 これが身分社会!


 ってな訳で教官殿に報告してー。俺はイケメンボーイとして壁の飾りになってー。後は野となれ山となれー。

 教官殿がかなり遠いから、そんなことをしてたら絶対間に合わないわ。

 しゃあねえ行くか!


「そこで止まりなさい」


 ふらふらーっと自然体を装って三大美女。一番の高貴なお歴々の近くに移動すると、王都騎士団の一員と思わしき奴に止められた。

 が。

 ここであたふた結論を言わず、手遅れになる物語のお約束的パターンと俺を一緒にしてもらっちゃあ困るね。

 お話の盛り上がりや事件の天敵は主人公ではなく、事件前に止める未遂だ。


「歩いてきた者に滋養強壮の飲料が提供されております。それゆえ、途中から馬車に乗られた御令嬢に提供されていないものと聞きましたが、ルシール様達は歩いておりますので、提供されるようです。しかし中々に強力でしたので、我々とは体格が違う御方たちには、効きすぎるのではと気になってしまいました」

「なるほど……分かった。私から伝えておこう。だがパーティーの持て成しにケチをつけると、主催者の面子に関わる。君のお家にもあまりいい影響は与えないだろう。騒がずに立ち去りなさい」

「分かりました」

「……どうした?」

「いえ、手違いが無いよう見届けようと思いまして」

「見たところ子爵か男爵の家のものだろう? これだけ人がいる場で軽率に手柄を誇れば、ご両親が迷惑するぞ」


 周囲の全員が、三大美女に注目を集めてるから、小声な俺らの会話は聞いてないだろう。それは騎士も分かってる。

 だがてめえ、その文脈を自分で客観視できねえのか? なんで俺が手柄誇る前提で話し進めてんだ。三大美女におめえが、水を飲むように耳打ちしたらいいだけの話だろうが。笑えるくらい怪しさ満点だぞ。

 ついでに述べると、周囲の全員が三大美女に注目してるのであって、本人は含まれてない。レアさんの鋭い感覚を知ってるからここでお喋りしてんだよ。


「どうしたのかな?」


 レアさんがひょこっと顔を出してくれた。

 残念! 俺が身分不相応な行動したら、何かあったかなと思われる程度には付き合いがあるんだわ。


 そんで騎士が横槍を入れる前に、さっき言ったことをそのまま繰り返す!


「なるほど、私たちには必要ないものだから、普通のお水を頼むことにするよ。ありがとう」

「はい。それではこれで失礼します」


 ミッション完了! と言いたいところなんだが俺には分かる。

 レアさんは一見すると普段通りだが、おしっこちびりそうな冷たい目で、俺を止めた騎士を見てる。

 そうっすよね。意識が俺らに向いた状態の貴女の感覚なら、騎士の後半部分の怪しすぎる言葉も聞こえてますよね……。


 さーてこれでゆっくりできるな!


「みたいなことがあったんすわ」

「分かった。少し調べてみよう」


 なーんてね。

 馴染みの教官殿に報告して今度こそ終了! 調べてみると言ったということは、教官から見ても騎士の対応は単なる俺への配慮ではない。

 あんまり女性に馴染みが無いものですから……。おお、これは思い至りませんでした申し訳ありません! みたいな感じで終わるだけの話だ。

 だけどまあ、騎士が分量まで指定してたら大事になるけど、流石にそんなことまでは口出ししてないっしょ!

 これが終わったら風呂入って寝るぞー!

もしよろしければ下の☆☆☆で評価していただけると作者が泣いて喜びます!

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