四十話 急展開
シクル「や、やあ。久しぶりにまた前書き・・・・・・。まあ、よ、よかったら本編を見ていってくれ」
「・・・・・・これがその問題の雪山か」
俺は目の前にそびえ立つ険しい山を眺める。
突然出現したというそれは、吹雪で身を隠し、だが雪の剥がれたところでは尖った岩肌の見える、それはそれは凶悪な山だ。
それに、高さもあるというのだから、なぜこんなものが出現したのか疑問を持つのも当然だな。
「で、その洞窟ってのはどこにあるんだ?」
「あ、ああ。案内しよう」
俺はシクルに案内されて雪山の麓を歩く。ふかふかとした雪の絨毯が足を絡め取り、動きにくいことこの上ない。
しかし、あの魔王街では見られない不思議な光景なので、飽きはしないが。
そんなことを考えながら歩いていると、ぽっかりと不自然なほどに空いた洞窟が見えた。
「これだ」
「・・・・・・これか」
そう答えながら、俺はどこかその洞窟を見たことがある気がしたが・・・・・・。
まあ、そんなことは無いか。洞窟だしな。少しぐらい似たものがあってもおかしくない。
「中はどうなってるんだ?」
「天井には氷柱ができている。あまり激しい戦いはできない。それと、ところどころ地面が凍っていて滑る安いが、中の魔物どもはそれに完全に適応しているのだ」
「つまり、完全なるアウェーってことだな」
だが、それは当然のことだろう。
――先住民が襲撃者よりも劣ることはありえないのだから。
「じゃ、行くか。俺とお前だけなんだな?」
「ああ。他のみんなには危険だから、連れて行けない」
「それぐらい危険、と」
俺が見た限りでは、なかなかの手練れらしき強者も何名か見えたが、そいつらでも刃が立たないのだろうか。
・・・・・・戦闘なんぞ、久しぶりにする。マトイと戦いとも言えない戦いをしたぐらいか。
「じゃあ、行くぞ」
「ああ、行こう」
―― ―― ―― ―― ――
洞窟の中は、風と雪がない分まだ暖かかった。――ほんの少しだけ。
周りは、素肌で触れれば肌がひっついてしまうだろう、氷よりも冷たい岩に、足をすくう凍った地面。天井には所狭しと並ぶ鋭利な氷柱。
そして何より・・・・・・。
「早速見つけた。この先に三体。《イエティ》だっけか? が、いる」
「ありがとう。では、私がやろう」
この氷柱の落下と岩、凍った地面をものともしない先住民。
身を守る毛皮は寒さと氷柱から身を守り、足の裏までびっしりと生えた剛毛は滑り止めの役割を果たす。
そんな敵に、シクルの氷魔法など通用するのか?
答えはすぐに出る。
「《フリーズ》」
答えは――通用するに決まってるではないか。
シクルに意思を持たされた魔力たちは、団結し、一筋の水色の光線へと姿を変える。それが、少し離れたイエティめがけ直進し――
当たった場所から、毛皮ごと凍り付いていくのだ。
「ブファ?! ッボボボ!」
低い深いな悲鳴をあげて、一体が凍り付く。それに動揺する他二体。だが、シクルがそれを見逃さないはずがない。
あっという間に三体の氷の彫像の完成だ。
「相変わらず手際がいいな。それを魔王との会話に持って行ったらどうだ?」
「か、会話と戦闘は話が別だ! そ、そもそも、なぜ私が幹部になどなってしまったのか・・・・・・」
そりゃ、あんだけやる気満々で、しかもあんだけ目立てば一発合格も当然だろうさ。
――あの魔王相手に膝をつかせたのだから。
この魔法も、シクルの力のほんのひとかけら。
と、俺は新たな敵の登場を察知する。
「シクル。あいつはなんだ?」
そう俺が指さす先にいるのは、氷で作った人形を動かしただけのような大きなゴーレム。
「ああ、あれは《アイスゴーレム》だ。実は、ケルベロス殿を連れてきた理由があれでな。あれには私の氷魔法が全く通じない」
「まじか。つまり、対氷魔法特攻ゴーレムっつーとこか」
まあ、見た目からしてそもそも氷なのにどう凍らせるのかって話だもんな。
じゃ、俺の出番ということで。
「《巨大化》、《強化》」
俺は、右手の手袋を外して右手に能力をかける。すると、みるみるうちに右手が巨大化。そして強化され、立派な武器の完成である。
「あまり衝撃は起こすんじゃないぞ」
「わかってる」
そう短く答えて――俺は拳をゴーレムに突き出した。
瞬間。ゴーレムは吹き飛ばされる隙もなく――粉砕される。
「こうすれば最小限の衝撃で抑えられるだろう?」
そう威勢よく言い切るどや顔の俺に、シクルは。
「・・・・・・やはり、ケルベロス殿はすごいな」
そう笑ったのだった。
・・・・・・ん? 俺ってシクルに戦闘を見せたことは・・・・・・。
「じゃあ、先に進もう。私たちなら問題なさそうだ」
「・・・・・・ま、そうだな」
そう言った通り、洞窟の探索は何事もなく進んだ。
イエティはシクルが凍りづけに、アイスゴーレムは俺が粉砕する。ただそれだけの作業。
だが、なかなかに長かった洞窟にも終わりはある。
「・・・・・・これは」
先ほどまでの一本道から打って変わって、大きな広間のような空間へと出る。
そこは、まるで雪山の中心をくりぬいたかのように天井がなく。吹き抜けの一階建ての雪山の中心にあるものに余計目をいかせる。
「・・・・・・あの魔方陣」
俺は目を疑った。
ぽつんと、なんの装飾もなく置かれた魔方陣。それは、前に見ただろう。
「――気づいたか」
俺はばっと顔を上げる。
その声は、すぐ真横で聞こえた。
俺は大きく飛び退いて、その声の主から距離をとる。
「・・・・・・誰だ」
俺は一度心を落ち着かせて――
シクルと並ぶ、黒いローブに身を隠した男に尋ねた。
シクル「さ、最後までお読みいただきありがとう。どうだった? ようやくこの作品も四十話・・・・・・。こんなキリのいい数字に、私が出てもいいのだろうか・・・・・・? あ、よければ評価などよろしく頼む。ではな」




