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死の魔術

「エレオノーレの事件は……もう事件と言わせてもらうけど、実行犯はともかく、裏で糸を引いている者は同じはずだよ」


故人との直接交渉で持ち込まれた奴隷と死体の状態。

傷ひとつない、命だけ抜き取られたような死体は、それだけで同一の手口であるという証拠だろう。


「ニックを追えばエレオノーレの仇がわかるのか。これを逃す手はない。流石だなアレイスター」

「まだ確証はないけど、エレオノーレは僕にとっても娘のようなものだからね」

「しかし、レミリアは生きているぞ。もしかしてお前も不死化しているのか? 一緒に気絶してしたよな」


ベオウルフがレミリアをつついてきた。やめてくださいと言いながらレミリアが距離を取る。


(なんだかベオウルフさま、距離詰めてきたな)


どういう心境か今ひとつわからない。エレオノーレの話になって寂しいのだろうか。


「レミリアは生身であることは僕が保証できるよ。レミリアが使役している者は等しく闇の魔力を内包しているのが見えるから。レミリアは縛られていない」

「だとしたら不思議だな。エレオノーレの時の子供が死んだのはたまたまなのか?」


奴隷に何かが仕掛けられて、それで奴隷ごと死に至らしめる罠だった場合、レミリアも死んでいたかもしれないと考えるて、レミリアはぞっとした。


「何の術が使われたか調べていたんだ。あの日、君たちがいた部屋には、魔術の痕跡は消えて残って無かったんだ。もちろん僕が見落とした可能性はあるけど。だから具体的な魔術はわからないんだけど、面白い文献を見つけたんだ」


アレイスターはアイテムボックスから本を一冊取り出した。


「これは50年程前に教皇庁のある司祭が書いた告発本だよ。教皇庁の教義が歪められていく様や、利益主義に走る教会を批判しているね。まあ確実に異端者認定されて消されたに違いないけど」

「そんな本が残っているんですか?また読んでみたいので貸していただきたいです」


クリスが関心を示した。異端者認定された同志の思想が気になるのか。


「フィーンフィルの王宮図書館の陳列されていない本の中に埋れていたよ。昔、面白そうな本を探していたら見つけたんだ」

「何の術が使われたかそれでわかるのか?」


アレイスターが本のページをめくって見せてくれた。


「このページの告発だね。教皇庁は異端査問官の補助として、魔族の奴隷の命を媒介とした即死術式を用意していたようなんだ」

「なんということを……」


処刑される魔族を見てエテメンアンキを飛び出したクリスは、元身内の在り方で怒りに身を震わせる。

レミリアも、自分がそんなことになっていたのかと恐怖した。


「効果は蘇生術の逆だから、組めない術ではないね。蘇生術は光の神の眷属神である、治療の神エイルに術者の命を捧げることで誰かの命を救うんだ」

「それ、権力者とかが誰かの命で使ったりできたりします?」

「教皇庁が試したらしいけど術が発動しないらしいよ。きっと光の神は慈悲深いんだろうね」


本当に教皇庁はどうしようもないなとレミリアは思った。


「でもね、奴隷に何か仕掛けをして、対象の命を奪う術式。僕が見た限り闇の魔導書には、それらしきものも、命を捧げるべき神も載っていないんだ」


闇の魔導書には自動的に新しい魔術も追記されていく。隠蔽されない限りは。


「過去に実際使われているなら存在する魔術なんだ。術者ではない者の命でも発現するんだから、力の根源になる神も大概なんだけど」


本当に載っていないのだろうか。


「うーん?」


レミリアは先日アレイスターが闇の魔導書を見せてくれた時に、目についたページがあった。あの時、頭に自然と情報が入ってきた。


「あの、アレイスターさん怒らないで聞いてほしいんですけど」

「おや、レミリアにしては珍しい言い回しだね。僕が君を怒ることなんてなかなかないよ。どんなことをやらかしたんだい」

「実は前に『シンクロ』のことで闇の魔導書を見せてもらった時なんですけど」


以前に『死の神』の記載があるページを見たと話す。どのページかわからないが。


「まさにそれっぽい二つ名なんだけど、そんなページあったかな」


アレイスターは闇の魔導書を取り出してページをめくっている。


「しかし君は油断ならないね。前にも言ったけど、禁術が普通に載っているから危ないんだよこれは」


周囲への汚染度が高すぎたり、代償が村ひとつ分の命だとか大き過ぎたり、制御できない強大な魔物を呼び出したり、力を貸してくれた悪しき神や精霊に魅了されてしまうような術は禁止されている。

別に誰に怒られるわけでもないが。逆に使いこなせば有用な術ということだ。


「あ、そこです」


レミリアに魔法陣と文字が見えたので指差した。


「どこだい? そこは()()なんだけど」

「えっ? 書いてるじゃないですか『死の神ヘラ』って」


その瞬間、レミリアに見えていた本の魔法陣から暗闇が立ち昇る。アレイスターは慌てて本を閉じようとする。


「本が閉じない! どういうことだ!」


暗闇はどんどん立ち昇り、本の上で溜まってゆく。


「全員、僕の周りに集まるんだ!」


レミリア、ベオウルフ、クリスが揃うと、アレイスターは胸元から濃緑色に輝く8面体の宝石を掲げた。


アイギス(最強の盾)


4人にきらめく光が降り注ぐ。


アイギスは光の神の眷属神アテーナーの力を根源とする、ありとあらゆる事象から使用者を守る最強の盾だ。無属性でも貫通することはできないし、バッドステータスやデバフも受け付けない。アレイスターは試したことはないが即死も防ぐ。


魔術の行使には何かが必要だが、賢者の石を物質化した「エリキシル剤」という石で代替した。賢者の石を使わなくて良い日に作り、溜めているものだ。

古の賢者から伝わるレシピである。


そうしている間に、暗闇はヒトの形を形成し、全員にはっきりとわかる形になった。

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