五十五話 番犬。永炎を去る
ファイア「よう! 今日はわいやで! なんか、もうファイア編が終わるらしいんやが、早すぎんか? ま、本編見てってくれや!」
いやぁ。ついに終わったな、ファイアとの任務も。これで、あとは秋の陽気に当てられるだけ・・・・・・。
「オセロってなんだ?」
な、わけがない。
「・・・・・・お、おう。ほんまに二日連でくると思わんかったわ・・・・・・」
「来るとも。遊び面白かったし」
何気にハマってしまったのだ。面白い。単純に言って面白い。もっと広まれよ。
というわけで、俺は今ちゃん秋の陽気ではなくファイアの炎に当たりながら遊びをしている。
そういえば、軽い報告をした時にアイーダが
『遊びってダサいわね。ゲームって呼びなさいよ』
と、言っていたから今からゲームと呼ぶことにする。ちなみにダサいの意味はわからない。
人間界の知識って多彩なんだな・・・・・・。
「おい、聞いとるか?」
「ん? ああ。ちょっとボーッとしてた」
「なんやねん。じゃあ説明もっかいするからな」
ファイアが至って真面目にオセロの説明をしてくれる。
最近気づいたことだが、ゲームっていうのはボード系が多いらしい。・・・・・・違うかな?
とりあえずルール説明も終わったので一戦。
「「よろしくお願いします」」
ーー ーー ーー ーー ーー
二時間後。
「だー! マジか?! わいが負けるんか?! なあグレン!」
「し、知らないっすよ! というかケルベロの成長が早すぎるんすよ?!」
「そうか?」
なぜファイアがこんな動揺しているかというとだな。俺が勝ったのだ。ーーまあ、それは会話から読み取れるか。
まあ、そしたらこの状況だ。
・・・・・・勝った実感あんまり無いが。
「くそおおおおぉぉぉ!」
「口が強いっすよ。ファイア」
「知らねえ! このわいがたかだか初めて数時間の犬っころに負けるなんぞ認めねえ!」
だって、すごい荒れてるんだから・・・・・・。
いや、これじゃ勝った気にはなれないだろう? 本当に気まずい・・・・・・。
「じゃあ次はショウギだ! いいな、チェスと似てるからな!」
「おい待て。チェスと似てるようなゲームに俺が勝てるわけ」
「黙れい! 説明!」
またさらに一時間後。
「おらあああ!」
「だから勝てないって言ったのに・・・・・・」
「大人げないっすねぇ・・・・・・」
チェスであんなに惨敗したのに、勝てるわけがない!
ショウギのボード状は、なんと見るも無惨に王が成金やら竜やらで囲まれていた。しかも、俺の駒は王以外無し。完璧なる完敗・・・・・・。
二重表現でしか表せないこの悲惨さよ。だってこいつひどいんだぜ? 延々と飛車と角行だけで虐めてくるんだ・・・・・・。
「へっへっへ。なんだ? 悔しいか?」
「悔しいに決まってるだろう」
「それにしては冷淡な口調じゃないか」
そりゃあ、あんなに初心者に対して本気出されたらあきれて口調も考えられんわ。
「じゃ、次はイゴでもやろうじゃないか」
「・・・・・・いいだろう」
なんかわからんが、やる気が出た。
ふっふっふ・・・・・・今に見ていろよ、五大凶王!
