リリ合流
再び教皇庁との国境沿いの村にやってきた。リリがまだ来ているかはわからないが、小さな村なのでリリの容姿ならすぐに見つかるだろう。
レミリアはそう考えていたが、リリが近くにくればアレイスターにはすぐわかるらしい。
「リリの魔力を探知できないから、まだ着いていないみたいだよ」
「え、それって私とかでもわかるんですか?」
「索敵の結界まで張れば魔力を感じることはできるけど、僕とリリのは契約魔術だから特別だね」
お互いを感じることができる特別な契約魔術。レミリアは少し素敵な響きに聞こえてしまった。
実際はプライバシーが息をしていないわけだが。
一行は宿屋に向かった。この村の宿屋に来たのはつい先日のことだったが、レミリアは懐かしく感じた。
獣並みの気配察知ができるベオウルフがいるので、今回はレミリアも個室になった。アレイスターがリリの部屋も合わせて4室取っておいた。
「ん? 以前はお前ら同じ部屋で寝たのか?」
少し機嫌悪そうにベオウルフが反応した。
「何にもなかったですよ?」
「当たり前だ」
「あの時は護衛という観点から仕方なかったからね」
「ふん」
レミリアだけでなく、ベオウルフも意外と面倒な男だった。
宿屋の食堂で夕食を食べていると、リリが到着して声をかけてきた。
「お待たせしました」
「リリ、ご苦労さま。呼びつけて悪かったね」
無口なリリは言わないが、リリとしてはアレイスターの側の方が良い。それにアレイスターがいない間は暇で仕方なかった。
「リリ、やっほー。ダイブイーグルはどんな感じだった?」
「屋敷がちょっと騒ぎになった」
「ええっ?」
レミリアは自分の死霊魔術の具合を尋ねたが、トラブルはあったようだ。
ダイブイーグルはリリを見つけるまで屋敷上空を旋回し続け、屋敷が騒がしくなった辺りでリリを見つけた途端急降下してきた。
くくりつけられた手紙を見つけ損ねていたら、リリが狩るところだったらしい。
「早く『シンクロ』をマスターしようね」
「結局その話になるんですね……」
そんな他愛も無い話をしている間、リリは一向に席につこうとせず、アレイスターの後ろに立っていた。
「リリは夕飯は済んでいるんですか?」
「まだ」
「じゃあリリも何か頼んで一緒に食べましょうよ」
「私は……」
リリは困った顔をした。
「あ、そうか。リリ、しばらく給仕はいいから、夕飯を一緒に食べよう。ごめんごめん、気がつかなかった」
リリはアレイスターの召使いとして動いていたようだ。アレイスターにそう言われて戸惑っている。
「あとで説明するけど、リリには暫く冒険者パーティーの仲間として働いてもらうから、その間は対等な仲間として動いてくれ」
「かしこまりました」
リリはレミリアの横の席についた。
アレイスターが段取りしてリリの前にも食事が並ぶ。
しかし、ここでは話せることは限られている。
静かに食事を済ませたあと、打ち合わせのため全員アレイスターの部屋に集合することになった。
狭い個室に5人が集まってアレイスターの話を聞いている。リリが全員のお茶をいれてくれた。まずはリリに今回の目的を説明したのだが、リリはベオウルフが不死者であることに驚きを隠せないでいた。
次にアルミダの調査の話をした。
「我々が王都に到着する前にミドウがいろいろ画策していたように、バリアントを出た時点では教会側にこちらの動きを察知されている」
王都で起こったことは隠蔽されているので、レミリアが死の神の加護を受けており、教皇庁の即死術式が解明されていることと、それを知ってしまったミドウ達が殺されたことはまだ知り得ないだろう。
しかし、レミリア達がバリアントを出た時点で、王都と同じようにアルミダでもなんらかの準備をされていることは間違いない。断片的にでも王都の情報が入れば、警戒態勢も取られるはずだ。
「だから、アルミダにはこっそり侵入し、まず教会を押さえる」
「奴隷商を押さえるんじゃないのか?」
「奴隷商会もたくさんあるから、調査するだけ時間がもったいないよ。陛下に手荒にやっていいと言われてるから、神殿長を捕らえて僕が記憶を覗く」
「え!? そんな魔術があるんですか?」
「禁術だけどね。拷問にかけるよりは人道的だし、こちらも精神的に疲弊しなくて済むから」
記憶を覗く魔術は光の神フォルセティの根源を借りて使用する。
反逆罪などの重罪の容疑者に対して、冤罪を防ぐだけでなく、背後関係を明らかにするなど、本人を処刑するより重要なことがある場合に主に使用される。
口封じや自害して死んでしまった者にも一応は使えるが、生きている相手の方が情報を探りやすい。
光の魔術なので、座天使の加護しか持たないレミリアには使えない。
アレイスターも人を効果的に痛めつけて情報を引き出す知識を持っていなくもないのだが、別の効率的な方法があるのにわざわざ非人道的な手法を取るのは、人が苦しむのを見るのが好きな嗜好の者だけだろう。
「まあまた近づいたら実際の潜入方法については指示するよ。闇夜に紛れて動くからね」
それから、このパーティーの役割分担についての説明が行われた。
「ベオウルフは盾役だね。なるべく全面に立って敵を引き付けて欲しい。特にレミリアを護衛してあげて欲しい。君の望む役割だろ?」
「ああ。レミリアには指一本触れさせない」
ベオウルフはレミリアをギルベルトの大剣から身を挺して守ってくれた。信頼できるし、何よりベオウルフにそう言ってもらえるのは嬉しかった。
思わずベオウルフを見上げると見つめ合う形になり、身体がぽかぽかする。
「ああ、うん、先に進むね。リリは遊撃して敵を減らしてくれ。魔法を封じる敵がいたら指示するから、真っ先に消して欲しい」
「かしこまりました」
リリが頷く。リリとしてはアレイスターを側で護衛したいが、そこまでしなくても自分でなんとかする人だった。
「レミリアは後方からオルトロスとベオウルフの管理をしながら、狙撃手として敵を減らしてくれたらいいよ。無属性は僕が指示するまでは温存しておいてね」
「もう少し闇の攻撃魔法を増やしたいですけど。私、『闇撃』しか使えないし」
「そうだねえ。また落ち着いたら考えようか」
最後にクリスだ。
「クリスは天使による攻撃、レミリアの護衛、パーティーの回復と、いろいろこなしてもらわないといけない。大変だけど頑張ってね」
「天使は勝手に動くので、そんなに大変でもないですよ。頑張りますね」
「僕はリリのサポートと、一応レミリアに気を配っておくね。君はフィジカル面は心配だから」
レミリアは魔力量は多いが、体力や頑丈さにおいては少し心許ないのだ。
「座天使様の加護があるから、回避だけは頑張ります……」
「魔力残量には気をつけてね。じゃあ、今日はこんなとこかな。明晩にはアルミダに奇襲をかけるからよろしくね」