二十五話 番犬。否。人である
マトイ「お、また俺なのか。パリスとかに頼まなくていいのか? ま、いいや。じゃあ本編だ。読んでってくれよな!」
結局。パリスに薬を飲まされた日は一日中寝たっきりだった。まあ、体が変化しているんだから、相当な負担がかかっていたんだろう。
そして、翌日。
「やあ、ケルベロス君。おはよう」
「おう。おはよう」
寝た状態でパリスと挨拶を交わす。
昨日は動けない代わりに発音をひたすら練習した。そのおかげで、会話はスムーズに行えるようにはなった。
「どうだい? 気分は」
「どうだいって言われてもな。まだ、体を動かせる感覚がないぐらいだ」
首をパリスの方へ向けるのも精一杯なのだから。
「そうかい・・・・・・。じゃあ、今度はこれを飲んでみてよ」
そう言って、パリスが緑色の液体を取り出す。
飲む・・・・・・。
「・・・・・・死なないか?」
「なんでわざわざ実験体を殺すようなまねをするのさ」
さらっと実験体って言われたんだが。やだ。この人怖い。
まあ、昨日のあの禍々しい物体より見た目はましか・・・・・・。
・・・・・・俺、普通に飲む気だったことに自分で驚いてるんだが。
「まあ・・・・・・いい。死ぬとしても、飲むしか道はないんだろう?」
「なんか僕毒を飲まそうとしてるみたいですごい悪者感がある気がするんだけど」
俺のことを《実験体》って言った時点でどうみてもやばいやつだろ。
「あばよ。魔王・・・・・・」
「・・・・・・ねえ。そろそろこの茶番終わってもいいかな? 喋れるようになったからって調子にのっちゃだめだよ?」
なんだ。調子にのってたのばれてたのか。
「喋るって面白いな」
「はいはい。ほら、早く飲みな」
どうやら、パリスはもう俺の茶番に付き合ってくれる気はないらしい。残念。
「じゃあ、俺飲めないから口の中に流し込んでくれ」
「わかったよ」
そう言って俺は大きく口を開く。これだけでもかなりの力を使う。まったく。不便なものだ。
その口の中に、パリスが緑色の液体を口に流す。
「・・・・・・どう? お味の方は」
「無味無臭。ただの水・・・・・・いや、すごいねっとりしてる」
味も匂いも無いのにねっとりしてるから、すごい口の中が気持ち悪い。
だが、今までの薬のように気絶するようなことは無かった。
「どう? なんも無いでしょ?」
「口の中がねっとりするけどな」
「これでも頑張ったんだよ? 脳に危害を加えないようにするのにさ」
普通は薬で気絶するようなことはないと思うんだがな。
ゴクリと、全ての薬でを飲み込む。すると、先程までが嘘のように、体が軽くなり、動かせるようになった。
「なるほど、体を動かせるようにする薬だったのか」
「いや? 変化の副作用で体の不自由があることが分かったから、それを解除するための薬だよ?」
そうパリスがさらっと・・・・・・。
俺は起き上がろうとしていたところで動きを止める。
「おい。あれは慣れじゃなくて副作用だったのか?」
「うーん。慣れ二、副作用十かな」
「無理やり慣れに振っただろ」
それじゃあ薬・・・・・・じゃなくて、もはや毒じゃないか・・・・・・。
「はい。これ、服と鏡。僕は今回の実験のまとめを書かないといけないから、自分の体眺めたり服着たら向かいの部屋に来てね」
「ああ、わかった」
そう返事をすると、パリスがスタスタと扉から出ていく。
・・・・・・自分の体か。
俺は動かし方を確認しながら、自分の体を見る。
俺のチャーミングポイントだった長い毛は全てなくなった。頭部にある毛も・・・・・・もふもふとは程遠いな。
次に鏡で顔を確認する。
だるそうに垂れる両目に、背中まである長い髪・・・・・・。なんだ、俺の毛は全部頭に行ったのか。まあ、顔の形は目を除けば整っていると言える・・・・・・だろうか?
まあ、犬である俺にしてみれば、この人間の姿もよくわからんがな。
あと、体の部位を隠すのも。・・・・・・・・・・・・いや、それは普通か?
そう考えながら、俺は服を着る。
「・・・・・・さてと、あいつの部屋に行くとするか」
たしか、あいつの部屋はこの部屋の向かいって言ってたっけか。
というか、すんなりと服を着たが、よく着方わかったな。俺。人間の生活とか全然知らないんだがな。
ま、どうでもいいか。
俺はドアノブに手をかける。
そして、ドアノブをひね・・・・・・。
バキッ!
・・・・・・・・・・・・やばい。
俺の手には、居場所の無くなったドアノブが握られていた。
「まったく。何をしてるかと思えば、ドアノブで遊んでいたのかい?」
「いや、力加減を失敗した」
部屋から出れなくなったことで、若干のパニックに陥っていたところにパリスが来たのは、それから随分たった時だった。
「力加減を失敗? ふむ。なんだ、人になっても元々のステータスは変わらないのかな? 君の三つの能力は使えるかい?」
「・・・・・・さあな。やってみるか」
「うん。その検証結果は欲しいかな」
パリスにそう言われ、俺は、自分の腕に透明化。巨大化。強化の三つの能力を発動する。
「うんうん。普通に使えるみたいだね」
人の状態にも関わらず、腕は犬の時と同じように大きくなり、透明になった。
「じゃあ、強化の方だけど。そのドアノブを壊す気で握ってくれないか?」
「ん? あぁ。わかった」
俺は手に力を入れる。すると、いとも容易く歪な形に変化する。
なんか、犬の状態よりも強力になってる気がする。
「うん。なんか元々よりも強くなってる気がするけど、本人である君はどう思う?」
「元よりは強力になってる・・・・・・気はするな」
実際に比較してみればいいのだが、まあ・・・・・・あの感覚はもう味わいたくないからな。
「うんうん。なるほどね」
満足したような顔で、スラスラとメモをとっていくパリス。
「オッケー! じゃあ、次の段階に移ろう!」
勢いよくメモ帳を閉じて、満面の笑みでこちらを向く。
「・・・・・・次の段階?」
「そうさ!」
一体何を・・・・・・。
そんな俺の表情を見て、パリスが口を開く。
「今から、魔王街に遊びに行きます!」
・・・・・・・・・・・・は?
「おい。待て、それはなんか色々とまずい気が・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・言い訳が思いつかない。
「じゃ! 行こうか!」
どこから取り出したのか、パリスの手にはもう箒が一つ。
「あ、ちなみに」
一人箒に跨って、パリスがこちらを見てこう言う。
「身体能力の変化の記録も取りたいから、走って行ってね!」
・・・・・・・・・・・・。
「はあぁ?!」
「僕を止めないと、君がとんでもないことをされるような噂をたてちゃうからね? じゃ!」
「おい! 待ておま」
「よーい! ドーン!」
俺の言葉も聞かずに、パリスが窓から飛び立つ。
・・・・・・ここから走って?
いや、無理無理。方角が・・・・・・。
と、俺の手からいきなり光の矢印が現れる。
・・・・・・・・・・・・。
「ちくしょおおおぉぉぉ!」
俺は街に向かって本気の強化を使って走り出した!
マトイ「最後まで読んでくれてありがとよ! どうだったか? なんか、擬人化っておもしろいよな。人じゃないもんが人になるんだからな。俺があっちで好きだったのは・・・・・・スライム娘かな(照)。ま、まあ! 次回もよろしく!」




