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三十一話 買い物タイム

ケルベロス「なんだか久しぶりだな。気のせいか? まあ、本編だ」

「ねえ。これ可愛くないかしら?」

「そうだな」

「このぬいぐるみ可愛くない?」

「そうだな」

「・・・・・・どうしたの?」

「いや、どうもしてないが・・・・・・。元犬に可愛いの定義はわからんからな」

「あ、確かに」

 アイーダが手に持っていた、妖精の人形を元の場所に戻す。

 忘れてるかもしれないが、俺は犬だ。しかも男だ。さすがに可愛いものについては全くわからん。

「あと、なんだ・・・・・・。よく買うな」

「当たり前じゃない。普段はゴーレム連れてくるんだけどね。今日は折角だし」

 折角でこれか・・・・・・。

 俺は、両腕にぶら下がった大量の袋をゆさゆさと揺らす。

「ま、ニンゲンの友達のお土産も入ってるのよ」

「それは大丈夫なのか? ばれないのか?」

「大丈夫よ。だって、『電気』が発達した方の世界の友達だもの。そこの子なら平気」

 なるほどなぁ。ま、こいつがいいと言うのならいいか。

「じゃ、まだまだ行くわよ!」

「ま、まだあるのか?」

「当たり前じゃない。だって楽しいんですもん」

 当たり前のように次の店を探し始めるアイーダ。

「・・・・・・というか、アイーダ。俺、お前の金渡してないんだが、どうやって払ってるんだ?」

 そう俺が言うと、アイーダが体の動きを止める。

「・・・・・・魔王の娘の特権じゃあないぞ」

「わ、わかってるわよ! あ、あとで払いに行くの! ・・・・・・い、行くわよ!」

 こんな一面は見たくなかったなぁ。そう思いながら、俺はアイーダの後についていった。


 そして、さらに時間が経つ。

「次は・・・・・・」

「アイーダ」

「どうしようかしら・・・・・・」

「アイーダ」

「ん? 何? どうしたの?」

「そろそろ一回置きに行かないか?」

「なんで?」

「いやな・・・・・・」

 俺は、両腕を見る。

「これ大分迷惑かかるからさ・・・・・・」

「そうかしら?」

 いや、そうかしらじゃないぞ。巨大化で腕の長さだけ伸ばして、強化で重みに耐えてやっとだぞ。これ。それに、道の三分の一ぐらいとってるし。迷惑極まりないぞ。

 と、駆けてくる三人の子供が見える。

「わー! 何これー! 長ーい!」

 ・・・・・・。

「それー!」

「おい。小僧ども。俺の腕で遊ぶんじゃねえよ」

 だが、そんな俺の言葉も聞かずに、子供たちが俺の腕で遊び始める。

「・・・・・・アイーダ。早く帰ろうな? これはキツいぞ?」

「そうね。じゃあ、外で遊んであげてね?」

「いや、待て、俺は子供が苦手なんだ。やめてくれ」

 犬の状態ならまだしも、人の状態で子供と遊ぶとか、若干ホラーなんだが。

「そう言って、前は子供たちと遊んだんでしょ?」

「あれは犬。これは人だ。・・・・・・ほ、本当は苦手なんだ」

「ふーん」

 そう言って、ニヤニヤとこちらを見てくるアイーダ。

「・・・・・・ほんとだぞ?」

「へー」

 くっ。あらぬ誤解を与えてしまった。子供は嫌いなのだ。・・・・・・多分。

「まっ。あんたがそう言うならいいわ。そこの子供たちー。遊んじゃだめよー」

「はーい!」

 と、三人の子供が散っていく。

「・・・・・・なんでお前のときだけこんなに物わかりがいいんだ」

「さあ? 不思議ね」

 子供というのは不思議なものだな。

「じゃあ、一回帰りましょうか」

「賛成だ。・・・・・・正直、疲れたな」

「女の子との買い物なんて、こんなもんよ」

「・・・・・・そうか」

 女の子・・・・・・。アイーダとの買い物、か。

「なに? そんなぼーっとして」

「ん? いや、別になんでもないぞ?」

 俺は疲れるとぼーっとする癖があるからな、それだろう。

「じゃ、行くわよ」

「ああ」

 そう言われて、俺たちは人混みをかき分けて進む。・・・・・・避けてもらうの方が正しいが。

「・・・・・・よくよく見たら、今のあなたの状況大分気持ち悪いわね」

「あ、今気づいたのか?」

 だろうとは思っていたけど、やっぱそうだよな。だって腕が異様に長いんだもん。手長族もびっくりだわ。

「まあ、そうじゃなとその量は持てないものね・・・・・・」

「誰だよこんなに魔王の娘特権で買い物してきたやつ」

「あ、あはは・・・・・・」

 苦笑いを浮かべるアイーダ。

 いや、あははじゃないんだよなぁ。なんで金を持ってきてないんだか・・・・・・。

「そ、そういえば、人型になってどうなの?」

「ん? 人型になってか?」

「そうそう」

 まあ、いろいろとありすぎて、どれから言えばいいのかはわからないが・・・・・・。

「まあ、発見だらけだな。俺今までずっと犬として生きてきたからか、なかなか理解しずらいものもあった。だが、それを含めて大分楽しかったよ」

 そこで間を空ける。


「お前との時間も。な」


 これは本心だ。全て。未体験が多すぎて、もう疲れてしまったぐらいには楽しかった。

「そ、そうなのね・・・・・・」

 なぜかほんのりとほおを赤くするアイーダのあとに、俺はついていった。



 夕日の赤く輝くころ。俺たちは城に帰ってきた。

「今日はありがとね。楽しかったわ」

 アイーダが、風になびく髪を押さえながらそう言う。

「ああ、こちらこそ。いろいろと新鮮で楽しかった。・・・・・・で、この荷物はどうするんだ?」