一時間後。
「ああああああ畜生ううううううう!」
そう嘆くのは――
「はっ。わいに勝とうなんて百万年早いわ!」
俺だった。
くそ、白と黒の駒のなら勝てると思ったのに・・・・・・と、思ったがチェスが白黒だったな。結局オセロでしか勝てないわけだ。
「ま、一個認めてやるわい。オセロはお前恐ろしいほどに強いな!」
「そうか?」
「まあそれ以外はカスやけどな!」
けっけっけと笑うファイア。
こんなんが凶王でいいのか? なんかすごい神経を逆なでするのが得意な凶王様だが。
俺のそういう感情が察知できたのか、ファイアはまたにやりと笑って言う。
「オセロだけは強いって言うたやろ? だからそんなむくれることないねん!」
「ある。大ありだ」
自分で言うのもなんだが、かなり俺は負けず嫌いだ。この前のデイジーの時を見て貰えばわかると思うがな。だから、悔しくて仕方が無い。
「ふーん。ま、ええよ。じゃあ勝ったから一個お願い聞いてや!」
「・・・・・・なんだ」
ふてくされたまま、俺は顔を見ずに尋ねる。
勝ったからって・・・・・・そんなの事前に聞いていない。が、まあ負けたのだし、どうせ勝てないのだし・・・・・・。
「じゃ、一回その自慢の毛並みをもふらせてや!」
・・・・・・・・・・・・。
「ここで?」
「ここでや!」
「ちょっとそれは遠慮願いたい」
「えー!」
えーって言われても・・・・・・ここじゃ暑すぎて、あんなもふもふの犬になんぞなったらたまったもんじゃない。それに、そもそも毛は切ってあるし・・・・・・。
・・・・・・いや、俺毛が生えるの早いんだ。もう元通りじゃないか。
「・・・・・・はぁ。わかったよ。じゃあ魔方陣の近くで一瞬だけな」
「おっしゃ! よろしく!」
「あ、俺もいいっすか?」
「空気もこい」
「空気?!」
いやだってグレン。お前・・・・・・今回ほとんど喋ってないし、俺らがいるときもなんも喋らないし・・・・・・な? 仕方のないことなんだよ。
というわけで、俺たちはぞろぞろと洞窟を出て帰還用の魔方陣へ向かう。
・・・・・・この暑さに耐えれるかな?
若干不安は残るが、とりあえずやってみるか。
「じゃあ、行くぞ」
俺は来ている衣服を丁寧に脱いでたたんで、そして人化を解く。
「ほー。そんな風に戻るんか」
『ああ。地味だろ? とりあえず暑いからさっさともふってくれ』
俺は首筋をさらけ出す。
そこに、ファイアが炎の体をぽすっと埋める。
「ほへ~。こんな感じなんやなぁ~・・・・・・」
そう感想をこぼしたっきり、ファイアが喋らなくなる。
それにしても、やはり想像通り。ここは暑い。・・・・・・うん。まあ耐えられないほどではないが、結構暑い。三十分ぐらいが限界だ。しかも若干ファイアも暑いし。
『ほら、空気』
「く、空気って呼ぶのやめてもらっていいっすか!? じゃ、じゃあ」
おずおずとグレンも俺の毛並みに顔をうずめる。
二人の体の感触がくすぐったい。
「・・・・・・気持ちいいっす」
『そうか』
しばらく俺たちはそうしていた。
・・・・・・かったが、そろそろもう限界だ。
『・・・・・・そろそろ暑いんだが』
「んあ? まだもうちょいいいやろ~?」
『ほ、本当にキツいんだ』
すごいキツい。かなりキツい。そして俺の自慢の毛並みが汗まみれでベタベタになってしまったから、もふもふさせるのもあまりおすすめできないからな。
『じゃ、帰るな』
「おーう。ありがとな。ほれ空気。起きぃ」
「く、空気って呼ばないでくださいって言ってるッすよ?! はぁ。仕方ないっすね」
渋々といった表情で俺から離れる二人。
そして、俺も自分の衣服を口にくわえて向かい合う。
『じゃあな。調査頑張れよ』
「当たり前っすよ。ケルベロスこそ!」
「じゃあな! またわいとゲームしに来るんやぞ!」
俺は魔方陣の光にのまれていった。
ファイア「最後まで読んでくれてありがとな! どやった? ま、なんもないのが一番やなぁ。じゃ、次回もよろしくやで!」




