八十三話 番犬、幹部の試練を知る
魔王「……お、やべっ。よう。今日は俺だ。少し悩んでいてな……まあ、本編を見ていってくれ」
「…………………………幹部の試練はな」
長く言葉を考えてから魔王が口を開く。いや、単にいい悩んでいただけか。
「幹部の試練はな、……これがいやなんだが」
「あなた」
「わかってるとも、カミラ。……俺が出すんだよ、試練と、試練のための舞台を」
なるほど。魔王が作ってくれるのか。
『なんだ、自分の創ったもので俺が傷つくのが嫌なのか。優しいじゃないか』
「煽ってるねぇ……しかもやけに嬉しそうじゃないか」
そんなわけないだろう。俺はただ、魔王の優しさに感服して無事にまたのんびり暮らせると思っただけで。
「だが、まあ……」
顎に手を当てうんうんと唸る魔王。その肩をカミラがぽんぽんと叩く。
「……あなた。なんのためか思い出してくださいな」
「…………そうだな」
よし、と自分に喝を入れるように息を吐く魔王と微笑むカミラ。その二人の視線が俺に向けられる。
「ケルベロス。受けてくれるか?」
……この馬鹿魔王は、まだ選択を俺に託すか。
そりゃあもちろん、やりたくはない。今まではやむなしと指示に従っていた。だが、本来俺はただ橋の前で静かに眠る存在。
仕事は別に好きではない。
『……受けるよ』
だがここで断るほど俺のカミラと魔王への愛情は薄っぺらくない。
この二人がやってくれと、そう問いかけるのならば、やると答えるのが恩義であり家族だ。
「何よ。さっきまでいろいろ考えてたくせに」
『うっ。……アイーダ。確信をつくのはやめてくれ』
「適当に言っただけよ」
悪戯っぽく微笑んで、アイーダが俺の元にてくてくとやってくる。そして、俺に抱きついて囁いた。
「……気をつけてね。頑張って。結構大変よ?」
『やる気がなくなるなぁ』
少し後悔してしまいそうだ。
『やるだけやってみるさ』
「うん。そうしてね。あともうちょっとあたしのとこ来てもいいのよ?」
あー……。
『最近はずっと寝てたな。今度遊びに行くよ』
「やった!」
「ボクの薬も試して欲しいね」
『それは遠慮する』
そう即答すると、パリスが不満げに唇を尖らせた。
「……不安だな。なあカミラ。少し難易度下げていいか?」
「いいですよ。私が手伝ってあげます」
「悪いケルベロス。難易度上がった」
『ん? なんだって?』
呼ばれた気がするが、周りの喧騒のせいで聞き取れなかった。何を魔王とカミラは話していたんだ?
『じゃ、景気づけになんか奢ってくれよ、親父』
「よぉし! 皆の者!」
軽い気持ちで魔王に頼むと、突然高らかに声を上げた。その声は防音壁を貫通して、店の中を静まり返させる。
「よく聞け! このケルベロスが、幹部の試練を行うことになった! ……と、いうことで」
にやりと魔王が笑う。
「合格を願って! 飲め! 食え! 騒げ! 今日は我の奢りだあああぁぁぁ!」
その日の酒場は、過去一番の盛り上がりをみせた。
……俺も、頑張るとするか。
魔王「最後まで読んでくれてありがとう!どうだ? まあ、やらせてみようではないか! カミラの圧に負けてやろう!」
カミラ「何か?」
魔王「また次回!」




