二九話 出会う
カミラ「あら、今日は私なのかしら? 最近出番がなくて、私もさみしいわね・・・・・・。もしかしたら忘れられてるかもしれないわ。よかったら一話を見直しなさい。それでは、本編ですよ」
なんとなく見慣れた、いつもの魔王の間。
「・・・・・・そいつは誰だ? パリス」
「だから~。ケルベロスって言ってるじゃないか!」
何度も俺のことを説明しているパリスが、若干イライラしていた。
「いや、でも・・・・・・。あのもふもふのケルベロスが、こんなかわいくもなんともないただの小僧に・・・・・・」
「あー! もう! 少しぐらい信じてよ!」
ちなみに、俺がこの会話に加われば簡単に説明できてしまうが、面白いのでずっと見ている。
「ケルベロス! なんでさっきから黙ってるのさ! 少しは協力を・・・・・・」
「いや、パリスが悪戦苦闘しているのは見てて面白いからな」
「・・・・・・ほかにも薬はいっぱいあるんだよ」
「親父。俺がケルベロスだ」
ギロリと目を向けられて、俺は速攻で白状する。薬が怖かったわけじゃない。目が怖かったんだ。
「・・・・・・にわかには信じられんな」
「チッ。ほんと、早く信じてくれないかな」
おい。自分の上司を前に舌打ちなんてしていいのかよ。
「ほら、ケルベロス。ちゃんと証明して」
「おう。親父。俺この前あんたとピクニックに行っただろ? なんでピクニックが修行だったんだ?」
「・・・・・・ケルベロスか」
これでわかるんだな。・・・・・・いや、俺たちしか知らないし、わかるか。
「ふーん。折角ピクニックに行ったのに、修行だったんだ」
「いや、待てパリス。あれはいろいろとだな・・・・・・」
「正直、ちょっと楽しみにしてたんだぞ?」
「うっ・・・・・・。ま、また今度行こうな?」
今度か・・・・・・果たして、何時になるのだろうな。
「それにしても、これが本当にあのケルベロスか・・・・・・。やけに髪が長いな」
「俺の犬の時の毛は全部髪に行ったからな」
ちなみに、今は頭の後ろで一つで結んでいる。まあ、これでも肩まではあるんだがな。
と、魔王が俺の髪に手を伸ばす。
「おい。触るな」
「ええっ?! なんで?!」
「・・・・・・なんとなく」
なんとなく俺の本能が拒絶した。なぜだろう。普通に嫌だったのかもしれない。
「まあ、もふもふとはほど遠いからな。触んなくていいぞ」
「そ、そうだな。俺にもそんな性癖はないから・・・・・・」
嘘つけ。あんなに俺の毛をもふもふしてるのに・・・・・・。
「毛を触る性癖なんて、独特だね」
「ないから! パリス。勘違いしないでくれ」
・・・・・・絶対嘘だな。
「はあ、お前たちといると、やけに疲れるな。で? なんの用事だ?」
「あ、そういえば、忘れてた」
そう言いながら、パリスが胸ポケットから何かを取り出す。
俺を連れてきた本人であるパリスが忘れててどうすんだよ。
「はい。これが約束の薬だよ」
「おお。もう持ってきてくれたのか。ありがとうな」
そう言って、パリスが薬を魔王に渡す・・・・・・。
「ちょっと待て」
俺は制止をかける。
「どうしたんだい? 何か問題でも?」
「いや、問題も何もだな。あれか? その薬ってあれだろ。俺をちっちゃくするやつだろ」
「そうだけど?」
そうだけどじゃねえよ。何普通に魔王に渡してるんだよそれを。
「いやな? それをそいつに渡すのはどうかと思うんだ」
「だったらマトイに渡しておこっか?」
「それはもっと嫌だな」
パリスがにやにやと薬を見せびらかしながら俺を見てくる。
くっ。今すぐあの薬をたたき割ってやりたいところだが。あいつが何をしてくるかわかったもんじゃない。
なんとしてでもマトイにあの薬を渡してなるものか!
「・・・・・・じゃ、はい。魔王様」
「パリス。ありがとうな」
ああ、あの薬が魔王の手に・・・・・・。
「おい。魔王」
「何だ?」
「それ。俺に使ったら一生親父って呼んでやらねえからな」
「・・・・・・パリス。悪いが、この薬は返す」
やはり、この一言は大分辛いようだな。
魔王が悲しそうに薬をパリスに返す。
「・・・・・・姑息な手を使うね」
「俺が本当に嫌なのがわかるだろう?」
苦笑いのパリス。
いや、魔王が嫌いなわけではない。ただ、この薬を使われるのが嫌なのだ。
・・・・・・本当に。
と、入り口の大きな扉が勢いよく開けられる。
入ってきたのは、いつもと変わらない様子のアイーダ。
「パパ――! 今度の人間界に行く予定・・・・・・なんだけど・・・・・・」
そして、部屋の中央にいる、俺と目が合う・・・・・・。
ドキンッ。
心臓の音が直に聞こえるような感覚。
・・・・・・なんだ。この気持ちは。
それは、今まで番犬として過ごしていた時には感じなかった、不思議な感覚だった。
心臓が高鳴る。顔がほてる。まともに――――彼女の、アイーダの顔を見られない。
と、俺と同じくなぜかフリーズしていたアイーダが、我に返ったように魔王に視線を向ける。
「お、お父様。今度の人間界への予定なのですが・・・・・・」
「パパだってよ。かわいいじゃないか」
からかうようなパリス。
まあ、確かに、それは・・・・・・。
「・・・・・・まあいいわ。それよりも、この人は?」
パリスの口調のおかげか、いつもの調子に戻るアイーダ。
・・・・・・俺は、まだ戻れていないが。
「ああ、魔力感知が得意な王女様ならわかるんじゃないか?」
「してるわよ。でも、誰とも当てはまらないわ」
アイーダがそう言い放って、肩に掛かる髪を勢いよく後ろに払う。
「じゃあ、人じゃなくてもいい」
「人以外・・・・・・?」
アイーダがまた俺に意識を向ける。
・・・・・・そんなに見られると、心臓がもたないぞ?
「・・・・・・ケルベロス?」
「ご名答」
その答えを受け、アイーダが驚愕した顔を見せる。
「ほ、ほんとに? なんで?」
やっぱりわかっていても、みんな同じような反応なんだな。
「僕の薬の力さ、なんなら、ケルベロスしか知らないことでもあるんじゃない?」
「言った方がいいか?」
「それは遠慮しておくわ」
キッパリとそう告げるアイーダ。
まあ、言ったら言ったで変な空気になりそうだし、やめておくか。
「そうだ! 折角だしさ!」
パリスが表情を明るくして、手を鳴らす。
「二人で街に買い物をしに行きなよ!」
・・・・・・・・・・・・。
「「え?」」
動揺する俺たちだった。
カミラ「最後まで読んでくれてありがとうございます。どうでしたか? ふふふ。なんだか甘酸っぱいことになってるわね。私も、見守っててドキドキするわ。それでは、また次回もよろしくね」




