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これから

一旦終幕です。ありがとうございました。

教皇庁お墨付きの宿屋は最高級の作りで、部屋も風呂も食事も貴族の待遇だ。カイエンなりの気遣いだろう。俗物的なレミリアは懐柔されてしまいそうだ。


レミリアが興味本位でフロントに宿泊金額を聞いて、アレイスターの顰蹙を買っていた。

ちなみに代金は一般の宿と1桁違った。


そんな宿で3日程過ごしたところで、フィーンフィルから王印が押してある書類とギルベルトへの指示書を持った使者が到着した。


国王からは王国への賠償と、バリアントへの賠償として王国が試算した金額とベオウルフの希望を伝えるように指示があった。

ギルベルトとベオウルフがバリアントへの賠償を打ち合わせた。


ベオウルフからは現状のバリアントの教会関係者を異動させクリス達聖女隊に教会を任せること、魔導学院で使用される教本一式を賠償に加えることを希望した。後者は魔導に弱いバリアントを今後補填していく為のアレイスターの入れ知恵だ。


しかし、いくらもらってもエレオノーレは帰って来るわけではないが。


翌日、フィーンフィルからの使者が来たにも関わらず一向に教皇庁から連絡が無いので、全員でカイエンに会いに来た。


「教皇が我関せずを貫いていてな。フィーンフィル国王の書面があるなら助かる。ちょっと見せてくれないか」


カイエンが書類を確かめる。王印があり教皇庁宛てになっているので、これなら教皇も逃げたら責任問題になるだろう。顔が引きつる内容だったが。


「本当にこれを教皇様に見せるつもりなのか?」

「別に脅しでなく陛下が自ら兵を連れて乗り込んで来るよりはマシだと思う」

「剣聖バルバネスか…….」


教皇庁本部が血の海になるよりは、ということだ。幸い教皇は登庁しているので、カイエンは観念して教皇にアポなしで突撃することにした。


教皇は謁見で使用する教皇の間ではなく執務室にいたが、どうせ呼びつけても来ないだろうとカイエンが言うので手狭ではあるが全員で執務室に押しかけた。


教皇リヒャルトは肥満した顔を真っ赤にして怒っている。


「卿ら不敬であろう! 私を教皇と知っての行いか!」

「教皇の執務室に入ったのだから当たり前だろう」


ギルベルトが睨みつけるとゆでダコみたいな年寄りが顔を引きつらせた。


「神殿騎士団長を通じて面会を希望していたはずだが、教皇庁はフィーンフィル王家を軽んじているのか?」

「ルカリオがしでかした件は私は関与しておらぬ。ルカリオは死んだのだからもう良かろう。下がれ!」

「こちらは公女を失っている以上、そうはいかぬ」

「公女だと!?」


教皇の顔が真っ青になった。本当に何も聞いていないようだ。カイエンからも聞いていないのか。


「申し訳ございません、全く聞く耳持っていただけませんでしたので」

「ルカリオは何をしでかしたのだ!」

「我が君からの書状を預かっておりますので、どうぞご確認ください」


ギルベルトは教皇に書類を差し出した。

読み進める教皇から見る見る血の気が引いていく。


「私に教皇の座を退けと……」


具体的には、戦争を回避したければルカリオと実行犯を差し出し、教皇とフィーンフィル方面統括の司教を更迭し、賠償を支払うよう記載されていた。


ルカリオがバリアントに仕掛けた2度の即死術式と王都でのバリアント調査に関する陰謀について、根も歯もないことではなく証拠を提示でき、既に後者を実行したミドウ司祭を処刑した旨が書かれてある。


