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四十二話 五大凶王《アイス》

魔王「よう!久しぶりだな!ケルベロスの親父だ!よかったら本編、見ていってくれ」

 魔法陣に吸い込まれ消えていったダイアと男。

 魔法の効果が切れたのか、キラキラと消滅する植物たち。

 俺はそれに背を向けて元きた洞窟をかける。

 立ち塞がる魔物達。


『邪魔だ!』

「ワオオォォォン!」


 氷柱が落下するのもお構い無しに俺は威嚇する。すると、魔物達もいつしか俺の前に姿を表さなくなった。

 何本か氷柱が刺さったが関係ない。

 俺は洞窟を出てすぐに嗅覚を駆使してシクルを探す。そして・・・・・・。


『見つけた・・・・・・!』


 だが、相当遠いし、雪で匂いも消されていく。

 これは・・・・・・時間との戦いになりそうだ。

 そう思うや否や、俺は両足に強化をかけて全力で走る。

 足場の安定しない雪の中を漆黒の犬が駆ける様は、傍から見ればさぞ幻想的なことだろう。

 しかし、そうも言っていられないのが現実。


『よりにもよって大吹雪・・・・・・!』


 俺は毛を巨大化させて寒さを凌ぎつつ、だが目と鼻だけは露出させて走る。

 守られていない目は開いていると凍りそうで。

 守られていない鼻の中に入る空気は肺を凍らせそうで。


 だから、目を一瞬開けて記憶して目を閉じる。

 だから、空気を大きく吸って、息を止めて走る。


 ーーこれが、零雪原の本当の脅威かと、恐怖で心も凍ってしまいそうで。


 だが、その度にあの男達の声が頭をよぎる。


『救えるのはお前だけだ』


 なぜ俺だけなのだ? 他のやつが解決できるかもしれんだろう。

 どうやって未来から来た? 時を超えるような魔法はまだ開発されていないじゃないか。


 尽きない疑問。凍える身体。今にもパニックになりそうな恐怖の中。


 ーー視界の端に、見つけた。


『ーー! シクル!』


 それは、紛れもないシクルの姿。

 よかった。まだ出会っていないようだから、早くおさらばさせてもら


『誰じゃ? うぬは』


 不意に脳内に響く声。

 それもーーただただ冷たい、声だけで生物を凍死できるような冷たい声。

 俺は足を止めた。


「け、ケルベロス殿?! ど、どうしてこんなところに」

『シクル! 早く帰るぞ!』


 その冷たい声がただ怖くて、俺はそうシクルに呼び掛けーー


『余を差し置いて何を言っているのじゃ?』


 シクルの隣で、吹雪に紛れて輝く水晶に気づいた。

 この吹雪の中で、雪の一つも被っていない青みがかった透明な正八面体のクリスタル。

 この声もそのクリスタルから発せられているようだ。

 そして、もう一つわかったことがある。


『・・・・・・《アイス》様か』

『おや。ものわかりがええのぅ』


 女性のような声のそのクリスタルは、五大凶王が一人、《アイス》。

 それだけで、あのサンドの時とは違う威圧感に押しつぶされそうになる。

 母親に責められているような感覚だ。


『・・・・・・シクルをどうするつもりだ?』


 俺は率直にそう尋ねる。対して、俺が心配しているシクルはただ驚いた顔をするばかり。


『別に、どうともせぬよ。余は余と同じ力を持つものに引かれただけじゃ』


 この吹雪の中、コートの一つも羽織らないシクルを横目に、俺は考える。

 《アイス》がどう行動するかを。

 だが、俺にもあまり時間はない。この吹雪の中を毛皮で凌ぐのは、もう不可能だ。

 だから、俺にも死へのカウントダウンが始まることになる。


「ケルベロス殿! こ、このアイス様は、悪い奴ではない! だ、だから心配しなくても」

『いいや、無理だ』


 俺はシクルにそう言って《サンド》の時を思い出す。

 あの時、《サンド》はアレッタに寄生するような形で体を借りていた。

 だから、万が一この《アイス》にも同じような能力があったら・・・・・・まずい。


『その心配は杞憂じゃな』


 俺の考えを見透かしたかのように、《アイス》がそう俺を見る。・・・・・・いや、正確には見られたような気がした。


『いいや。見ず知らずの相手に絶対はないだろう?』

『ほう。凶王と呼ばれる余に随分な言葉遣いではないか。気をつけい』


 圧倒的重圧と威厳。

 これがーー《アイス》。《零雪原》を統べるもの。

 俺が警戒の色を強める中。言葉を発したのは《アイス》。


『・・・・・・はあ。興が冷めた。もうよい。さらばじゃシクルよ』

「へっ?! え、うあ、さ、さようなら!」


 そう言ってたったったとシクルがこっちに駆け寄ってくる。


『何も無かったのか?』

「ああ。少し雑談をだな・・・・・・」


 本当になんともなさそうなシクルを見て、俺も本当に杞憂ではなかったのかと心配になる。


『・・・・・・すまないが、俺はあんたを信頼できないようだ』

『そうか。それは当然の思考じゃな。別に良いぞ』


 俺は《アイス》に背を向けて帰る。だが、最後にほんの、犬の聴覚でも聞き取りにくいぐらいの音で。


『チッ』


 そう舌打ちが聞こえた気がした。

魔王「最後まで読んでくれてありがとう。どうだった? まったく。俺がいない間に大変なことになってるじゃないか・・・・・・。ま、ここは息子の成長を楽しむとしよう。あ、評価とかもよろしく!」

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