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第九話「結末」

 キットはレジスタンスの司令潜行艇のホロディスプレイに映るリアルタイム映像を凝視しながら、艦内放送で呼びかける。


「水口さんっ! 水口さん! 生きてますかっ?

 原田さんっ! 一体あんたどういうつもりだ!?

 皆に助けて貰っておいてなんてことするんだっ!」


 ロッカーから零式熱小銃を構えたまま原田がフラフラと歩み出て周囲をキョロキョロと見回す。

 そして遂に天井、キットが映像を監視しているカメラを見つけ、そちらに顔を向ける。

 その顔は恐怖に歪み、口元は何度も歯を食いしばりながら断続的に息を止めるようにして踏ん張ろうとしているように見えた。

 だが視線だけはゆっくり冷静にカメラを見極めている。


「ふっ! はっつ! はぁ……はぁ……」


 口だけは得体の知れない挙動をさせて喘ぎながら、原田は銃を構えなおし、キットのいるメインデッキへ向けて歩き始めた。

 キットはメインデッキの作戦立案用のホログラムデスクを盾にして上半身を載せて零式熱小銃を構える。

 狙う先は原田が現れるであろう廊下からの入り口である。

 原田が艦内を歩く足音が刻一刻と近づいてくる。

 キットは人を銃で撃ったことはまだ一度も無い。

 扱い方だけはつい昨日教えて貰っただけ。

 正直撃たないで済むなら撃ちたくなかった。


 遂にドアがスライドして開き、銃を構えた原田がキットの真正面、10メートル先に姿を現した。

 キットは叫ぶ。


「銃を捨てろ! 捨てないと撃つぞ!」


 原田は銃をキットに向けて構えたまま降ろす気配は無い。

 キットの額を冷や汗がしたたり落ちる。

 自分に銃口が向けられていて、発射されれば自分は死ぬ。

 自分も相手に銃口を向けているが、こちらが指を動かせば相手はそれより早く自分を射貫くかも知れない。

 ひょっとすると自分は指の反応の遅さゆえに、今は相手によって生かされているだけかも知れない。

 口をパクパクと動かし、泡まで吐いて口元に滴らせていた原田だが、突如口の動きが止まって静止した。

 そしてゆっくりしゃべり始める。


「お前が最後か?」

「原田! 一体どうしたんだ?」


「原田の人格は今完全に孤立した。望まないタイミングだったが仕方がない。今は好機だからな」

「……お前は一体誰だ? ……ひょっとして中国が浸透作戦として送り込み、今まで原田の頭頂葉に潜んでいた……脳に寄生しているという工作員か?」


「…………。お前と倉庫に閉じ込めている連中を媒体にする為に運ぼうと思っていたが……どうやらお前は拷問して……どこでその情報を得たのか吐いて貰う必要があるな」

「よ、寄るなっ! 原田っ! 目を覚ませ! 自分の体を取り戻せ!」


 原田はキットの持つ銃を狙撃し、反動でキットは銃を手放した。

 慌ててホログラムデスクに身を隠すように伏せる。


「原田はもう帰ってこない。覚醒してしまえばもう主導権を渡す訳にはいかない」

「止まれっ! 本当に撃つぞ!」


 原田はさらに一歩進む。


「脳細胞が死ねば私にも害が出る。原田は永久に隔離され、人格としての機能を失うまで放置される。それを促進するために視覚、聴覚、全ての感覚がそこへ流れるのを遮断する。

 そして人格を失う状態を発狂という。

 それはお前の未来でもある」

「頼む原田! 止まってくれ。起きてくれ! 俺はお前を撃ちたくない!」


 原田はすこし背伸びしてホログラムデスクの後方に転がったキットの銃を確認し、さらに一歩進む。


「お前の銃は徹甲弾を受けて破損して撃てない。

 そして我々は記憶領域の解明を澄ませている。お前はここで起こった出来事を物理的に忘れる事になる。一緒に周辺のメモリーも破壊されるがな」

「最後の警告だ! 止まれ怪物!」


 原田はさらに一歩進み、キットが隠れるホログラムデスクを覗き込もうとした。

 だがその瞬間零式熱小銃の発砲音が響き、原田は横から側頭部を撃ち抜かれてその場に崩れ落ちた。

 原田の横の離れた場所にある太いパイプとパイプに挟まれた影の部分に、別の零式熱小銃が設置してあり、プラズマ燃焼のオゾン臭を放っていた。

 零式熱小銃にはオートトリガーモードがあり、カメラに映るターゲットに有効打を与えると判断した際に自動的に発射される機能がある。

 キットはそれをトラップとして使用していたのである。


「はぁ……、はぁ……」


 キットは意識が遠のきそうになりながら足を引きずって倉庫前まで移動し、ロックを解除した。

 そしてそのままその場に倒れ込む。

 同時に倉庫からは閉じ込められていたクルー達が走り出る。


「大丈夫か!?」

「原田は? 原田はどこへ行った?」


 キットは苦しそうに答える。


「原田は死んだ。それより水口さんを……」

「……酷い、これは重症だ。早く医務室へ運べ!」


 キットはそのまま意識を失った。



 翌日、キットは艦内の医務室のベッドで目覚めた。

 隣を見ると水口が包帯だらけで点滴を受けながら横たわっている。


「目覚めたか? キット」


 医務室のキットのベッドの横にカイやワンが入り込んで立つ。


「たった一人でよく頑張ったキット」

「君に命を救われた。礼を言おう」

「そうか、皆無事に脱出出来たんですね?」


「あぁ。だがこんなことは想像すらしていなかった」

「私達は今まで、運が良かっただけ、たまたまトラップを逃れていただけという事だ」

「司令潜行艇からのハッキングは……今後は止めた方がいいだろうね。直接現場に赴いて、直接ハッキングをしなければ偽装を見破れない」


「そうだな。ますます君の力が必要になるだろう」

「それより、原田は……」


「脳を撃ち抜かれて完全に死亡していた。原田の行動と君との最後のやり取りの録画映像を分析中だが……、君にも話を聞きたいと思っていたところだ。

 だが今は治療に専念してくれ」


 カイとワンが部屋から立ち去り、キットは傍に用意されていたドリンクを一口飲んだ。

 自分が今日知ったこと、自分に託された物。

 その大きさを認識するにはまだ少し時間がかかりそうである。

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