聞き入れなければエテメンアンキは灰塵に帰すだろうと忠告されていた。


「わかった、私は教皇を退位する。神殿騎士団はフィーンフィルの裁判で裁けば良いし、賠償もしよう」


教皇は諦めたようにそう言った。

全て断れば抹殺され、他の条件を飲んで教皇の座に居座り続けても良いことは何もない。


「ところでバリアントへの賠償でクリスティナをバリアントの神殿長にとあるが、クリスティナは生きているのか?」


教皇の問いにレミリアの首飾りからクリスが現れる。


「教皇様、こちらに。生きているかはともかく、お陰様で元気にはしております」

「なんと不思議な。わかった。司祭としてバリアントの神殿長の任に就くがよい」

「かしこまりました」


話は終わった。教皇は魂が抜けたようになっていた。


「私の後任はアレフヘイム方面の司教が教皇になるだろう。賠償を済ませたらあとは後任に任せる。疲れたのでもう良いか?」

「では失礼させていただく。ゆめゆめ約束を違えませぬよう」


ギルベルトがそう釘を刺してから一行は退出した。

庭に出るとカイエンが神妙な顔で立ち止まる。


「思い出したんだ。ルカリオ様の背後には、恐らくガラリア帝国がいたはずだ。これで終わるとは思わぬことだ」

「どういうことだ?」

「フルングニルの聖遺物の入手先だ。あれはガラリア方面の司教がもたらしたものだったと記憶している。今回の件に直接は絡んでいないがな」


アレイスターは考えこんだ。魔族弾圧の姿勢など、本来の教皇庁の立場とかけ離れた思想は本来ガラリア帝国のものだ。


「ベルがガラリア帝国を探ってくれるのは丁度良いかもしれない」


カイエンが言うことだが、ガラリアが糸を引いているというのは現実味を帯びていて、薄ら寒い話だった。


それはともかく、バリアントのことについては一件落着した。

その夜はギルベルトやベルも呼んでみんなで戦勝を祝してパーティーをした。




レミリアはベオウルフの部屋にいた。

話があるとベオウルフに呼ばれたのだ。

一応、パーティーの後で風呂に入り直してきた。別に理由はないけれど。

明日にはバリアントへの帰途につく予定だ。あまり夜更かしもできない……こともないけれど。


レミリアが部屋に入ると、ベオウルフはレミリアの手を引いて横に座らせた。急に引っ張られたのでベオウルフにもたれる形になる。


「ちょっと、ベオウルフさま。酔ってるでしょ」


ベオウルフはいつかみたいに酔っていて気分が良さそうだ。ある程度覚悟してきたのだが、レミリアは凄くドキドキしてきた。

しかし、ベオウルフの話はあまり色気のないものだった。


「レミリア、俺は帰ったらバリアントをもっと大きくしようと思うんだ」


お構い無しにベオウルフは話し始めた。


「フルングニルにも協力してもらって、まず開墾から始めるつもりだ」


いつだったか、カロリーナがアレックスからベオウルフに領地の経営を教えさせると言っていた。

何か聞いて実践するのだろうか。


「農地を増やして仕事と収穫を増やすんだ。それから、もう少し商売しやすい街を作って人も増やすんだ」


とってつけたような話だが、賠償金があるし資金的にはそういう運用はアリだ。


「レミリアにも手伝って欲しい。バリアントは魔導関連が弱すぎる。お前やクリスに魔導の指導をしてもらって、領地の若者を育てて欲しいんだ」

「あ、そのための魔導学院の教本だったんですね。もちろん頑張りますよ。私も全部読みながらクリスに教わりたいです」


付け焼き刃にしても悪くないと思う。レミリアもやる気になってきた。


「でも、なんでいきなりそんな話になっているんですか?」


ベオウルフは照れ臭そうにしている。


「お前に不自由させたくないから」

「え?」


ベオウルフが顔を寄せてきた。


「ん……」


唇を重ねられた。少し酒の味がする。


「ベオウルフさま、やっぱり酔ってます」

「少しだけだ。嫌だったか?」


ずるい聞き方だ。嫌なわけないがらレミリアはむくれてみせた。


「怒るなよ。絶対幸せにするからさ」

「なんだかずっとこれで誤魔化される気がします……」


バリアントに帰ってからも楽しい日々になりそうだ。

レミリアは幸せを実感していた。

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