 ゆっさゆっさと風を受けて揺れる荷物たちを差し出してそう尋ねる。

「えーっと・・・・・・。ま、まあ、お城の人たちがなんとかするわよ」

 完全に人任せじゃないか。・・・・・・はぁ。

「いいよ、折角だし、お前の部屋の近くまで運んでやる」

「いや、あんたのその横幅だと大分迷惑よ?」

 ・・・・・・それ言われたら終わりだよ。

「はあ、じゃあ、お前の言うとおり、城のやつらに任せるとするか」

「そうね。じゃあそこまではお願い」

 そうして、長い城までの橋を渡る。

「は~。いっぱい買ったわ。・・・・・・あっちに持って行くときもどうしようかしら?」

「何回かに分けて持って行けばいいんじゃないか?」

「そうね。そうするわ」

 買うのも大変。運ぶのも大変なのに、それを楽しむ。全く。女というのはよくわからん。

「帰ったらもう寝ようかしら・・・・・・」

「・・・・・・ちゃんと先に金は払いに行けよ?」

「わ、わかってるわよ。お、親みたいに何度も言わないで」

 余計なお世話だったかな。まあ、こいつ絶対に忘れてただろうし・・・・・・。

 そんなことを考えていると、門の前にいる小さな人影が目に入る。それは・・・・・・。


「やあ、お帰り。すごい荷物だね」


 ニヤニヤとこちらを見てくる、パリスの姿だった。

「あら、パリス。まだいたの?」

「ああ、ちょっと魔王と話すことがあってね」

「まさか、俺の薬の件じゃあないだろうな」

「それもあるけど、ほかにもいろいろとね。そんなに警戒しなくていいんだよ?」

 するに決まっている。あの親父に小型化の薬なんぞ渡されたら・・・・・・。あ、明日の朝が怖すぎる。

 あ、あとそういえば。

「なあ、パリス。俺が付けてた首飾り。知らないか?」

 それは、あの店で話したこと。

「首飾り? ああ、あれは僕の家に置いてあるよ。なんだい? 必要なのかい?」

「ああ、すごく大事なものだ」

「じゃあ、あとで僕についておいでよ。渡したいものもあるからね」

 渡したいもの? 一体何だろうか・・・・・・。

「あ、そうだわ。パリス。この荷物あなたの魔法であたしの部屋に送ってくれない?」

 と、アイーダパリスにお願いをする。

「なんだい。僕は便利屋かい?」

「最近はもう便利屋みたいなものよ? パリス。この前も薬を作ってきてくれたじゃない」

「そ、そうだったけ・・・・・・」

 なぜかショックを受けているパリス。アイーダよ、なかなか名案じゃないか。

「じゃあ、ここに置いておくぞ」

「うん。じゃあパリス。よろしくね」

「わかったよ。はあ、便利屋・・・・・・」

 渋々と言った表情で、パリスが荷物に手を向けると、淡く輝いて・・・・・・消えた。

「はい。完了だよ」

「ありがとうね」

 こうして頼まれたものはやるのだから、パリスもいい人である。・・・・・・俺の扱いはどうかと思うが。

「じゃあね。ケルベロス。今日は楽しかったわ」

「ああ、俺も楽しかったよ」


「・・・・・・また、今度行こうね」

「もちろん」


 そんな会話をして、アイーダが城の中へと消えていく。

 と、パリスがニヤニヤとこちらを見ている。

「・・・・・・なんだ」

「いやぁ。若い人っていいね」

「俺は三百歳だけどな」

「おっと、そうだった」

 むう・・・・・・。なんだか癪だが、まあいいか。俺は今機嫌がいい。

 ・・・・・・なんだか、変な感覚がしてきた。

「なあ、パリス。なんだか体がむずむずしてきた」

「ん? むずむず? ・・・・・・ああ、もしかしたらあれかもね」

 あ、あれ? あれとは一体・・・・・・。というか、体がかゆい、かゆすぎる。

「ぱ、パリス?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。平気だからなんか別のことを考えてな」

 別のこと? あ、アイーダと遊ぶのが楽しかったな。・・・・・・アイーダが、可愛かったな。

 いや! なんでそんなことを考えてるんだ俺! 俺は別に


「あ」


 俺の服が破れる音がした。

 ・・・・・・そういうことか。


「お帰り。番犬さん」

 もふもふの俺の毛並みが戻っていた。

『そうならそうだと言ってくれるか? じゃないと不安で仕方がないんだ』

 使い慣れたテレパシーを駆使して、パリスに訴えかける。

「まあ、どんな風になるのかが気になってね」

『そのくせ、メモなんてとってないじゃないか』

「あ、ばれた?」

 本当に見たいだけだったのかよ。相変わらず恐ろしいな。

「・・・・・・どうだった?」

『またそれか?』

「気になるじゃないか。・・・・・・あとで聞かせてくれよ」

『あとで?』

 なぜ今じゃないのだろう。だって、今でも別に・・・・・・。


「息子よー!」


 門から、興奮で息を荒くした魔王が出てきた。

「この薬を飲めー!」

『ぱ、パリス! 早く! て、転移魔法!』

「わかってるよ。じゃあね、魔王様」

「やめろー! パリスー!」

 なんつー親父(変態)だよ。あんなのが親父とか・・・・・・。

『またな』

「待ってくれー!」

 俺は、パリスとともに光にのまれて消えた。 

ケルベロス「最後まで読んでくれてありがとな。それにしても、ようやくパリスと離れられそうだ・・・・・・。ま、また次回もよろしくな」

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