七十八話 番犬、人間と出会う
魔王「よう。今回は俺だ。人間か……なかなか、複雑だな。それじゃ、本編だ。最後まで読んでいってくれよな」
二人の人間は対象的な見た目をしていた。
方や、ガタイの良すぎる筋肉マッチョな男。頭部に髪がないせいで老けて見えるが、恐らくはまだ若いだろう。
方や、骨ばった体で弱々しい見た目の男。顔はやつれそれを隠すように男ながらに長い髪が水の中に漂っている。
「……これ、呼吸は?」
「さあ? 知らないわよ」
魔王の問に、あっさりとした口調で恐ろしい答えを返すマリン。
まあ、人間に良いイメージはあるまい。
「ねぇっ! 殺していいの? むしろ殺したいんだけどっ!」
アクアも恐ろしいことを言うものだ。可愛く頬をふくらませてはいるが、目は本気そのもの。
「……いや、いい。そうだな、ここで話を聞くべきか……」
『城の方が安全なんじゃないか?』
「俺がいる場所はどこでも安全だから安心しろ、息子よ」
むう。珍しく格好いいことを言うではないか。
ならば、あとは親父に任せる他あるまい。
『どこで見つけたんだ?』
「なんかねぇ。海の上を走ってたのよぉ。すごい勢いで、大陸側から。能力かしらね」
なるほど。……しかし、アクアがいることは知っているだろうに。よくそんな蛮勇を振りかざしたものだ。
ここは『絶死海』と呼ばれる海。さらに、人間の住む大陸とは今では随分と離れているというのに。
と、水の中のやつれた方の男の目が、俺の目とあった。
『……俺がテレパシーで話してみるか?』
「あらぁ、いいじゃない、それ」
「そうだな……なら、頼むぞ、ケル」
まあ、そうそう口を割るとは思えないが……ものは試しだ。
俺はテレパシーでやつれた方の男に語りかける。
『やぁ、聞こえてるか』
「……」
返事がない。
『……俺のテレパシー、一方通行だったの忘れてた』
「役立たずっ!」
やめろアクア。普通に心に響く。
俺はしょんぼりと尻尾を落とす。役に立ちたかったのさ……。
「ま、仕方ない。俺が直接聞くとするか。マリン、解いてくれ」
「わかったわぁ」
あっさりマリンが了承すると、右手でパチンと指を鳴らした。
すると、水の檻が重力を思い出したかのように崩壊する。
ーー瞬間、やつれた男が動いた。
「くらいやが」
「《縛》」
魔王が呟くと同時、二人の男は落下途中の不格好な姿勢のまま空中に縛られた。
……まあ、そうなるだろう。だが少しヒヤリとした。
やつれた男の背中から、蜘蛛の足のような突起物が飛び出ていた。それは、おそらくあと二秒もあれば魔王に突き刺さっていただろう。
しかし、そんなやわではないのだ。ラスボスというのは。
「よう。俺がお前らが話に聞いているであろう魔王だ」
魔王が男に歩み寄り、にやりと笑みを浮かべる。
「久しぶりに見たぞ、人間。……あれだけ懲らしめてやったというのに、まだ諦めんのかね、そっちの王は」
若干の苛立ちを孕んだその言葉は、過去に魔王が見たであろう戦争の重みを感じさせる。
「さあ、話を聞こうじゃないか」
魔王がやつれた男の額に人差し指で触れる。糸が切れた人形のように、男は砂浜に受身も取れずに落ちる。
「……ふー。やーっと口が動かせるよ」
「そりゃあ、そこまで俺が解除してやってんだからな」
やつれた男は、飄々とした態度で余裕ぶった口調で口を動かす。
「それで? わたくしどもにどんな情報をお望みかな?」
目は虚ろで何を写しているかわかったものではない。しかし、その口角は自然と上がっている。
薄気味悪い。俺は素直にそう思う。
「よくもまぁ、そんな口調で話せるわねぇ」
マリンが冷笑を浮かべ、挑発的に言う。
「元々道化師なんですねぇ。そりゃこんな口調にもなりますよ」
なるほど確かに納得だ。その気味悪い貼り付けた笑みは道化師の専売特許だろう。
俺は嫌悪感をあらわに喉を鳴らす。
「……それで、そっちの王はなんと言っているんだ」
「さぁ。特に何も。ただ、わたくしたちのような人々を集めて、大きな戦を起こすようでございますよ?」
大きな戦……。
『……ルーケルとダイアにいてもらうべきだったか』
「でもでもっ! これはイレギュラーだから仕方ないと思うの!」
それもそうなのだがな。……たらればも良くないか。またいつか会った時に聞こうではないか。
「戦……か」
魔王が意味ありげに呟く。
かと思えば、その表情が怒りで染まった。
「貴様ら有象無象が集まったところでなんにもならんというのに」
「有象無象に見えるか? ーーツヨシ!」
突然やつれた男が誰かの名を呼ぶ。それに反応して、背後で宙に縛られたままだった、ガタイのいい男が動いた。
まさか、魔王の能力を抜けることができるのか?
男が身をよじれば、何かが断ち切られる音とともに、でかい図体が落下する。ーーやつれた男の上に。
「ぐっ! ……痛いねぇ! でもそれが充分さ!」
やつれた男が、見えない緊縛から解き放たれた。
そして、立ち上がってやつれた男が両手を広げた。
「もちろんわたくしどもはただの人間! しかし! そこらの有象無象と一緒にされては困る! わたしの名はサトル!」
「おらはツヨシだぁ!」
「マトイを超える力をお見せしよう!」
高らかにそう名を上げたのだった。
魔王「最後まで読んでくれてありがとう。どうだったか? ま、俺も人間に良いイメージはないからな……。詳しくは番外編をよろしくな。それじゃ、次回もよろしく!」




